講師紹介
増﨑英明さん

学校長の推薦コメント

ミシマ社代表の三島邦弘さんから、
『胎児のはなし』の共著者・増﨑さんが
たいへん魅力的な産婦人科医であると聞き、
かねてからお会いしたいと願っていました。

解剖学者・三木成夫(しげお)の
ロングセラー『胎児の世界』(中公新書)は
私にとって思い出深い一冊ですが、
神秘の世界を解明する、
これに続く本があるとすれば、
『胎児のはなし』であろうと
三島さんが力強く語っていたのが印象的でした。

たしかに、この本には、
私がまったく知ることのなかった
胎児の驚くべき姿が描かれています。

そんな話を受講生のみなさんと、一緒に、
じかに伺いたいと思います。

講師のことば

「個体発生は系統発生を反復する」
つまり、受精卵から成体になるプロセスは、
生物の進化の過程と似た進み方をする。

この考え方を唱えたのは、
ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルです。

ダーウィンと同時代の人で、
ヘッケルにとってダーウィンはあこがれの人でした。

私はその個体発生をずっと見てきましたが、
産婦人科医になって42年、
胎児の見え方は大きく変わりました。

医者になった1977年、長崎大学の大学病院には
超音波の機械が1台だけあって、
それで初めて胎児を見ました。

レーダーのような画面で
胎児の姿はよくわかりませんでした。

それが今では、3Dで、笑っているような顔や
しゃっくりしているところ、あくびなど
様々な表情がみえるようになりました。

ダーウィンは、犬やサルの表情を観察して
人間との連続性も指摘し、
『人及び動物の表現について』という本を
まとめています。

自分の子供や外国人など、
たくさんの人の表情を観察して、
表情は文化の違いを超える普遍的なものだと
論じています。やっぱりすごい人だと思いますね。

ただ、ダーウィンは胎児の表情については
何も言っていません。

160年前に胎児を見ることはできませんでしたからね。

この数十年、技術や機械は格段の進歩を
遂げましたが、胎児の世界にはまだまだ
未知の領域が残っています。

子宮の中は宇宙や深海のような
神秘の世界であり、おそらく今後も長く
胎児は未知なるものであり続けることでしょう。

この神秘的で不思議でおもしろい
「命の起こり」の話を
楽しんでいただきたいと思います。

増﨑英明ますざきひであき

医師。長崎大学附属図書館長。長崎大学学長特別補佐。長崎大学名誉教授。長崎大学医学部卒業。1999年から2000年までロンドン大学へ留学。2014年より現職。日本産科婦人科遺伝診療学会理事長などを歴任して、産婦人科の世界をリードしてきた。著書に『密室』『密室II』『動画で学べる産科超音波』など。最相葉月さんとの共著に『胎児のはなし』がある。1952年、佐賀県生まれ。