講師紹介
岡ノ谷一夫さん

学校長の推薦コメント

「シェイクスピア講座」では
『ロミオとジュリエット』を
生物心理学的に読み解いた岡ノ谷さんですが、
私が最初にお目にかかったのは、
ジュウシマツの研究者として、
著書『つながりの進化生物学』を
刊行なさった時でした。

お会いすると大変おもしろい人なので、
いずれ「言語、心、意識がいかに発達してきたのか」
といった問題を雑誌で取り上げるときには
相談しようと思っていました。

ところが、ユーモアエッセイの
とんでもない文才に出会ってしまい、
「webでも考える人」では
「おかぽん先生青春記」という連載を
お願いすることになりました。

その連載も期待に違わずおもしろいのですが、
今回は生物心理学者としての
本家本筋に立ち戻り、研究者としての
本領を発揮していただこうと思います。

講師のことば

小学校4年生くらいのとき、
ビーグル号のプラモデルを作ったのが、
私とダーウィンの出会いでした。

当時のプラモデルには解説がついていて、
「進化論で有名なダーウィンが、
そのアイデアを得たとされるのが、
若い頃の世界一周調査旅行である。

そのとき使われた船が、ビーグル号である」
と書いてありました。その頃、
子ども向けの進化の本は何冊か読みましたが、
さすがに『種の起源』を
手に取ることはありませんでした。

高校生のころ読んだのが
ブルーバックスの一冊「進化とは何か」
(ジュリアン・ハクスリー著)でした。

大学に進んで動物心理学を勉強するようになり、
ドーキンスの本などは読みましたが、
本家ダーウィンの『種の起源』に関しては、
正直、完全に理解できているとは言えません。

講義のときまでにもっと勉強しておきます(笑)。

研究室においてあるのは、
”Origin of Species(種の起源)”と
”Descent of Man(人間の由来)”で、
『種の起源』は1872年に刊行された第6版。

本物です。

私にとって「お守り」のような本です。

動物が好きであることと、
動物心理学の研究をしていることから、
言葉や意識も進化論で説明できるのではないか
と考えて、はや20年。

今は動物を使って、
人間固有とされている意識的な現象を
動物でどれだけ同じようなものが
示せるか研究しています。

たとえば、他者の気持ちを推測するような能力、
自己の状態をモニターする(それが意識といえる)、
そうした力を動物が
どのくらいもっているのかを集めて、
動物と人間の意識の連続性について考えています。

それでも、言語というものは
動物と人間の間の大きな差を
作ったものであると信じています。

ダーウィンは好きだし、
ダーウィンの業績はすばらしいと思うけれど、
何かオリジナルなことを考えたと思っても、
だいたいダーウィンがすでに書いているので
大変腹が立つ。

歌が言葉の起源ではないかという私の考えも、
ダーウィンが似たことを書いているので
本当に悔しい。でもまあ、
同じようなことを考えていたのかなあと思うと
親しみがわきますね。

岡ノ谷一夫おかのやかずお

動物行動学者。東京大学教授。慶應義塾大学文学部卒業後、米メリーランド大学大学院で博士号取得。理化学研究所脳科学総合研究センター生物言語研究チーム・リーダーなどを経て、2010年より東京大学総合文化研究科教授。小鳥のうたの進化と機構から人間言語の起源についてのヒントを得る研究で知られる。主な著書に『「つながり」の進化生物学』『脳に心が読めるか?——心の進化を知るための90冊』『言語の誕生を科学する』(小川洋子さんとの共著)がある。1959年生まれ。