スペシャルイベント 
 川田伸一郎さん日橋一昭さん田島木綿子さん

ダーウィンの贈りもの I 講座 プレ・イベント

川田伸一郎さんの

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この講座について

シェイクスピア、歌舞伎、万葉集につづくほぼ日の学校の講座は「ダーウィンの贈りもの I」。そのスタートを前に、2019年4月4日、国立科学博物館の「大哺乳類展2」を貸し切りにして、ナイトミュージアムを開催しました。展示室観覧につづき、キュレーターを務めた研究員お二人に加えて、各地の動物園でユニークな展示を行ってきた日橋一昭さんをお迎えしてスペシャルトークを行いました。

講義ノート

河野:まずは自己紹介と、日橋さんからは展示をご覧になっての感想をお聞かせいただけるでしょうか。

日橋:井の頭自然文化園で数日前まで園長をやっていましたが、新しく作られた東京動物園協会教育普及センターという所にディレクターとして着任しました。これまで、40数年間「背中に(責任をもつ)動物が乗って」いたんですけど、それがなくなった。不思議な感じです。ちょっと寂しい。私は小さい時から博物館に来るのが好きで、亡くなった親父が変わった商売をしていまして、競輪選手だったんです。それで、雨が降るとヒマなんですよ。雨が降ると、東京へ連れて来てくれて、上野動物園と科学博物館に行くんです。上野動物園はいつも雨だったから、おサルの電車は乗れなかった辛い思いもあるんですが(笑)、科博に来て、小さい時だったから、恐竜の展示のところが怖くて一人で入れなかった思い出があります。生き物大好きで、私の先輩はだいたい「飲んべえ」が揃っていまして、剥製のことを我々は「乾き物」と呼んでます。生きてるほうをいつもやっていましたが、乾き物も素晴らしくて、今日は感激するような展示で、本当に素晴らしいです。今日は楽しい時間が過ごせればと思います。よろしくお願いします。

河野:ありがとうございました。次に、ご専門のことも含めて、田島木綿子先生から自己紹介をお願いします。

田島:私は、学生の時に科博に出入りすることになって、もう今年で20年目くらいになってしまうと思います。そもそも獣医大学を出たので、動物がすごく好きだっていうことは変わらなかったんですが、なぜか、その中でも、海の哺乳類を専門にしています。最初は、牛の獣医になるか馬の獣医になるか悩みましたが諦めて、その後は海の哺乳類になったんですけど、私の専門は病気にまつわるいろんなこと。病理学が好きで、それを今でも自分の専門としてやっています。博物館に勤めて、いろんなことを学んで、全国の海岸を飛び回っています。その集大成として、今回、「大哺乳類展」をやらせていただいたので、みなさんに少しでも喜んでいただければと思います。

河野:それでは、川田伸一郎先生、お願いします。

川田:川田でございます。僕は哺乳類はもともと好きじゃなかったんだよなぁ、たぶん。子どもの頃は、虫、ずっと虫ですね。大学入るまで虫が大好きだったんですけど、大学四年生になって、研究室に入って、「虫やるぞー!」と思ったら、「ネズミかコウモリかイノシシの染色体をやりませんか?」と言われて、それ以来、哺乳類ですね。最初はネズミをやっていたんですけど、ネズミを捕まえて来ると、たまにモグラの仲間のヒミズっていう、ちっちゃい、土に潜るのが得意じゃないモグラがいるんですけど、それが獲れて、見た時から、「あぁ、これはおもしろいなぁ」と思い、モグラを調べて24年くらいになるのか。そんなことで、世界中飛び回って、モグラを捕まえては調べております。

はじまりはチーター

河野:ありがとうございます。展示を拝見していて、「へぇ」というか、本当に知らなかったことがあって、もっとお時間があって細かい話を伺えば、さらに膨らんだと思いますが、それでも十分びっくりするようなことがたくさんありました。9年前に、これに先立つ「哺乳類展」をおやりになって、今回のテーマ「みんなの生き残り大作戦」にたどり着いていくまでのプロセスを、田島さん、川田さんのお二人から聞かせてください。

田島:たぶん、「ロコモーション」をやろうっていうのが最初ですよね。「ロコモーション」が、おもしろいテーマだったからっていうのが最初です。

河野:「ロコモーション」というのは、「移動する」というところですね。

川田:はい。「ロコモーション」になった経緯は、ずっと付き合いのある山口大学共同獣医学部の和田直己教授に最初に出会った時、彼が手紙を書いてきたんですけど、「俺は、チーターがなんであんなに速く走れるのかが知りたいんだ」って言って、なんか夢のある手紙を送ってくれました。「おもしろい人だなぁ。とりあえず会ってみるか」と思って、会って酒を飲んだら、意気投合しまして、以来、うちで動物園で死亡した個体を頂いて標本にしたり、調べる仲間を作っていろんなことやっているんですけど、その中枢的な存在です。そのうち、ロコモーション研究を始めました。それで、「こういう展示の企画があるんだけど」という話をしたら、「是非関わらせてくれ」となったのが、最初なんでしょうかね。それとは別に、僕の目論見としては、9年前の展示は完全燃焼できていないくらいしか標本を置けなかったので、もっと埋め尽くすくらいに置いてみたら、どんな感じに人々は見てくれるのかなという興味があって、こんな感じになったというところはあるかと思います。

河野:本当にすごい数ですよね。

川田:はい。

河野:これほどの点数の剥製が並ぶことはあったんですか、過去に。

川田:たぶん初めてだろうと思います。哺乳類の標本を500点並べた展示は今までなかったんじゃないかと思います(笑)。

河野:あれだけの剥製を集めたポスターを見たら、じっとしていられなくなるのが普通の感覚で、これはものすごい迫力だと思います。真ん中の「大行進」が、この展示の目玉なのだと思いますが、やはりあれだけ集まったら壮観でしたか? 普段、剥製に接しておられるわけですけれども、ああいうオールスター総出演みたいな場面は。

川田:収蔵庫には実はもっといっぱいあって(笑)、それを普段から見ているのですが、やっぱり、ああいうふうに配置して、分類群順に配置してみたのは僕も初めてなんで、やっぱりおもしろいもんですよね。展示場内で説明させてもらいましたけど、全然違う所に似たようなものがいたりっていうようなところがわかりやすくなる、という意味で、いい効果が得られたんじゃないかなと思います。

河野:田島さんは、解説の中で、ご専門がクジラだというお話もされていましたけれど、担当コーナーとしてはクジラの部分がそうですよね。

田島:そうですね。コーナーでいうと、「ロコモーション」は和田直己先生で、「食べる」は川田さん、「哺乳類の産む、育てる」を私と、三人がそれぞれコーナーを持ちました。真ん中の「大行進」は基本は川田さんがやりつつも、それぞれの展示はやろうということで、私は「産む、育てる」コーナーをちょっと力説させていただきました(笑)。

剥製ができるまで

河野:今日、ここで何をお話ししようかなと思うんですけど、やっぱり、動物の骨格をこれだけまとめて見ることはなかったと思うので、いろんな種類の剥製に身近に触れて、まず、あれをどうやって作るかは、素人的には不思議だし、すごいと思います。まず、あの骨ですね。

川田:今回展示した科博のものの多くは、動物園で死亡した個体を譲り受けて、骨にするのは、皮を剥いて、皮は皮で標本にする。そして肉を取って、70℃のお湯に3週間漬けると、ああなります(笑)。

田島:本当にアナログなやり方です。我々は普通に解剖しているだけ。大きくても小さくても、やり方は変わらないです。

川田:でかいクジラになるとちょっと違うけどね。

田島:まぁね。大きな薙刀みたいな、クジラ包丁でみんなで、魔法でピュンってなるわけではないので(笑)、地道にやるしかないです。もうドロッドロになりながら。

河野:その作業はどれくらいの時間を要するんですか。

田島:クジラの場合は、地元の方にあまり待ってもらえないので、すごくやれたとしても2日しかないです。展示室のマッコウクジラですら、2日かけられたらラッキーくらいかもしれません。なので、朝から晩まで必死にやってます。

河野:その時は、解体をして?

田島:そうですね、ああいう大きい場合は、海岸の砂に一回埋めます。そして、二夏越して腐らせます。そして掘り起こしに行きます。その後は、実は展示する標本は、我々は作れなくて、専門の業者さんに頼みます。ああいう展示物はなかなか作れないので、ほとんど業者さんに頼みますから、研究用のものとはちょっと違うんです。展示用の標本というのは。ただ、骨については、我々が普通に筑波で鍋で煮て作っています(笑)。そちらも実は来ていただけたほうがわかりやすいです。

川田:骨の標本というと、つながっているイメージがあると思いますが、実は、ああいうのはごく一部で、だいたいバラバラの状態で箱に詰めて置いてあるんですよ。

河野:さっき、チーターのを見ましたけど、ああいう感じで、骨がバラバラっと?

川田:ああいう感じのバラバラの状態で、肋骨は肋骨で一袋に入れて、椎骨は椎骨で中に糸を通して首飾りみたいにして(笑)、保管してあるんです。

田島:そのほうが、研究には役立つので、それがメインですね。

河野:なかなかイメージが湧かないんですけど。

田島:そうですよね。

河野:大きな動物の場合は、引き取って、それでそこで?

田島:そうですね。キリンとかだと、引き取って。

河野:そのままで来るわけですね。

川田:いろいろですね。

河野:生体というか、死体というか、そのまんま。

川田:動物園によっていろいろで、細かくして譲り渡してくれる所もありますし、丸ごとって感じで頂けることもあります。日橋さんに話してもらったほうがいいかもしれないけど。動物園で死んだ個体というのは、だいたい獣医さんが、なんで死んだかを調べて、それが終わった段階で、博物館に寄贈してくださるので、その過程で、たとえば死因がわからなかったら細かく解剖して調べたりするような時もありますし、いろいろみたいです。

河野:なるほど。深遠な話になってきました。その「乾き物」に移行するまでの生き物を扱っておられたのが日橋さんというわけですけれども、動物園としては、その預け先というか、ある意味で、動物たちの人生を次へ渡していくような形なのかなぁと思って、今聞いていました。日橋さんは博物館と動物園の関係とか、動物が亡くなった後、そういうふうに生かされていくことを、どんな想いで見ていますか。

日橋:実は、前回の哺乳類展に来た時に、カピバラの剥製がありましてね、それが下手くそな剥製だったんですよ。私は井の頭に来る前に埼玉こども動物自然公園にいたんですけど、ラベルにそこの名前が書いてあって、とても悲しかった思い出があります(笑)。動物園の動物は命あるものですから、どうしても死にます。それまでは生きているものとして博物資料であり、子どもたちが見て楽しんだり、お客さんが癒しを求めたりとか、そういう動物なんですけれど、死んだ瞬間にモノになってしまう。その後、科学として役に立つことはとても大事で、昔はそれをしてなかったと思うんですが、最近では博物館と動物園の距離は縮まってきています。

私、キリンの大きいやつが死ぬ瞬間を見ました。オスの5メートルくらいあるキリンだったんですけど、かなり調子は悪かったのですが、立っていて、ある時、たたら(踏鞴)を踏んでバーンって倒れて、網にあたって首を痛めて死んでしまいました。解剖しました。大変な作業でした。まだ硬くはなっていない状態から始めるんですけど、関節を外すのはもう大変な作業でした。それを埋めて、リストにしようとしたら、みんな埋めたところを忘れちゃった(笑)。その後は川田さんの顔を思い浮かべて、どこが悪かったかを調べたあとは電話1本で解決できることになったので(笑)、その辺は楽になりました。それでかつ、いろいろなことに役に立ててもらえるのは非常に素晴らしい。今日もいくつか頭骨を見て、「これは俺が飼っていたやつだ」っていうのがありました。わりと役に立っているなぁというのが。自分では、その頭骨の形を知らないんですよね、遺体だけですから。「あぁ、こういうふうになっているのか」と、今日気がつきました。前はたぶん、自分の飼っているものが標本になっていると嫌だったかもしれません。今はあんまり、そう思わなくなってきているのかもしれません。ひとつには、剥製の質がよくなっているから。昔は、完全に「乾き物」状態、店先にあるタヌキの置物みたいな剥製が結構あったんですけど、今はヨシモトコレクション(ハワイの実業家、故ワトソン・T・ヨシモト氏が国立科学博物館に寄贈した大型哺乳類剥製標本約400点)みたいな素晴らしいのが入ってきて、見て美しいじゃないですか。

初めてアメリカの自然史博物館に行った時、その前に、シカゴのフィールド自然史博物館にも行ったんですけど、もう別物だと思いましたね。感激しました。その時一緒に行った友達に、「日橋さん、これを小さい時に見ていたら、自分の人生変わりませんでしたか」って言われたほど。そういった世界があって、だんだんそれに近づいてきているかなというのがあります。やっぱり、情けない剥製だと心も動かないけど、いくつか混じってますね、まだ(笑)。やはり造形自体が美しくあってほしいと思います。生き物好きなもんですから、美しいなぁと思うんです。

哺乳類って、わりと身近なようで身近じゃないんですよ。川田さんは控え室で「昆虫屋さんだった」って言ってたけど、私も小さい時、「虫屋」です。だって、哺乳類って見るのは、イヌ、ネコとペット、あとは、校庭に飛んでるアブラコウモリと、隣のオヤジが捕まえたドブネズミとクマネズミしか知らないんです。クマなんて、なかなか見られないじゃないですか。でも動物園に来ると見られるんで、動物園屋さんにはなってしまったんですけれども、研究するなんて一歩入るのがなかなかできなかったですよね。今はこうやっていますけれども。隣に生きているのがいて、こっちには「乾き物」がいて、うまく組み合わさると、いろんなことが学べて素晴らしいなぁと思っています。

河野:今お話がありましたけど、今日見たような剥製の展示物を作るのは、専門の方がいらっしゃるんですか。皮と骨を取り出して、研究なさっている田島さんや川田さんもそこには関わって、より質のいい剥製を作るためにいろいろおっしゃったりするんでしょうか。

川田:展示用となると、やっぱり、我々の技術と時間と場所ではやっぱり作れないんですよね、なかなか。それで剥製の専門業者さんにやっていただくことが普通になっています。我々が展示以外の目的で、研究用の標本を残す、皮を残すような場合は、「仮剥製」といって、剥いて中に綿を詰めて縫い合わせるだけみたいなのがあるんですけど、まぁ本当に「乾き物」です(笑)。やはり展示用のものとなると難しい。あれ結構、時間かかるんですよ、大きいものだと。剥製屋さんでも、半年くらいかけて作ってますから。

河野:そういう技術は日本は進んでいるような気もするし、一方で、やる人が減っているような気もするんですけど、どちらなんでしょう、今は。

川田:絶対的に減っています。まず、剥製の需要がない。昔だと、家の壁にシカの頭が掛かっていたり、わりと普通だったと思うんですけど、今はそういうのが毛嫌いされる時代なんでしょうね。ですから、剥製をそういう所に作ってもらうのは、もうほとんど博物館だと思います。

100年後、200年後の研究者のために

河野:根本的な質問になるのでしょうけれど、剥製をこういうふうに展示するために作るのは、教育とか啓蒙とかいろんな目的ではあると思うんですけれど、おっしゃったように、たくさんの剥製を作ることで動物たちの痕跡を残すというか、生きた姿をとどめていくという面がある。そもそも剥製を作って残すことに、どういう目的があるのでしょう。どういう想いでいつもやってらっしゃるんでしょう?

川田:我々がやる、いわゆる「仮剥製」という研究用の剥製を作る場合は、できるだけ「種」というより「個体」の外の状態を残すため、という感じでやっています。だから、我々が研究用に使う標本は、今回の展示では、クマの剥製とかいくつか出ていますけど、ああいうのはそんなたくさんは作らない。とりあえず展示に使えるのが1つ2つあればよくて、それ以外のものは、なめし皮にしたり、あるいは綿を詰めただけで固めたり、そんな感じでやります。そういうものをできるだけたくさん残しておくことがまた大切で、なぜなら、かのチャールズ・ダーウィンさんも言ってますけど、「個体には変異がある」から。少しずつみんな違う。そういうのは、たくさんないと評価できないので、僕が生きて、この博物館にいる間に、そういうものをどれくらい残せるのかなっていうのをひとつのテーマにして仕事をしております、僕は。だから、個体ひとつひとつの記録として、毛皮があり、骨があり、DNAのサンプルも残しています。そういうものを作って、次の世代に引き渡すのが大切なことなんじゃないのかなぁと思ってやってますね。

河野:ただ、進化というと、とんでもない時間のスケールで物事が変わっていく。今、手元でひとつひとつを大事にしながら標本をたくさん作っていく、その中にも大きな変化が込められているのかもしれないけれど、すごく長い時間の中で見たら、本当にそこに変化があるかどうかもわからないようなことではないですか?

川田:僕はそうは思っていなくて、たとえば、短い時間尺度で起こる進化というのも存在するわけです。だから、進化がどういうスピードで進むかは、その集団の構成、あるいはサイズ、そういうものがかなり影響してくるので、必ずしも長い時間が必要じゃないかもしれないと思っているんです。たとえば、僕がわりと頑張って集めているものに、五島列島の福江島で野生化したクリハラリスという台湾原産のリスがいます。毛皮と骨がセットでたぶん、600700セットくらいあると思います。これは野生化して、完全に駆除するのは難しいと思うんですよね。島の環境なので、かなりそこで増えて同系交配も進んでいて、ある意味では、ちょっと何かがあったら、ある形質がどんどん偏ったような形になっていく可能性があると思うんです。そこで、それを調べる。短い時間尺度といっても、僕が生きている間には見られないかもしれない。それでも、僕が今残しておけば、100年後、200年後の研究者が、それを調べる材料として使えるかもしれない。だから、それくらいの、僕が死んだ後しばらく経ってからくらいの目標みたいなものは持ってやっているということになるのかなぁと思います。

河野:それでも、今の我々が感じている、仕事が評価される時間軸から比べたら、はるかに長いことを想定してやってらっしゃる仕事だなぁと思います。

田島:わかってないことがたくさんあるので、そういう「無駄な」というか、ふだんの作業の中でわかるというのも大事だと思うので、わからないことを突き詰めていくのが日々の積み重ねなのかなぁと思ってやっているところもある、かな。なので、たくさん集めるのもいいだろうし、毎日毎日作り続けるのも大事。

川田:要は、あまり「自分で何かをやるために」とかで残してないんだよね。

野生のキリンと動物園生まれのキリン

河野:日橋さんは、そういう博物館の方たちの、動物への接し方を聞いておられて、どうですか?

日橋:私たち動物園も博物館の一員なんですよ、博物館法の中では。生きた標本です。ですから、我々も普通の人には「動物何頭いますよ」とか言いますけど、本来は、何種、何点と数えているんです。ゾウも1点で、ネズミも1点。そういう数え方をしています。今、長い時間の話をしていましたが、生きている動物で、希少種については、遺伝的な多様性を残しながら、将来100年にわたって残すとか、そういったプログラムをしっかり持って、その中で仕事をしているんです。まぁ、なかなか厳しいですけど。

時々思うんですけど、遺伝的にはしっかりしていても、形質が変わる可能性がいくらでもある。体の形質が変わってしまう。私が子どもの頃って、日本に来るキリンは、みんな野生から捕ってきたキリンが来ていたんですね。途中からそういうことがなくなって、動物園生まれのキリンになって、悲しいかな、足が短いんです。野生のキリンに比べて、ちょっとバランスがおかしい気がします。初めてアフリカから来た連中は足が長いんだけど、その子どもになったり、近親がかかったりすると、ちょっと短くなったりすることがあるんですね。動物園の標本って、どこの動物園で生まれて、どこで育ったかとか、そういうことはわかるんですけど、その元がどこから来たかはわからないものが結構あるし、亜種同士でかけてあるものがあったりするんですね。

1週間くらい前に、私の友達がこの展示を見てある動物の写真を撮って、フェイスブックで「これ、何?」って聞いたんです。レイヨウのハーテビーストなんですけど、簡単にわかるから、図鑑を調べようとしたら、載ってない。角(つの)の形が違うんですよ、一番近いやつと。よく調べたら、なんと悲しいことに、Wikipediaに書いてあったんですけど(笑)、亜種間雑種の個体群がいるんだそうです。それがなぜわかるかというと、ヨシモトコレクションのデータベースに撃った場所が書いてあるんです。撃った場所から検索したら、そこにそういう個体群がいると書いてある。それで驚いた。やはり標本って、そういうことが絶対大事なんです。私たち子どもの時、捕ったチョウチョにラベルをつけていたら、と思います。でもたいがい、3年くらいすると虫が食ったりして、針しかなくなっているんですけど(笑)。ちゃんとした人は残しているでしょうけれども、やっぱり標本の大事さというか、みんな、どこで捕ったかわかっているので、そういうのを見る楽しみってありますね。

河野:キリンの話は驚いたんですけど、仕入れの問題としても、野生のキリンが来るのは難しくなって、2世、3世、動物園育ちのキリンが増えているということですか。

日橋:基本的には、もう野生から持ってこないというのが原則です。もうゾウは入らないんじゃないかと思ったけど、今入るようになってきた。それは、密猟のために親を亡くした子どものゾウの孤児院みたいなのが原産国にあって、そういう所のゾウを維持できなくなったりすると、そういうのを日本に送ってきたりしています。

田島:ミャンマーからこの前入りましたよね、日本に。

日橋:ええ。ミャンマーから来たのは、札幌ですね。京都へは、ラオスから入っています。私、はな子がいた動物園なんですけど(笑)、はな子知ってますよね。あれ、ずっと1頭で飼われていたんです。もうああいう飼い方はしちゃいけないんです。オス1メス3が最低のユニットで、「1頭に500平米くらいの面積をあげなさい」っていうことになったので、おいそれと飼えなくなってきてることは事実ですね。たぶん、アフリカゾウは入れにくいかな。今、アフリカゾウ、みんな中国に行っちゃうんです。昔は、ゴリラを捕まえてくる時に、赤ちゃんしか入ってこなかったんですよ。20世紀の初めには、巨大なゴリラは「動物園では見られないだろう」と言われていたのが、今いっぱいいるわけです。赤ちゃんだけ連れてくるのはどういうことかというと、お母さんが全部殺されているわけです。赤ちゃん同士3頭で飼って、たとえば、オス1メス1とか、オス1メス2で飼っていると、その3頭は気持ちが兄妹になってしまう。ゴリラくらいになるとインセスト・タブー(近親相姦を避ける)があって、要するに、兄妹の妹がいるので、繁殖しなかったりする。ゴリラは高いから、おいそれと移動できないんですが、この頃、そういうこともやるようになってきて、ようやくちょっとずつ、ゴリラが見られるようになってきた。今、上野でもゴリラが見られますけど、それは、シドニーから来たゴリラがオスで、別の所から来たメスがいます。昔はみんな、「サルといえばバナナ」だと思っていたんですよね。ところが、野生のバナナと違って、人間が食べているバナナはすごい糖分が高いんです。野生の果物は、我々が食べてる野菜くらいなんですね。だから、動物が太ったり、成人病になったりする可能性が非常にあるので、ニホンザルでも、毛が抜けちゃったりとかすることがあるので、そういうことも変わってきています。そういうのだと剥製にもならないようなおサルになっちゃうんです。

動物園も少しずつ進化しています。前は、動物園反対論なんてなかったけれど、今は、動物を使って人間の楽しみにしちゃいけないというような考え方もあるので、楽しみだけじゃなくて、学ぶ場所であったり、癒される場所だったり、いろいろ含めて動物園は変わっていかなきゃいけないのかなと思います。そこで、ある資料は最後の最後まで使ってもらうというのが、ひとつの真摯な姿勢なのかなと考えています。

「動物園リテラシー」

河野:動物園というのは、子どもさんが行く場所という見方が続いてきたと思うんですけど、水族館も含めて、大人が楽しむような展示の仕方とか、「進化」とおっしゃいましたけど、そういう新しい取り組みが増えてきていると思います。博物館とのつながりにも関わるのでしょうけれども、新しいお仕事の教育普及センター長というのは、そういう意味での、動物園の新しい役割につながるんでしょうか。

日橋:そうですね。海外の動物園って、ミッションに書いてあるし、私たちも書いているんですが、やはり動物園の保全によって生き物が守られる。あるいは、生き物に対してリスペクトを持つようになる。それを自分たちのプログラムの中でやろうと。キリスト教の国の動物園では、「神から与えられたものを守るのは我々の仕事だ」みたいなことが書いてあって、日本人みたいに森羅万象と共に生きてる人間とはちょっと感覚が違うんですけれども、動物園のプログラムをやって、生きた動物を見ることで、動物に対してリスペクトを持ったり、野生動物の生息地を守ろうという気持ちを持つ。思うだけじゃなくて、リアクションしてほしい、というふうに、今、考えなきゃいけない。それができるようなプログラムを考えなきゃいけないんですね。とても難しいと思いますが。私も、テレビで紛争地域の子どもたちを見て「かわいそうだなぁ」と思ってじっと考えますが、テレビを消した瞬間にビールを飲んで、そのまま忘れて寝ちゃったりすることがある。それと同じで、生きている動物を見るだけでは、なかなか行動につながらないので、ちょっとしたプログラムが必要なのかなぁというふうに思います。タイに、悲しいコマーシャルっていうのがあるじゃないですか。コマーシャルを2分くらいの映像でするんですけど、報われないことをいろんな人たちにやって、最後にちょっとだけ報われるような映像が出てくるんだそうです。そのコマーシャルを見たいがためにテレビ番組を見るような、そんなシリーズがあるんだそうです。だから、たとえば子どもたちが動物園に来て、動物のことを知って、暑い時に自動販売機の前で100円玉入れようかなと思ったのを、ちょっと考えて、ペンギンの募金に入れるみたいな(笑)、そういうことをやるのが自分にとってはいいこと、かっこいいことだと思えるような教育の仕方が必要なのかなぁ。もちろん、サイエンスのことも考えていかないといけないでしょう。「動物園リテラシー」っていう言葉を勝手に作ろうと思っているんですけど、動物園の中で、その展示やいろんなことに対して、多くの方は、「かわいい」という言葉でしか反応していただけないんです。我々の商売としては、動物園のショップに行くと、かわいらしいぬいぐるみを売っているのは事実ですし、動物の赤ちゃんが生まれると、「是非見に来てください」というのも事実ですけど、そうじゃない部分がたくさんあって、その中から、我々が組み入れてほしい言葉がたくさんあるんですけど、なかなかそれができていないので、できたらいいかなと思って、2、3日前に考えたんですけど、枠取りに二文字の漢字を持って、飼育員が新元号の発表みたいに持って、そこに「美麗」とか、「進化」とか書いて、持っていたら、今なら、みんながこっちを見て、そこで会話が生まれたら、きっと「かわいい」だけじゃないのかなとわかってもらえるかもしれない。チーターを見て、みなさんがどういう二文字漢字を思うかわかりませんけれど、そんなことも大事かなと思います。

川田:すごいおもしろいですね、それ。いいですね。

日橋:昨日、1杯飲んで考えたんです(笑)。

田島:やっぱり飲む時が大事なんですね。

日橋:はい。

河野:今の日橋さんのお話について、ご感想をいただければ。

田島:素晴らしいと思いました。動物園・水族館も博物館相当施設で、まったくお仲間なので、生きてるものをやっていらっしゃるか、我々みたいに死んだ後のものを標本としているかの違いだけで、基本的に目指すところは一緒なので、いかに見世物だけにしないか、そこから何をくみ取っていただけるか、というのは同じ。それはみなさんにとっても、知的好奇心を満たすことになるし、いろんな所につながるというのを目標にもしているので、そういう意味では共通するところがあったし、日橋先生の言葉を聞いて、「あ、そういうふうにやればいいんだ」って思いました。まさに今の「令和」みたいなキャッチーなところも取り入れながら、人々の興味をこちらに向けるやり方は勉強になるので、お互い刺激し合いながらやるのがすごく大事なんだと本当に思いました。ありがとうございます。

河野:川田さん、いかがでしょうか。

川田:僕も大変興味深い話だなぁと思いました。博物館でも同じようなところはあると思っていて、たとえば、剥製にしても、つながった骨格にしても、ああいうものしか展示しないから、「ああいうものばっかりあるんだろうなぁ」という誤解が生まれているだろうなぁとは感じますね。でも、やっぱり、博物館の本質は、展示もあるんですけど、やっぱり「自然の一部を切り取って、保存しておく所」という側面があって、だからこそ毎日毎日、展示よりも標本を作っている日のほうが多いくらいな感じでやっている、そういう姿を伝えるのはむずかしいところだなぁと感じました。

世界中のどこかにいる動物

河野:今日は展示室で川田さん、田島さんの解説を聞いて、来場者のみなさん刺激を受けたり、「かわいい」以外のおもしろさに触れたと思うんですけれど、この展示を通して感じてほしい、見てほしい部分はどういうところでしょう?

田島:私がいろんな所で最近言っているのは、先ほど、日橋先生が「カピバラがひどい」「残念だ」っておっしゃったんですけど、我々がやっている動物は世界のどこかに絶対いる動物であって我々が創り出した動物ではないので、やはり、その本物になるべく正確に、忠実に、なるべく嘘がないように、というのをいつも肝に銘じなきゃいけないと思っています。そうすると、それを見ると、本当の動物を見た時にもいろいろ感じるし、その標本を見てもいろいろ感じていただけるので、そこを目指しています。あとは、我々が今回展示したものは、「世界中のどこかにいる動物なんだ」ということと、「我々と同じ哺乳類なんだ」っていうのを今一度感じていただけるといいかなぁと思っています。みなさんも是非、そういうのを感じていただければなと思います。

河野:川田さんは?

川田:だいたい同じなんですけど(笑)、いっぱい展示したのがなんでかというと、結局、いろんなものがいたり、似てるものがいたり、違うものがいたり、同じグループでも違ったり、別のグループでも似ていたり、そういうところをじっくり見ていただければうれしいなぁと思います。それが、「じゃあ、なんでそうなんだろう?」っていうところまで踏み込んで考えることができたら、またおもしろい発見が生まれるんじゃないのかなぁ。そういう要素をいっぱい詰め込んだ気がしますが、実は、そういうことがあまり展示パネルに書かれていないので、そういうところをどうやったら気づいてもらえるのかな……やっぱり、こういう解説できる場をいっぱい作るのも大切なのかなぁなんて考えているところです。

河野:やっぱり、動物園のことや博物館のことを話していくことがとても大事な時期なんじゃないかなぁという気がしますね。この展示と絡めて『へんなものみっけ!』というマンガを読んで、「へぇ、こういう仕事をみなさんがなさっているのか」と、とてもおもしろいマンガだったんですけれど、ああいうことを含めて、今度は研究者ご自身がいろんなことを発していらっしゃったらいいなぁと、今回ご一緒させていただいて強く思いました。せっかくこういう素晴らしい先生方がいらっしゃいますので、質問のある方、挙手をしていただければと思います。

質疑応答

質問者A:トークの前の講演で「微生物の力を借りて、消化する」と教えていただきましたが、生まれたての赤ちゃんに微生物はいないので、お母さんから貰う離乳食からですか?

田島:お母さんから貰いますし、食べ物を食べ始めると、勝手に増えます。

日橋:お母さんから微生物を貰うのがコアラなんです。

質問者A:そのお話を聞いたことがあったので、他のもそうなのかと思って。

日橋:その時だけ、ベチャベチャうんちが出るんです。普通は、丸っこい、ウサギのうんちみたいなのが出るんですけど、その時だけベチャベチャうんちが出て、袋から、子どもがお母さんのお尻の所に顔をくっつけて、顔真っ黒になって、不気味な状態になって食べます。それが離乳食になってますね。徹底的にそこまでというのはコアラくらいしか知りませんけれど、そういう動物もいるということです。

質問者B:剥製って重たいんですか、軽いんですか。

川田:わりと軽いです。

質問者B:中身はないんでしょうか。

川田:中は、プラスチックみたいなのが、うすーく空洞になったもの。

田島:樹脂みたいなもの。

川田:ガラを作っているんですよ、樹脂みたいなもので。だから、中は空気です。薄いプラスチックの中身を作って、それに皮を被せて、縫い合わせているだけなんですよね。皮が乾くと、すごく軽くなるので、意外と軽いです。たとえば、ニホンジカの剥製なんかだったら、簡単に、ヒョイって運べます。

質問者B:じゃあ、普段のお手入れは、外側の毛並みだけのお手入れで済むんですか。

川田:そうですね。まぁ、お手入れというか、あんまり毛並みとか整えたりもしないですけど。

質問者B:乾燥はよくないとか、あるんですか。

川田:乾燥しすぎるのはよくないですね。だから、お手入れというよりは、温度と湿度を一定した状態で保つということ。あと、光は天敵です。光が当たると、どんどん色が褪せてしまいます。あとは虫ですね。虫が付いちゃうと、どんどんかじってボロボロになる。科博の倉庫というか収蔵庫に入れてる時は、定期的に毒ガスを撒いたりとか(笑)、そういうことをやって管理しています。それがまぁ日常的なお手入れかな。

質問者C:アザラシの背中に触って「あぁ、柔らかいんだな」と思ったんですけど、剥製の毛というのは、特に加工などせず、「ソフラン仕上げ」みたいな柔らかくしたりといった処理はなく、本当に触ったそのまんまなんでしょうか。

田島:あのアザラシは、あのままです。私が作ったんですけど、普通に、川田さんにちょっと教えてもらって作っただけで、柔軟剤とかしませんけど、川田さんはたまにブラッシングして、すごくきれいにしてますよね、作業場で。楽しそうに。昨日も一人でやってましたよ、ドライヤーかけながら(笑)。

川田:まぁ、処理はするんですよ。ミョウバンっていう薬品を溶かした液に漬けてやらないと、毛がどんどん抜けてだめになっちゃうので。漬けて、水洗してっていう感じで、それで中に綿詰めて縫ったりするんですけど、体の部位によって毛の硬さが違ったりする場合って結構ありますね。お腹側の毛は、わりとフワフワの場合が多いですし、背中側の毛は、ちょっとやっぱり硬い毛になったりします。

質問者C:それが剥製になってもそのまま残ってるっていう感じなんですか。

川田:はい、そうだと思います。上手にできてるってことです、きっと。

質問者D:みなさま、長い年月、様々な形で動物と接せられていると思うんですけど、今まで一番テンション上がった発見とか、「なんかこれ、すごいなぁ」と思ったエピソードって、何ですか。

川田:僕はホシバナモグラっていうモグラを捕まえた時ですね。あれが今までで一番うれしかった。

田島:うーん‥‥、そういう感じでいくと、やっぱり、去年鎌倉に打ち上げられたシロナガスクジラですかねぇ。私、生きている間にシロナガスに会うことはできないだろうなぁと思ってたのが、いましたからね。あれはやっぱり、なんていうの、うれしかったというよりも、逆にドキドキしました。本当なのかな? っていう懐疑心のほうが大きい、でも、本物を見たら、やっぱり本当だっていうのが、夢の中にいるような感じくらい貴重な種だったので、最近でいくと、やっぱりシロナガスが一番かもしれないですね。

日橋:結構たくさんいろんなのがありますけど……

お客さん:(笑)

日橋:さっき、キリンのお話しましたけど、やっぱりキリンが生まれた時、最初に見た時、すごく感激しました。キリンは立って産むんですよね。ドーンと落っこちませんけど、体が少しずつ出てきて、最後に前足が着く頃になると、ドーンと落ちるんですね。そして、落ちた瞬間に、お母さんの羊水を頭からバーッと被るんです。それって、バケツで水かけるようにして、起こしているんですよ。次にやったのは、これ、すごく不安だったんですけど、お母さんが歩き回って、赤ちゃんの足とかを突っつくんですよ。最初、踏んじゃっているんじゃないかと思ったけれど、「早く起きなさい」って言ってるんですよ。でもお母さんは上を見てるんですよね、ずーっと上のほうにキリンの顔がありますから、下なんか見てないはずなんだけど、見てるのかな(笑)、それでチョンとやる。ゾウのお母さんは、蹴っ飛ばすそうですよ、サッカーボールみたいに。起こすために。そういうのを見ると、やっぱり、「あぁ、この商売に入ってよかったなぁ」って思います。次に生まれた時、動物園に入ってください(笑)。

河野:今日はありがとうございました。

お客さん:(拍手)

おわり

河野:まずは自己紹介と、日橋さんからは展示をご覧になっての感想をお聞かせいただけるでしょうか。

日橋:井の頭自然文化園で数日前まで園長をやっていましたが、新しく作られた東京動物園協会教育普及センターという所にディレクターとして着任しました。これまで、40数年間「背中に(責任をもつ)動物が乗って」いたんですけど、それがなくなった。不思議な感じです。ちょっと寂しい。私は小さい時から博物館に来るのが好きで、亡くなった親父が変わった商売をしていまして、競輪選手だったんです。それで、雨が降るとヒマなんですよ。雨が降ると、東京へ連れて来てくれて、上野動物園と科学博物館に行くんです。上野動物園はいつも雨だったから、おサルの電車は乗れなかった辛い思いもあるんですが(笑)、科博に来て、小さい時だったから、恐竜の展示のところが怖くて一人で入れなかった思い出があります。生き物大好きで、私の先輩はだいたい「飲んべえ」が揃っていまして、剥製のことを我々は「乾き物」と呼んでます。生きてるほうをいつもやっていましたが、乾き物も素晴らしくて、今日は感激するような展示で、本当に素晴らしいです。今日は楽しい時間が過ごせればと思います。よろしくお願いします。

河野:ありがとうございました。次に、ご専門のことも含めて、田島木綿子先生から自己紹介をお願いします。

田島:私は、学生の時に科博に出入りすることになって、もう今年で20年目くらいになってしまうと思います。そもそも獣医大学を出たので、動物がすごく好きだっていうことは変わらなかったんですが、なぜか、その中でも、海の哺乳類を専門にしています。最初は、牛の獣医になるか馬の獣医になるか悩みましたが諦めて、その後は海の哺乳類になったんですけど、私の専門は病気にまつわるいろんなこと。病理学が好きで、それを今でも自分の専門としてやっています。博物館に勤めて、いろんなことを学んで、全国の海岸を飛び回っています。その集大成として、今回、「大哺乳類展」をやらせていただいたので、みなさんに少しでも喜んでいただければと思います。

河野:それでは、川田伸一郎先生、お願いします。

川田:川田でございます。僕は哺乳類はもともと好きじゃなかったんだよなぁ、たぶん。子どもの頃は、虫、ずっと虫ですね。大学入るまで虫が大好きだったんですけど、大学四年生になって、研究室に入って、「虫やるぞー!」と思ったら、「ネズミかコウモリかイノシシの染色体をやりませんか?」と言われて、それ以来、哺乳類ですね。最初はネズミをやっていたんですけど、ネズミを捕まえて来ると、たまにモグラの仲間のヒミズっていう、ちっちゃい、土に潜るのが得意じゃないモグラがいるんですけど、それが獲れて、見た時から、「あぁ、これはおもしろいなぁ」と思い、モグラを調べて24年くらいになるのか。そんなことで、世界中飛び回って、モグラを捕まえては調べております。

はじまりはチーター

河野:ありがとうございます。展示を拝見していて、「へぇ」というか、本当に知らなかったことがあって、もっとお時間があって細かい話を伺えば、さらに膨らんだと思いますが、それでも十分びっくりするようなことがたくさんありました。9年前に、これに先立つ「哺乳類展」をおやりになって、今回のテーマ「みんなの生き残り大作戦」にたどり着いていくまでのプロセスを、田島さん、川田さんのお二人から聞かせてください。

田島:たぶん、「ロコモーション」をやろうっていうのが最初ですよね。「ロコモーション」が、おもしろいテーマだったからっていうのが最初です。

河野:「ロコモーション」というのは、「移動する」というところですね。

川田:はい。「ロコモーション」になった経緯は、ずっと付き合いのある山口大学共同獣医学部の和田直己教授に最初に出会った時、彼が手紙を書いてきたんですけど、「俺は、チーターがなんであんなに速く走れるのかが知りたいんだ」って言って、なんか夢のある手紙を送ってくれました。「おもしろい人だなぁ。とりあえず会ってみるか」と思って、会って酒を飲んだら、意気投合しまして、以来、うちで動物園で死亡した個体を頂いて標本にしたり、調べる仲間を作っていろんなことやっているんですけど、その中枢的な存在です。そのうち、ロコモーション研究を始めました。それで、「こういう展示の企画があるんだけど」という話をしたら、「是非関わらせてくれ」となったのが、最初なんでしょうかね。それとは別に、僕の目論見としては、9年前の展示は完全燃焼できていないくらいしか標本を置けなかったので、もっと埋め尽くすくらいに置いてみたら、どんな感じに人々は見てくれるのかなという興味があって、こんな感じになったというところはあるかと思います。

河野:本当にすごい数ですよね。

川田:はい。

河野:これほどの点数の剥製が並ぶことはあったんですか、過去に。

川田:たぶん初めてだろうと思います。哺乳類の標本を500点並べた展示は今までなかったんじゃないかと思います(笑)。

河野:あれだけの剥製を集めたポスターを見たら、じっとしていられなくなるのが普通の感覚で、これはものすごい迫力だと思います。真ん中の「大行進」が、この展示の目玉なのだと思いますが、やはりあれだけ集まったら壮観でしたか? 普段、剥製に接しておられるわけですけれども、ああいうオールスター総出演みたいな場面は。

川田:収蔵庫には実はもっといっぱいあって(笑)、それを普段から見ているのですが、やっぱり、ああいうふうに配置して、分類群順に配置してみたのは僕も初めてなんで、やっぱりおもしろいもんですよね。展示場内で説明させてもらいましたけど、全然違う所に似たようなものがいたりっていうようなところがわかりやすくなる、という意味で、いい効果が得られたんじゃないかなと思います。

河野:田島さんは、解説の中で、ご専門がクジラだというお話もされていましたけれど、担当コーナーとしてはクジラの部分がそうですよね。

田島:そうですね。コーナーでいうと、「ロコモーション」は和田直己先生で、「食べる」は川田さん、「哺乳類の産む、育てる」を私と、三人がそれぞれコーナーを持ちました。真ん中の「大行進」は基本は川田さんがやりつつも、それぞれの展示はやろうということで、私は「産む、育てる」コーナーをちょっと力説させていただきました(笑)。

剥製ができるまで

河野:今日、ここで何をお話ししようかなと思うんですけど、やっぱり、動物の骨格をこれだけまとめて見ることはなかったと思うので、いろんな種類の剥製に身近に触れて、まず、あれをどうやって作るかは、素人的には不思議だし、すごいと思います。まず、あの骨ですね。

川田:今回展示した科博のものの多くは、動物園で死亡した個体を譲り受けて、骨にするのは、皮を剥いて、皮は皮で標本にする。そして肉を取って、70℃のお湯に3週間漬けると、ああなります(笑)。

田島:本当にアナログなやり方です。我々は普通に解剖しているだけ。大きくても小さくても、やり方は変わらないです。

川田:でかいクジラになるとちょっと違うけどね。

田島:まぁね。大きな薙刀みたいな、クジラ包丁でみんなで、魔法でピュンってなるわけではないので(笑)、地道にやるしかないです。もうドロッドロになりながら。

河野:その作業はどれくらいの時間を要するんですか。

田島:クジラの場合は、地元の方にあまり待ってもらえないので、すごくやれたとしても2日しかないです。展示室のマッコウクジラですら、2日かけられたらラッキーくらいかもしれません。なので、朝から晩まで必死にやってます。

河野:その時は、解体をして?

田島:そうですね、ああいう大きい場合は、海岸の砂に一回埋めます。そして、二夏越して腐らせます。そして掘り起こしに行きます。その後は、実は展示する標本は、我々は作れなくて、専門の業者さんに頼みます。ああいう展示物はなかなか作れないので、ほとんど業者さんに頼みますから、研究用のものとはちょっと違うんです。展示用の標本というのは。ただ、骨については、我々が普通に筑波で鍋で煮て作っています(笑)。そちらも実は来ていただけたほうがわかりやすいです。

川田:骨の標本というと、つながっているイメージがあると思いますが、実は、ああいうのはごく一部で、だいたいバラバラの状態で箱に詰めて置いてあるんですよ。

河野:さっき、チーターのを見ましたけど、ああいう感じで、骨がバラバラっと?

川田:ああいう感じのバラバラの状態で、肋骨は肋骨で一袋に入れて、椎骨は椎骨で中に糸を通して首飾りみたいにして(笑)、保管してあるんです。

田島:そのほうが、研究には役立つので、それがメインですね。

河野:なかなかイメージが湧かないんですけど。

田島:そうですよね。

河野:大きな動物の場合は、引き取って、それでそこで?

田島:そうですね。キリンとかだと、引き取って。

河野:そのままで来るわけですね。

川田:いろいろですね。

河野:生体というか、死体というか、そのまんま。

川田:動物園によっていろいろで、細かくして譲り渡してくれる所もありますし、丸ごとって感じで頂けることもあります。日橋さんに話してもらったほうがいいかもしれないけど。動物園で死んだ個体というのは、だいたい獣医さんが、なんで死んだかを調べて、それが終わった段階で、博物館に寄贈してくださるので、その過程で、たとえば死因がわからなかったら細かく解剖して調べたりするような時もありますし、いろいろみたいです。

河野:なるほど。深遠な話になってきました。その「乾き物」に移行するまでの生き物を扱っておられたのが日橋さんというわけですけれども、動物園としては、その預け先というか、ある意味で、動物たちの人生を次へ渡していくような形なのかなぁと思って、今聞いていました。日橋さんは博物館と動物園の関係とか、動物が亡くなった後、そういうふうに生かされていくことを、どんな想いで見ていますか。

日橋:実は、前回の哺乳類展に来た時に、カピバラの剥製がありましてね、それが下手くそな剥製だったんですよ。私は井の頭に来る前に埼玉こども動物自然公園にいたんですけど、ラベルにそこの名前が書いてあって、とても悲しかった思い出があります(笑)。動物園の動物は命あるものですから、どうしても死にます。それまでは生きているものとして博物資料であり、子どもたちが見て楽しんだり、お客さんが癒しを求めたりとか、そういう動物なんですけれど、死んだ瞬間にモノになってしまう。その後、科学として役に立つことはとても大事で、昔はそれをしてなかったと思うんですが、最近では博物館と動物園の距離は縮まってきています。

私、キリンの大きいやつが死ぬ瞬間を見ました。オスの5メートルくらいあるキリンだったんですけど、かなり調子は悪かったのですが、立っていて、ある時、たたら(踏鞴)を踏んでバーンって倒れて、網にあたって首を痛めて死んでしまいました。解剖しました。大変な作業でした。まだ硬くはなっていない状態から始めるんですけど、関節を外すのはもう大変な作業でした。それを埋めて、リストにしようとしたら、みんな埋めたところを忘れちゃった(笑)。その後は川田さんの顔を思い浮かべて、どこが悪かったかを調べたあとは電話1本で解決できることになったので(笑)、その辺は楽になりました。それでかつ、いろいろなことに役に立ててもらえるのは非常に素晴らしい。今日もいくつか頭骨を見て、「これは俺が飼っていたやつだ」っていうのがありました。わりと役に立っているなぁというのが。自分では、その頭骨の形を知らないんですよね、遺体だけですから。「あぁ、こういうふうになっているのか」と、今日気がつきました。前はたぶん、自分の飼っているものが標本になっていると嫌だったかもしれません。今はあんまり、そう思わなくなってきているのかもしれません。ひとつには、剥製の質がよくなっているから。昔は、完全に「乾き物」状態、店先にあるタヌキの置物みたいな剥製が結構あったんですけど、今はヨシモトコレクション(ハワイの実業家、故ワトソン・T・ヨシモト氏が国立科学博物館に寄贈した大型哺乳類剥製標本約400点)みたいな素晴らしいのが入ってきて、見て美しいじゃないですか。

初めてアメリカの自然史博物館に行った時、その前に、シカゴのフィールド自然史博物館にも行ったんですけど、もう別物だと思いましたね。感激しました。その時一緒に行った友達に、「日橋さん、これを小さい時に見ていたら、自分の人生変わりませんでしたか」って言われたほど。そういった世界があって、だんだんそれに近づいてきているかなというのがあります。やっぱり、情けない剥製だと心も動かないけど、いくつか混じってますね、まだ(笑)。やはり造形自体が美しくあってほしいと思います。生き物好きなもんですから、美しいなぁと思うんです。

哺乳類って、わりと身近なようで身近じゃないんですよ。川田さんは控え室で「昆虫屋さんだった」って言ってたけど、私も小さい時、「虫屋」です。だって、哺乳類って見るのは、イヌ、ネコとペット、あとは、校庭に飛んでるアブラコウモリと、隣のオヤジが捕まえたドブネズミとクマネズミしか知らないんです。クマなんて、なかなか見られないじゃないですか。でも動物園に来ると見られるんで、動物園屋さんにはなってしまったんですけれども、研究するなんて一歩入るのがなかなかできなかったですよね。今はこうやっていますけれども。隣に生きているのがいて、こっちには「乾き物」がいて、うまく組み合わさると、いろんなことが学べて素晴らしいなぁと思っています。

河野:今お話がありましたけど、今日見たような剥製の展示物を作るのは、専門の方がいらっしゃるんですか。皮と骨を取り出して、研究なさっている田島さんや川田さんもそこには関わって、より質のいい剥製を作るためにいろいろおっしゃったりするんでしょうか。

川田:展示用となると、やっぱり、我々の技術と時間と場所ではやっぱり作れないんですよね、なかなか。それで剥製の専門業者さんにやっていただくことが普通になっています。我々が展示以外の目的で、研究用の標本を残す、皮を残すような場合は、「仮剥製」といって、剥いて中に綿を詰めて縫い合わせるだけみたいなのがあるんですけど、まぁ本当に「乾き物」です(笑)。やはり展示用のものとなると難しい。あれ結構、時間かかるんですよ、大きいものだと。剥製屋さんでも、半年くらいかけて作ってますから。

河野:そういう技術は日本は進んでいるような気もするし、一方で、やる人が減っているような気もするんですけど、どちらなんでしょう、今は。

川田:絶対的に減っています。まず、剥製の需要がない。昔だと、家の壁にシカの頭が掛かっていたり、わりと普通だったと思うんですけど、今はそういうのが毛嫌いされる時代なんでしょうね。ですから、剥製をそういう所に作ってもらうのは、もうほとんど博物館だと思います。

100年後、200年後の研究者のために

河野:根本的な質問になるのでしょうけれど、剥製をこういうふうに展示するために作るのは、教育とか啓蒙とかいろんな目的ではあると思うんですけれど、おっしゃったように、たくさんの剥製を作ることで動物たちの痕跡を残すというか、生きた姿をとどめていくという面がある。そもそも剥製を作って残すことに、どういう目的があるのでしょう。どういう想いでいつもやってらっしゃるんでしょう?

川田:我々がやる、いわゆる「仮剥製」という研究用の剥製を作る場合は、できるだけ「種」というより「個体」の外の状態を残すため、という感じでやっています。だから、我々が研究用に使う標本は、今回の展示では、クマの剥製とかいくつか出ていますけど、ああいうのはそんなたくさんは作らない。とりあえず展示に使えるのが1つ2つあればよくて、それ以外のものは、なめし皮にしたり、あるいは綿を詰めただけで固めたり、そんな感じでやります。そういうものをできるだけたくさん残しておくことがまた大切で、なぜなら、かのチャールズ・ダーウィンさんも言ってますけど、「個体には変異がある」から。少しずつみんな違う。そういうのは、たくさんないと評価できないので、僕が生きて、この博物館にいる間に、そういうものをどれくらい残せるのかなっていうのをひとつのテーマにして仕事をしております、僕は。だから、個体ひとつひとつの記録として、毛皮があり、骨があり、DNAのサンプルも残しています。そういうものを作って、次の世代に引き渡すのが大切なことなんじゃないのかなぁと思ってやってますね。

河野:ただ、進化というと、とんでもない時間のスケールで物事が変わっていく。今、手元でひとつひとつを大事にしながら標本をたくさん作っていく、その中にも大きな変化が込められているのかもしれないけれど、すごく長い時間の中で見たら、本当にそこに変化があるかどうかもわからないようなことではないですか?

川田:僕はそうは思っていなくて、たとえば、短い時間尺度で起こる進化というのも存在するわけです。だから、進化がどういうスピードで進むかは、その集団の構成、あるいはサイズ、そういうものがかなり影響してくるので、必ずしも長い時間が必要じゃないかもしれないと思っているんです。たとえば、僕がわりと頑張って集めているものに、五島列島の福江島で野生化したクリハラリスという台湾原産のリスがいます。毛皮と骨がセットでたぶん、600700セットくらいあると思います。これは野生化して、完全に駆除するのは難しいと思うんですよね。島の環境なので、かなりそこで増えて同系交配も進んでいて、ある意味では、ちょっと何かがあったら、ある形質がどんどん偏ったような形になっていく可能性があると思うんです。そこで、それを調べる。短い時間尺度といっても、僕が生きている間には見られないかもしれない。それでも、僕が今残しておけば、100年後、200年後の研究者が、それを調べる材料として使えるかもしれない。だから、それくらいの、僕が死んだ後しばらく経ってからくらいの目標みたいなものは持ってやっているということになるのかなぁと思います。

河野:それでも、今の我々が感じている、仕事が評価される時間軸から比べたら、はるかに長いことを想定してやってらっしゃる仕事だなぁと思います。

田島:わかってないことがたくさんあるので、そういう「無駄な」というか、ふだんの作業の中でわかるというのも大事だと思うので、わからないことを突き詰めていくのが日々の積み重ねなのかなぁと思ってやっているところもある、かな。なので、たくさん集めるのもいいだろうし、毎日毎日作り続けるのも大事。

川田:要は、あまり「自分で何かをやるために」とかで残してないんだよね。

野生のキリンと動物園生まれのキリン

河野:日橋さんは、そういう博物館の方たちの、動物への接し方を聞いておられて、どうですか?

日橋:私たち動物園も博物館の一員なんですよ、博物館法の中では。生きた標本です。ですから、我々も普通の人には「動物何頭いますよ」とか言いますけど、本来は、何種、何点と数えているんです。ゾウも1点で、ネズミも1点。そういう数え方をしています。今、長い時間の話をしていましたが、生きている動物で、希少種については、遺伝的な多様性を残しながら、将来100年にわたって残すとか、そういったプログラムをしっかり持って、その中で仕事をしているんです。まぁ、なかなか厳しいですけど。

時々思うんですけど、遺伝的にはしっかりしていても、形質が変わる可能性がいくらでもある。体の形質が変わってしまう。私が子どもの頃って、日本に来るキリンは、みんな野生から捕ってきたキリンが来ていたんですね。途中からそういうことがなくなって、動物園生まれのキリンになって、悲しいかな、足が短いんです。野生のキリンに比べて、ちょっとバランスがおかしい気がします。初めてアフリカから来た連中は足が長いんだけど、その子どもになったり、近親がかかったりすると、ちょっと短くなったりすることがあるんですね。動物園の標本って、どこの動物園で生まれて、どこで育ったかとか、そういうことはわかるんですけど、その元がどこから来たかはわからないものが結構あるし、亜種同士でかけてあるものがあったりするんですね。

1週間くらい前に、私の友達がこの展示を見てある動物の写真を撮って、フェイスブックで「これ、何?」って聞いたんです。レイヨウのハーテビーストなんですけど、簡単にわかるから、図鑑を調べようとしたら、載ってない。角(つの)の形が違うんですよ、一番近いやつと。よく調べたら、なんと悲しいことに、Wikipediaに書いてあったんですけど(笑)、亜種間雑種の個体群がいるんだそうです。それがなぜわかるかというと、ヨシモトコレクションのデータベースに撃った場所が書いてあるんです。撃った場所から検索したら、そこにそういう個体群がいると書いてある。それで驚いた。やはり標本って、そういうことが絶対大事なんです。私たち子どもの時、捕ったチョウチョにラベルをつけていたら、と思います。でもたいがい、3年くらいすると虫が食ったりして、針しかなくなっているんですけど(笑)。ちゃんとした人は残しているでしょうけれども、やっぱり標本の大事さというか、みんな、どこで捕ったかわかっているので、そういうのを見る楽しみってありますね。

河野:キリンの話は驚いたんですけど、仕入れの問題としても、野生のキリンが来るのは難しくなって、2世、3世、動物園育ちのキリンが増えているということですか。

日橋:基本的には、もう野生から持ってこないというのが原則です。もうゾウは入らないんじゃないかと思ったけど、今入るようになってきた。それは、密猟のために親を亡くした子どものゾウの孤児院みたいなのが原産国にあって、そういう所のゾウを維持できなくなったりすると、そういうのを日本に送ってきたりしています。

田島:ミャンマーからこの前入りましたよね、日本に。

日橋:ええ。ミャンマーから来たのは、札幌ですね。京都へは、ラオスから入っています。私、はな子がいた動物園なんですけど(笑)、はな子知ってますよね。あれ、ずっと1頭で飼われていたんです。もうああいう飼い方はしちゃいけないんです。オス1メス3が最低のユニットで、「1頭に500平米くらいの面積をあげなさい」っていうことになったので、おいそれと飼えなくなってきてることは事実ですね。たぶん、アフリカゾウは入れにくいかな。今、アフリカゾウ、みんな中国に行っちゃうんです。昔は、ゴリラを捕まえてくる時に、赤ちゃんしか入ってこなかったんですよ。20世紀の初めには、巨大なゴリラは「動物園では見られないだろう」と言われていたのが、今いっぱいいるわけです。赤ちゃんだけ連れてくるのはどういうことかというと、お母さんが全部殺されているわけです。赤ちゃん同士3頭で飼って、たとえば、オス1メス1とか、オス1メス2で飼っていると、その3頭は気持ちが兄妹になってしまう。ゴリラくらいになるとインセスト・タブー(近親相姦を避ける)があって、要するに、兄妹の妹がいるので、繁殖しなかったりする。ゴリラは高いから、おいそれと移動できないんですが、この頃、そういうこともやるようになってきて、ようやくちょっとずつ、ゴリラが見られるようになってきた。今、上野でもゴリラが見られますけど、それは、シドニーから来たゴリラがオスで、別の所から来たメスがいます。昔はみんな、「サルといえばバナナ」だと思っていたんですよね。ところが、野生のバナナと違って、人間が食べているバナナはすごい糖分が高いんです。野生の果物は、我々が食べてる野菜くらいなんですね。だから、動物が太ったり、成人病になったりする可能性が非常にあるので、ニホンザルでも、毛が抜けちゃったりとかすることがあるので、そういうことも変わってきています。そういうのだと剥製にもならないようなおサルになっちゃうんです。

動物園も少しずつ進化しています。前は、動物園反対論なんてなかったけれど、今は、動物を使って人間の楽しみにしちゃいけないというような考え方もあるので、楽しみだけじゃなくて、学ぶ場所であったり、癒される場所だったり、いろいろ含めて動物園は変わっていかなきゃいけないのかなと思います。そこで、ある資料は最後の最後まで使ってもらうというのが、ひとつの真摯な姿勢なのかなと考えています。

「動物園リテラシー」

河野:動物園というのは、子どもさんが行く場所という見方が続いてきたと思うんですけど、水族館も含めて、大人が楽しむような展示の仕方とか、「進化」とおっしゃいましたけど、そういう新しい取り組みが増えてきていると思います。博物館とのつながりにも関わるのでしょうけれども、新しいお仕事の教育普及センター長というのは、そういう意味での、動物園の新しい役割につながるんでしょうか。

日橋:そうですね。海外の動物園って、ミッションに書いてあるし、私たちも書いているんですが、やはり動物園の保全によって生き物が守られる。あるいは、生き物に対してリスペクトを持つようになる。それを自分たちのプログラムの中でやろうと。キリスト教の国の動物園では、「神から与えられたものを守るのは我々の仕事だ」みたいなことが書いてあって、日本人みたいに森羅万象と共に生きてる人間とはちょっと感覚が違うんですけれども、動物園のプログラムをやって、生きた動物を見ることで、動物に対してリスペクトを持ったり、野生動物の生息地を守ろうという気持ちを持つ。思うだけじゃなくて、リアクションしてほしい、というふうに、今、考えなきゃいけない。それができるようなプログラムを考えなきゃいけないんですね。とても難しいと思いますが。私も、テレビで紛争地域の子どもたちを見て「かわいそうだなぁ」と思ってじっと考えますが、テレビを消した瞬間にビールを飲んで、そのまま忘れて寝ちゃったりすることがある。それと同じで、生きている動物を見るだけでは、なかなか行動につながらないので、ちょっとしたプログラムが必要なのかなぁというふうに思います。タイに、悲しいコマーシャルっていうのがあるじゃないですか。コマーシャルを2分くらいの映像でするんですけど、報われないことをいろんな人たちにやって、最後にちょっとだけ報われるような映像が出てくるんだそうです。そのコマーシャルを見たいがためにテレビ番組を見るような、そんなシリーズがあるんだそうです。だから、たとえば子どもたちが動物園に来て、動物のことを知って、暑い時に自動販売機の前で100円玉入れようかなと思ったのを、ちょっと考えて、ペンギンの募金に入れるみたいな(笑)、そういうことをやるのが自分にとってはいいこと、かっこいいことだと思えるような教育の仕方が必要なのかなぁ。もちろん、サイエンスのことも考えていかないといけないでしょう。「動物園リテラシー」っていう言葉を勝手に作ろうと思っているんですけど、動物園の中で、その展示やいろんなことに対して、多くの方は、「かわいい」という言葉でしか反応していただけないんです。我々の商売としては、動物園のショップに行くと、かわいらしいぬいぐるみを売っているのは事実ですし、動物の赤ちゃんが生まれると、「是非見に来てください」というのも事実ですけど、そうじゃない部分がたくさんあって、その中から、我々が組み入れてほしい言葉がたくさんあるんですけど、なかなかそれができていないので、できたらいいかなと思って、2、3日前に考えたんですけど、枠取りに二文字の漢字を持って、飼育員が新元号の発表みたいに持って、そこに「美麗」とか、「進化」とか書いて、持っていたら、今なら、みんながこっちを見て、そこで会話が生まれたら、きっと「かわいい」だけじゃないのかなとわかってもらえるかもしれない。チーターを見て、みなさんがどういう二文字漢字を思うかわかりませんけれど、そんなことも大事かなと思います。

川田:すごいおもしろいですね、それ。いいですね。

日橋:昨日、1杯飲んで考えたんです(笑)。

田島:やっぱり飲む時が大事なんですね。

日橋:はい。

河野:今の日橋さんのお話について、ご感想をいただければ。

田島:素晴らしいと思いました。動物園・水族館も博物館相当施設で、まったくお仲間なので、生きてるものをやっていらっしゃるか、我々みたいに死んだ後のものを標本としているかの違いだけで、基本的に目指すところは一緒なので、いかに見世物だけにしないか、そこから何をくみ取っていただけるか、というのは同じ。それはみなさんにとっても、知的好奇心を満たすことになるし、いろんな所につながるというのを目標にもしているので、そういう意味では共通するところがあったし、日橋先生の言葉を聞いて、「あ、そういうふうにやればいいんだ」って思いました。まさに今の「令和」みたいなキャッチーなところも取り入れながら、人々の興味をこちらに向けるやり方は勉強になるので、お互い刺激し合いながらやるのがすごく大事なんだと本当に思いました。ありがとうございます。

河野:川田さん、いかがでしょうか。

川田:僕も大変興味深い話だなぁと思いました。博物館でも同じようなところはあると思っていて、たとえば、剥製にしても、つながった骨格にしても、ああいうものしか展示しないから、「ああいうものばっかりあるんだろうなぁ」という誤解が生まれているだろうなぁとは感じますね。でも、やっぱり、博物館の本質は、展示もあるんですけど、やっぱり「自然の一部を切り取って、保存しておく所」という側面があって、だからこそ毎日毎日、展示よりも標本を作っている日のほうが多いくらいな感じでやっている、そういう姿を伝えるのはむずかしいところだなぁと感じました。

世界中のどこかにいる動物

河野:今日は展示室で川田さん、田島さんの解説を聞いて、来場者のみなさん刺激を受けたり、「かわいい」以外のおもしろさに触れたと思うんですけれど、この展示を通して感じてほしい、見てほしい部分はどういうところでしょう?

田島:私がいろんな所で最近言っているのは、先ほど、日橋先生が「カピバラがひどい」「残念だ」っておっしゃったんですけど、我々がやっている動物は世界のどこかに絶対いる動物であって我々が創り出した動物ではないので、やはり、その本物になるべく正確に、忠実に、なるべく嘘がないように、というのをいつも肝に銘じなきゃいけないと思っています。そうすると、それを見ると、本当の動物を見た時にもいろいろ感じるし、その標本を見てもいろいろ感じていただけるので、そこを目指しています。あとは、我々が今回展示したものは、「世界中のどこかにいる動物なんだ」ということと、「我々と同じ哺乳類なんだ」っていうのを今一度感じていただけるといいかなぁと思っています。みなさんも是非、そういうのを感じていただければなと思います。

河野:川田さんは?

川田:だいたい同じなんですけど(笑)、いっぱい展示したのがなんでかというと、結局、いろんなものがいたり、似てるものがいたり、違うものがいたり、同じグループでも違ったり、別のグループでも似ていたり、そういうところをじっくり見ていただければうれしいなぁと思います。それが、「じゃあ、なんでそうなんだろう?」っていうところまで踏み込んで考えることができたら、またおもしろい発見が生まれるんじゃないのかなぁ。そういう要素をいっぱい詰め込んだ気がしますが、実は、そういうことがあまり展示パネルに書かれていないので、そういうところをどうやったら気づいてもらえるのかな……やっぱり、こういう解説できる場をいっぱい作るのも大切なのかなぁなんて考えているところです。

河野:やっぱり、動物園のことや博物館のことを話していくことがとても大事な時期なんじゃないかなぁという気がしますね。この展示と絡めて『へんなものみっけ!』というマンガを読んで、「へぇ、こういう仕事をみなさんがなさっているのか」と、とてもおもしろいマンガだったんですけれど、ああいうことを含めて、今度は研究者ご自身がいろんなことを発していらっしゃったらいいなぁと、今回ご一緒させていただいて強く思いました。せっかくこういう素晴らしい先生方がいらっしゃいますので、質問のある方、挙手をしていただければと思います。

質疑応答

質問者A:トークの前の講演で「微生物の力を借りて、消化する」と教えていただきましたが、生まれたての赤ちゃんに微生物はいないので、お母さんから貰う離乳食からですか?

田島:お母さんから貰いますし、食べ物を食べ始めると、勝手に増えます。

日橋:お母さんから微生物を貰うのがコアラなんです。

質問者A:そのお話を聞いたことがあったので、他のもそうなのかと思って。

日橋:その時だけ、ベチャベチャうんちが出るんです。普通は、丸っこい、ウサギのうんちみたいなのが出るんですけど、その時だけベチャベチャうんちが出て、袋から、子どもがお母さんのお尻の所に顔をくっつけて、顔真っ黒になって、不気味な状態になって食べます。それが離乳食になってますね。徹底的にそこまでというのはコアラくらいしか知りませんけれど、そういう動物もいるということです。

質問者B:剥製って重たいんですか、軽いんですか。

川田:わりと軽いです。

質問者B:中身はないんでしょうか。

川田:中は、プラスチックみたいなのが、うすーく空洞になったもの。

田島:樹脂みたいなもの。

川田:ガラを作っているんですよ、樹脂みたいなもので。だから、中は空気です。薄いプラスチックの中身を作って、それに皮を被せて、縫い合わせているだけなんですよね。皮が乾くと、すごく軽くなるので、意外と軽いです。たとえば、ニホンジカの剥製なんかだったら、簡単に、ヒョイって運べます。

質問者B:じゃあ、普段のお手入れは、外側の毛並みだけのお手入れで済むんですか。

川田:そうですね。まぁ、お手入れというか、あんまり毛並みとか整えたりもしないですけど。

質問者B:乾燥はよくないとか、あるんですか。

川田:乾燥しすぎるのはよくないですね。だから、お手入れというよりは、温度と湿度を一定した状態で保つということ。あと、光は天敵です。光が当たると、どんどん色が褪せてしまいます。あとは虫ですね。虫が付いちゃうと、どんどんかじってボロボロになる。科博の倉庫というか収蔵庫に入れてる時は、定期的に毒ガスを撒いたりとか(笑)、そういうことをやって管理しています。それがまぁ日常的なお手入れかな。

質問者C:アザラシの背中に触って「あぁ、柔らかいんだな」と思ったんですけど、剥製の毛というのは、特に加工などせず、「ソフラン仕上げ」みたいな柔らかくしたりといった処理はなく、本当に触ったそのまんまなんでしょうか。

田島:あのアザラシは、あのままです。私が作ったんですけど、普通に、川田さんにちょっと教えてもらって作っただけで、柔軟剤とかしませんけど、川田さんはたまにブラッシングして、すごくきれいにしてますよね、作業場で。楽しそうに。昨日も一人でやってましたよ、ドライヤーかけながら(笑)。

川田:まぁ、処理はするんですよ。ミョウバンっていう薬品を溶かした液に漬けてやらないと、毛がどんどん抜けてだめになっちゃうので。漬けて、水洗してっていう感じで、それで中に綿詰めて縫ったりするんですけど、体の部位によって毛の硬さが違ったりする場合って結構ありますね。お腹側の毛は、わりとフワフワの場合が多いですし、背中側の毛は、ちょっとやっぱり硬い毛になったりします。

質問者C:それが剥製になってもそのまま残ってるっていう感じなんですか。

川田:はい、そうだと思います。上手にできてるってことです、きっと。

質問者D:みなさま、長い年月、様々な形で動物と接せられていると思うんですけど、今まで一番テンション上がった発見とか、「なんかこれ、すごいなぁ」と思ったエピソードって、何ですか。

川田:僕はホシバナモグラっていうモグラを捕まえた時ですね。あれが今までで一番うれしかった。

田島:うーん‥‥、そういう感じでいくと、やっぱり、去年鎌倉に打ち上げられたシロナガスクジラですかねぇ。私、生きている間にシロナガスに会うことはできないだろうなぁと思ってたのが、いましたからね。あれはやっぱり、なんていうの、うれしかったというよりも、逆にドキドキしました。本当なのかな? っていう懐疑心のほうが大きい、でも、本物を見たら、やっぱり本当だっていうのが、夢の中にいるような感じくらい貴重な種だったので、最近でいくと、やっぱりシロナガスが一番かもしれないですね。

日橋:結構たくさんいろんなのがありますけど……

お客さん:(笑)

日橋:さっき、キリンのお話しましたけど、やっぱりキリンが生まれた時、最初に見た時、すごく感激しました。キリンは立って産むんですよね。ドーンと落っこちませんけど、体が少しずつ出てきて、最後に前足が着く頃になると、ドーンと落ちるんですね。そして、落ちた瞬間に、お母さんの羊水を頭からバーッと被るんです。それって、バケツで水かけるようにして、起こしているんですよ。次にやったのは、これ、すごく不安だったんですけど、お母さんが歩き回って、赤ちゃんの足とかを突っつくんですよ。最初、踏んじゃっているんじゃないかと思ったけれど、「早く起きなさい」って言ってるんですよ。でもお母さんは上を見てるんですよね、ずーっと上のほうにキリンの顔がありますから、下なんか見てないはずなんだけど、見てるのかな(笑)、それでチョンとやる。ゾウのお母さんは、蹴っ飛ばすそうですよ、サッカーボールみたいに。起こすために。そういうのを見ると、やっぱり、「あぁ、この商売に入ってよかったなぁ」って思います。次に生まれた時、動物園に入ってください(笑)。

河野:今日はありがとうございました。

お客さん:(拍手)

おわり

受講生の感想

  • ひっじょーーーに学びの多い夜でした。 
    もっともっとお話を聞きたかったですし 
    聞き足りなかったことや
    帰宅してマンガを読んだりして気になったことは 
    展示を再訪して確認したいと思っています。 
    学ぶってほんとにいいものですね~。

  • 印象的だったのは、
    なんといってもクジラ博士の田島さんのお話です。 
    列島の浜辺の彼方此方に人知れず鯨が埋まっている、
    標本にされなかった鯨の墓。 
    昨今浜辺がじわじわと侵食されているので、
    いつの日か鯨骨が現れてビックリ! という事態になるのかも、
    と想像してしまいました。