講師紹介古川日出男さん

学校長の推薦コメント

演劇から出発した小説家として、
今の時代と切り結ぶチャレンジングな作品を、
次々と発表してきた古川さん。

自作の朗読という声(身体性)に
こだわった活動をするその姿は、400年前に
演劇という冒険に挑んだシェイクスピアに重なります。

『平家物語』を現代語訳し、
パワフルな朗読セッションを続ける
古川さんがシェイクスピアをどう読むのか知りたくて、
ご登壇をお願いしました。

講師のことば

ほとんど忘れていたのですが、
高校3年生のときに地域の演劇部合同の発表会で
「Dハムレット」と題したハムレットremixの
戯曲を書いて演出しました。

DはdifferenceのD。何が「違った」かといえば、
男子校だったのでほとんどの役を男子が演じて、
歌舞伎化していったこと(笑)。

なぜハムレットだったか?

黙示録的に感じたのでしょうね。80年代はじめ、
バブルに向かう形と世界が終わっていく形の
両方があるなかで、高校生が何か思いを託すには、
古典的なことにアポカリプティックなものを重ねて
書けばいい、と思った記憶があります。

高校時代アングラ劇に衝撃を受けて、
大学でも演劇をやってみたけれど、
自分の資質は違うと思って小説家を志しました。

ただ、最近になって自分が「演劇的作家」であることは
強烈に意識します。演劇的、というのは
プロット的に時間が一方向に流れていくのでなく、
同時に複数のことが起きるのを、
いつも頭のなかで再生させながら書いていること。

自分の小説が理解されにくい理由を考えると、
その部分のような気がします。

若いころはそんな風に自分を分析するのが嫌でしたが、
説明して糸口をつくって理解してもらう方が、
もっとその世界に入って遊んでもらったり
味わってもらえると思うようになって、
演劇的というのを封印してきたのは
やめることにしました。

古典に触れる意味

中世英語で書かれたシェイクスピアを
現代日本語にすることを
何人もの方がやっているわけですが、
中世英語はいまのイギリス人にとっても遠い言葉。

それを海を越えて文化の違うところにもってくる。

自分の方にもってくる。

そのときに何をやっているのかというと、
自分と現在、日本を発見している。

ぼくが『平家物語』を現代語訳するのも同じですが、
原文に書かれた細部のどこがわからないのか、
朝廷の何がわからないのか、
戦場に向かう侍装束の何がわからないのかを考える。

どこまでがわからないかを明確にすることで
現代がクリアにわかる。現代の範囲がわかる。

古典や外国語を学ぶのは、
その現代の範囲を広げようとする行為です。

わからない過去に触れることによって、
現代が過去の方にむかって大きく広がる。

自分を広げることができる。古典や外国語を学ぶこと、
歯ごたえのある難しい本を読むことは、
あなたを広げようとすることなのです。

古川日出男ふるかわひでお

小説家。早稲田大学文学部中退。

1998年『13』で作家デビュー。

主な著書に『アラビアの夜の種族』 (日本推理作家協会賞、日本SF大賞)、 『ベルカ、吠えないのか?』(直木三十五賞候補)、 『LOVE』(三島由紀夫賞)。

古川版『源氏物語』ともいえる 『女たち三百人の裏切りの声』で野間文芸新人賞と 読売文学賞を受賞した。

文学の音声化にも積極的に取り組み、 2007年、雑誌『新潮』に朗読CD 「詩聖/詩声 日本近現代名詩選」を、 2010年には『早稲田文学』に朗読DVD 「聖家族voice edition」を特別付録として 発表している。2016年、『平家物語』を現代語訳 (池澤夏樹=個人編集『日本文学全集09』)。

1966年生まれ。