講師紹介成毛真さん

学校長の推薦コメント

芸能としてのすばらしさと同時に、
歌舞伎がビジネスとして成立していることにも
着目する成毛さんに共感を覚えています。

民間企業である松竹は130年も歌舞伎をビジネスとして
育ててきました。ビジネスマンである成毛さんに
そういう観点から歌舞伎を論じていただくことは、
舞台上のことを論じるだけでなく、
お客さんを含めた演劇空間を語るという意味で
大きな意義があると考えています。加えて
「もっと若いときに知っておけば良かった」と
成毛さんが地団太を踏む歌舞伎の魅力とは何なのか。

知りたくないわけがありません。

必ずやおもしろい歌舞伎論を
展開してくださると期待しています。

講師のことば

「歌舞伎はつまらない」。長らくそう思っていました。

でもわからないなりに虚心坦懐に通ううち、
じわじわとおもしろさに気づき、いつしか
心からおもしろいと思うようになりました。

歌舞伎は私にとって花見のようなものです。

「観劇」ではなく「見物」に行くもの。

ど派手な衣装、ど派手なメイク、ど派手なセリフ回しは、
まるで劇場全体がお花見のよう。

しかもお弁当もっていくわけですから。
気軽に行けて、長年楽しめて、しかも
楽しんでいるうちに新たな気づきがあって
自分の成長を確かめることができる。

そんな演劇は他に世界のどこにもないかもしれません。

「成長がわかる」という意味はふたつあって、
ひとつは役者の成長。子役のころから観つづけると、
どのくらいうまくなったか、どれくらい
覚悟を決めたかがわかります。あるいは
今月は誰々から習ったな、とか。

そういう役者の成長をみる楽しみがひとつ。

ふたつめが自分の成長です。何百年も続いて
物語が決まっているだけに意外に深い部分があるのですが、
観つづけるうちに、だんだんそれが
わかるようになっていく(わからなくても楽しめますが)。

「なるほど、ここは泣けるんだ」とか、
「ここは笑ってもいいんだ」とか、
おもしろく観られる度合いが
自分の成長によって違ってくる。

歌舞伎は演目が変わらないので、
30年前に観た勧進帳といま観る勧進帳では、
同じものでも自分が成長した分、違ってみえるのです。

さらに、本を読んでたとえば
「せまじきものは宮仕え」といった表現がでてきたときに、
その元となる歌舞伎を知っていると
背景がよりよくわかるという楽しみもあります。

歌舞伎が他の演劇と違うのは、
役者の格が見えるみたいなところかもしれません。

歌舞伎は芝居よりも役者を観ているんです。ミーハーに。

そこが決定的に歌舞伎らしいところでしょう。

舞台の役者も舞台外の私生活も、
みんなミーハーに楽しむことができます。

ある役者が暴力事件を起こしたあとに
どんな舞台をやるのか、みんなが知っている
兄弟げんかをしていた役者同士が
和解したときに舞台でどんな芝居をやったのか、とか。

それ抜きに観てもおもしろくない、
といっても過言ではないかもしれません。

そうした事情がわかっているかいないかで、
見え方が全然違ってくる。

その意味でも本当に自分の成長がわかるんです。

いまや完全な歌舞伎ファンとなった私としては、
こんなにおもしろいものを
リタイヤ世代だけの娯楽にしておくのは
忍びない気持ちで一杯です。現役ビジネスマンにこそ、
先入観を捨ててとにかく観に行ってみてほしい。

そんな気持ちで「歌舞伎講座」の
舞台に立ちたいと思います。

成毛真なるけまこと

実業家。書評サイトHONZ代表。

1955年北海道生まれ。

36歳のときマイクロソフト日本法人代表取締役社長に就任。

2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイアを設立。

現在は同社取締役ファウンダー。

『ビジネスマンへの歌舞伎案内』をはじめ、『情報の「捨て方」』『ノンフィクションはこれを読め!』『教養は「事典」で磨け』『メガ! 巨大技術の現場へ、ゴー』など著書多数。