講師紹介
三田村雅子さん

学校長の推薦コメント

国文学研究者のための専門誌『國文学』で
枕草子が特集されたとき、
橋本治さんと、同世代の国文学者である
三田村雅子さんが対談をしていて、
気持ちのいい応酬をしているなあと
思いながら読みました。

橋本さんの大ファンを公言する三田村さんは、
時に、橋本さんにある部分
甘えるようなところを見せながら、
古典文学の専門家として
自らの思うところを率直にぶつけている。

そして橋本さんも、それを喜んで受けている。

そんな様子が伝わってくる、
実に気持ちのいい対談でした。

三田村さんの著書
『源氏物語 天皇になれなかった
皇子のものがたり』などを読むと、
橋本さんの『窯変 源氏物語』への
深い敬意と高い評価を
うかがい知ることができます。

『窯変 源氏物語』とは
どのような意義を持つ作品なのか?
「橋本源氏」は、いかに周到に準備され、
どれほど独創的な成果を生み出したのか?
源氏物語の専門家の目から
きちんと跡付けてもらいたいと考えたときに、
三田村さん以上に適任の方は
見当たりませんでした。

大学の講義を遥かにしのぐ
授業が期待できると思います。

講師のことば

ずっと橋本さんの大ファンでした。同世代でもあり、
最初に知ったのは東大駒場祭のポスターです。

その後大ヒットした『桃尻娘』の
文体に心惹かれましたし、
『桃尻語訳 枕草子』には本当に感動しました。

何がすばらしいかというと、断片の知識ではなく、
すべてのことを体系的に位置づけてから
言葉を説明するスタンス。

納得いくまで奥行き深く調べて、
しかもそれを伝えるときは、わかりやすく、
押しつけがましくなく伝える。

あの手を抜かない力のすごさ、態度がすばらしい。

『源氏物語』は私の専門ですから、
橋本治さんの『窯変 源氏物語』の刊行が
はじまったときから、
出るごとに読んで感動していました。

紫式部の『源氏物語』には
書かれていない部分が多く、
沈黙の領域にゆだねられているところが
たくさんあるために、それをどう解釈するかは
学者の間でも意見が様々にあるのですが、
橋本さんの源氏論は学問的に見ても
最高水準といっていいすばらしさです。

そして、それ以上に、橋本さんが描く
悪意に満ちた光源氏のいやらしさが本当に魅力的です。

『源氏物語』は平安の恋愛事情のように
読まれることが多いけれど、
実は恋愛を通じて当時の権力構造を描いていて、
私はむしろその側面が重要だと思っているのですが、
橋本さんはそこをぴしっと言葉にしていらっしゃる。

『源氏物語』が出る前は、
物語は基本的に女性が読むものだったけれど、
『源氏物語』は一条天皇はじめ
男性がこっそり読んでいたし、
紫式部もそこを意識して書いていた。

光源氏の男性一人語りという形をとった橋本さんの
『窯変』(かまどで焼き色が変化した) 光源氏は、
そういう男たちの問題を暴き出します。

『窯変 源氏物語』の奥深さと魅力について、
いっしょに考えていきましょう。

三田村雅子みたむらまさこ

『源氏物語』と『枕草子』を主な専門とし、幅広い観点から古典文学を捉える国文学者。早稲田大学大学院博士課程単位取得修了。元上智大学教授。フェリス女学院大学名誉教授。NHK教育テレビの高校講座「古典への招待」で長年講師を務めた。『記憶の中の源氏物語』で蓮如賞を受賞。『枕草子 表現の論理』『源氏物語 感覚の論理』『源氏物語 天皇になれなかった皇子の物語』『100分de名著 源氏物語』など著書多数。