講師紹介
小泉武夫さん

学校長の推薦コメント

発酵学者として知られる小泉さんが、
古代人の食について研究なさっていたことに、
思い至り、万葉人が何をどのように食べ、
どんな暮らしをしていたのか、
みなさんに体感していただけるような
講義をお願いしました。

『日本酒ルネッサンス』という本の中で
小泉さんは神のための酒が人のためのものになり、
宴が人と人を結びつけるようになった過程を
詳しく書いていらっしゃいます。

『万葉集』にも酒を詠んだ歌が
数多く残されています。

世界のあらゆる食べ物を貪欲に探索し、
口にしなかったものがないほど
好奇心旺盛な小泉さんの
人間的エネルギーにも、この際、
ぜひ触れていただきたいと思います。

講師のことば

万葉の人々はどんなものを食べていたのでしょうか。

言うまでもなく、冷蔵庫のない時代ですから、
発酵食品が台頭しました。

なれずし。すごいです。

30年、40年たっても腐らないものがある。

あるいは、漬け物。

奈良の平城京の木簡にも、漬け物の記述があります。

当時すでに27種類もの漬け物がありました。

そして奈良時代で注目すべきは、
朝廷が管理した塩作り。そして、酒です。

それ以前の酒は「神のための酒」の性格が濃かったけれど、
飛鳥から奈良時代後期に至る130年ほどの間に、
酒は「人のための酒」になっていきました。

大伴旅人が詠んだ「濁れる酒」、
あるいは山上憶良が詠んだ「糟湯酒」など、
『万葉集』にもさまざまな場面で酒が登場します。

お酢が広まったのもこの時代です。

つまり、いまの暮らしにつながる、
たくさんの食に関する知恵を
万葉の人々は蓄積していったのです。

万葉の人は自然に沿って暮らし、
自然の中につくられた情緒の中で生きていた。

だから、あんなに
情緒豊かな歌をつくることができたのでしょう。

お金では買えないような、
現代人にはつくれないようなものを
もっていたのではないかと思います。

なんでも自由にならない時代には
常に「あこがれ」がある。

『万葉集』には、
そんな「あこがれ」が詰まっています。

食文化を通して、
そんなお話ができればと思います。

小泉武夫こいずみたけお

農学博士(専門は醸造学・発酵学・食文化論)。福島県の酒造家に生まれ、一貫して発酵を中心とする食文化を研究してきた学者であり、世界を旅して何でも食べる健啖家。東京農業大学名誉教授。『冒険する舌——怪食紀行秘蔵写真集』『くさいはうまい』『不味い』『日本酒ルネッサンス』『絶倫食』『土の話』『漁師の肉は腐らない』など140冊以上の著書がある。日本経済新聞に「食あれば楽あり」を25年間連載中。