講師紹介桂吉坊さん

学校長の推薦コメント

吉坊さんには『桂吉坊がきく藝』という本があります。
吉坊さん26歳のときの著作です。

連載していた雑誌は朝日新聞から出ていた
『論座』(休刊)で、登場するのは桂米朝、
立川談志、茂山千作、竹本住大夫、小沢昭一‥‥
すごい人たちばかりです。若い落語家に、
こういう機会を与える雑誌企画もすごいと思いますが、
こんなすごい相手にケレン味なく、謙虚に、
でも自身の古典に対する蓄積を感じさせながら接し、
誰からも好感をもって受け入れられる
吉坊さんという存在がすごいと思いました。

吉坊師匠が伝統芸能を受け継いでいく
資質をもつ人だということがこの一冊をもって
すでに明らかです。私はもともと米朝師匠をはじめ
上方落語の大ファンなのですが、
吉坊さんの著書を読んで驚いたのは、
彼の師である吉朝師匠との出会いのいきさつです。

橋渡しをしたのが、私の敬愛する桂南光師匠。

米朝師匠亡きあと、身をいれて聞きたい落語家の
代表格です。人の縁は知らないところで
つながっているものだと驚きました。

今回、吉坊師匠と縁がつながり、このご縁を
受講生とシェアできるのが、
この上もない楽しみであり歓びです。

講師のことば

落語家になろうと思ったのは中学時代。

高校に行かないですむ方法はないかと考えて
思いついた道です。米朝師匠が人間国宝になられた頃で、
上方演芸のいい時代の映像が流れました。

ほんとは観てない世代なんですけど、
脂がのっているときの師匠の映像を観ました。

とても楽しかった。落語やったら中卒でもできる。

これや、と。米朝師匠は新弟子を取らなかったので、
吉朝のところへ弟子入りしようと思ったら
「とりあえず高校にいけ。世間見てこい」といわれました。そこで、高校に行きながら弟子入りしたわけです。

歌舞伎を初めて観たのは高校の課外授業です。

ちょうど松竹座が開場したばかりで、
中村勘九郎(当時)さんの「狐狸狐狸ばなし」や
中村鴈治郎(当時)さんの「お染めの七役」の早替わり、
踊りの最中に手拭いまで投げてくれて、
「なんちゅう太っ腹な芸能や。おもしろいなー」と
思いました。ほどなくして市川猿之助(当時)さんの
スーパー歌舞伎があったり、松本幸四郎(当時)さんの
「勧進帳」は「かっこええな!」と思いました。

東西の大看板の舞台を続けてみる機会があったのは
ありがたかったです。噺家になってから
さらに歌舞伎を観るようになったのは、
吉朝、米朝が古典芸能を網羅してる人やったことが
大きいです。弟子入りしたばかりの頃は、
知識が浅すぎて落語の話は到底できない。

でも、歌舞伎の話なら知らなくてもおこられないから
質問ができる。もちろん好きだったというのはありますが、
それ以上に師匠と話をするきっかけとして
歌舞伎があったと思います。

歌舞伎を扱った「芝居噺」を得意とするようになったのは、
吉朝の影響でしょうね。うちの師匠は踊りが好きで
習っていたし、かっこよかった。ぼくの
芝居噺のイメージは「かっこよくて、おもしろい」です。

芝居噺のやり方は人によって違っていて、
たとえば米朝師匠の芝居噺には声色がでてくる。

知らない人は単に「歌舞伎の真似やなあ」と思うけど、
わかる人には「羽左衛門や!」とわかる。

深いおもしろみですね。吉朝は「ここは成田屋」とか、
そんな風でしたね。歌舞伎がわかると落語が
もっと楽しめます。逆に落語を聞いてから
歌舞伎を観に行くと、2時間の歌舞伎を
15分の落語にまとめてあるので、
なんにも知らんと観る2時間より、
「助け船」がときどきでてくる分、
わかりやすさやおもしろさが違うと思います。

ぼくの会では、芝居噺ばかり3、4席をやります。

一人でやるのは初めてなので、ぼくがもつのか? 

というのはありますが、受講生の方も
力まずに観てください。歌舞伎も落語も
「隅から隅まで観ます」と力を入れると
本当におもしろいところでくたびれます。

ギア65くらいで観て、「おっ」と思ったら80に上げて、
そうでもないときは50くらいに下げて、
ゆっくり観てください。

落語も歌舞伎も今日観なくても困らないかもしれません。

明日観なくても困らないでしょう。

でも、今日観てもらったら今日の酒がおいしくなる。

いきなり今日からごはんが食べられるようには
ならないけれど、食べてるごはんが
ちょっとおいしくなるかもしれない。

そんな気持ちでごゆるりと楽しんでください。

桂吉坊かつらきちぼう

落語家。1981年生まれ。

17歳のときに桂吉朝に入門。

2000年より桂米朝のもとで内弟子修行。

2003年に内弟子を卒業。

歌舞伎や能・文楽などの古典芸能に詳しく、芝居噺を得意とする。

なにわ芸術祭奨励賞、同新人賞、繁昌亭大賞奨励賞など数々の賞に輝く。

2008年公開の映画「能登の花ヨメ」では謎の旅人として映画デビュー。

著書に『桂吉坊がきく藝』がある。

兵庫県西宮市出身。