講師紹介岡ノ谷一夫さん

学校長の推薦コメント

生物心理学者として鳥の「求愛のうた」を研究し、
言葉の起源をうたに見出す岡ノ谷さんが、
『ロミオとジュリエット』を読み解いたら
どんなに独創的なんだろう。

それが聞きたくて、講義をお願いしました。

文学やルネッサンス音楽にも造詣が深く、
ユーモアあふれる「おかぽん先生」の
人間的魅力もぜひ味わってください。

講師のことば

わたしは生物心理学者として、
『ロミオとジュリエット』を読み解こうと考えています。

よく知られているように、この作品は
家同士の抗争であると同時に恋愛物語です。

進化生物学には「メスによる選択」という
考え方があります。メスは栄養のある配偶子(卵子)を
つくるのに対して、オスは栄養がなく遺伝情報だけの
配偶子(精子)をつくる。栄養のある配偶子を作る側が、
受精卵の世話をすることが多くなります。

すると、オスとメスの数が同数でも、
ある時期に交尾可能なものを数えると
メスの方が少なくなる。つまり、手に入りにくい。

だから有性生殖において統計的には、
選ぶのはメスなのです。

こうした生物学的視点からみると、
ロミオとジュリエットは
あまりに一途すぎる気がしますが、
どうしてそんなに一途なのか?

そして、ジュリエットのなかに
「ロミオでいいのかしら?」という
迷いはなかったのか?

こうした観点から、『ロミオとジュリエット』を
じっくりと読み解きます。

オスの戦略とメスの戦略の差異が果たして
彼らの行動に見られるのか、見られないのか、
というのがひとつのテーマです。

もうひとつのテーマは、内集団と外集団。

生物は、血縁関係のある個体同士で内集団を作って、
それ以外の外集団と区分します。しかし人間の場合、
概念や利害関係によって内集団も外集団も
拡張されることがあります。

『ロミオとジュリエット』は家の中、
つまり内集団を大切に思い、家の外、
つまり外集団と敵対する物語でもあります。

オキシトシンというホルモンは、
別名仲良しホルモンと言われ、
内集団の親和性に関わるという
研究成果が出つつあります。

『ロミオとジュリエット』をネタに、
仲良しホルモンの作用についてお話します。

放課後は、私のリュート演奏も聴いてください。

岡ノ谷一夫おかのやかずお

動物行動学者。東京大学教授。

慶應義塾大学文学部卒業後、 米メリーランド大学大学院で博士号取得。

理化学研究所脳科学総合研究センター 生物言語研究チーム・リーダーなどを経て、 2010年より東京大学総合文化研究科教授。

小鳥のうたの進化と機構から 人間言語の起源についてのヒントを得る 研究で知られる。『「つながり」の進化生物学』 『脳に心が読めるか?——心の進化を知るための90冊』『言語の誕生を科学する』(小川洋子さんとの共著) など著書多数。1959年生まれ。

写真で手にしているのは、 シェイクスピアの時代に 庶民が持っていたものと同じ型の 「ルネッサンスギター」。