講師紹介松岡和子さん

学校長の推薦コメント

1970年代、小劇場ブームの頃の劇評を読んで以来、
松岡さんのあふれんばかりの演劇愛に導かれてきました。

そしてある時から、松岡さんはまさに
〝シェイクスピアの伝道師〟として全作新訳にも挑み、
蜷川幸雄さんのシェイクスピア劇に
なくてはならない翻訳家となりました。

松岡さんのシェイクスピア愛あふれる講義に
ぜひ身を浸してください。

講師のことば

人生の岐路には必ずシェイクスピアの
『夏の夜の夢』がありました。

私をここまで連れてきてくれた
ラッキーな作品だと思っています。

でも本当のことを言えば、
私はずっとシェイクスピアから逃げまくっていた。

それなのにどっちに逃げても必ず
シェイクスピアに通せんぼされた。運命だと思います。

高校生のとき読んだマンガの吹き出しに
「ハムレット様」とあったのを、
「公レット様」と読みまちがえるくらい、
シェイクスピアには無知だった。

大学に入ってのぞいたシェイクスピア研究会では、
先輩が読んでいた『ハムレット』の亡霊のくだりで、
毒を注ぎ入れる耳が「ears」と複数なのが気になって
「両耳に毒を入れたんでしょうか?」と尋ねたら
先輩たちに冷たい目で見られて遁走(ごく最近、
このとおりに演じられた舞台に出会いましたが)。

大学院に進んでさあシェイクスピアを
勉強しようと思ったら、
英才集団に怖気づいてまた遁走。少しあとの時代の
劇作家ジョン・フォードで修士論文を書いたら、
フォードはシェイクスピアの影響を強く受けていて、
結局シェイクスピアを読まざるを得ず
二重に大変なことになってしまいました。

一方、大学のときに原文上演の『夏の夜の夢』に
人手不足から駆り出されて出演することになり、
芝居の魅力に目覚め、1973年にピーター・ブルック演出の
『夏の夜の夢』を、1989年にジョン・ケアード演出の
『夏の夜の夢』を見て感激して
『すべての季節のシェイクスピア』に一文を収め、
串田和美さんのオファーで94年に『夏の夜の夢』を新訳。

それを読んでくださった蜷川幸雄さんから
真田広之主演『ハムレット』のための翻訳を
というオファーを受け、それが
彩の国さいたま芸術劇場でのシェイクスピア・シリーズの
全訳、そしてちくま文庫でのシェイクスピア全作品新訳に
つながっていきました。

シェイクスピアは一作一作新しいチャレンジをしていて、
翻訳にも常にあらたな難しさがあります。

でも、絵画、映画、バレエ、ダンス、音楽、オペラなど、
ありとあらゆるジャンルに影響をおよぼし、
400年以上を経たいまも脈々と生きつづけている。

そんな作家はほかにどこを探してもいない。

それが37作とも40作ともいわれる全作品のうち
33作を新訳したいま改めて抱く
私のシェイクスピア観です。

それをみなさんと一緒に味わいたいと楽しみにしています。

松岡和子まつおかかずこ

翻訳家。演劇評論家。

シェイクスピア全作の新訳(ちくま文庫版)に 取り組んでおり、彩の国さいたま芸術劇場・彩の国 シェイクスピアシリーズ企画委員の一人。

旧満州新京生まれ。東京女子大学英文科卒業。

東京大学大学院修士課程修了。1982年から97年まで 東京医科歯科大学教養部英語助教授・教授。

著書に『ドラマ仕掛けの空間』 『「もの」で読む入門シェイクスピア』 『深読みシェイクスピア』など、 訳書に『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 『くたばれハムレット』『ガラスの動物園』など多数。

1942年生まれ。