講師紹介
須田桃子さん

学校長の推薦コメント

STAP細胞事件は
近年の科学史に残る大事件でした。

この問題をめぐる報道合戦のなか、
『捏造の科学者 STAP細胞事件』で、
2015年の大宅壮一ノンフィクション賞に
輝いたのが須田桃子さんです。

授賞式でのスピーチを聞きながら、
「この先、科学分野で何か知りたい問題がある時は、
この人を訪ねてみよう」と思いました。

頼もしい科学記者の登場を
心強く思ったものでした。その須田さんが
アメリカでの長期取材をふまえてまとめた
『合成生物学の衝撃』もまた、
すぐれたノンフィクション作品です。今回は、
ぜひとも最先端のゲノム編集・合成の現場や、
それをめぐってどういう議論が
巻き起こっているかを、巨視的に、
また微視的に語っていただきたいと思いました。

須田さんの報告が
期待を裏切ることはないはずです。

講師のことば

2003年に人間のゲノムの塩基配列が解明されて以来、
ゲノム解読のコストはどんどん下がって、
いまでは民間企業が
個人のゲノムを解読するサービスを
提供するくらい身近なものになりました。

そしていま、
ゲノムを「読む」時代から「書く」時代、
つまりゲノムを「いちから」合成する
時代に入りつつあります。

合成するというのは、
コンピュータで設計したDNAの2重らせんを
実験室で化学的に作り出すことです。

実際、ゲノム解読の立役者の一人であった
クレイグ・ベンターが、
生命の維持に欠かせない最小のゲノムを設計し、
100%人工的なDNAをもつ
「ミニマルセル」という微生物を作り出しています。

これはもはや、人工生命と呼べるものです。

既存の遺伝子の一部を
使えなくしたり(ノックアウト)、
新たに追加したりすることも、
ゲノム編集という技術を使って
従来とは比較にならない
精度と効率でできるようになりました。

中国では昨年、ゲノム編集ベビー(双子)が生まれ、
世界に大きな衝撃を与えました。

遺伝子操作を経て生まれるのが当たり前で、
自然に生まれた子供が阻害される社会を描いた
1997年の映画「ガタカ」はSFの世界でしたが、
いまや実際に起こりつつあると言えます。

合成生物学の最前線で何が起こりつつあるのか。

それをご報告した上で、
こうした新技術がはらむ倫理的・社会的な問題を、
みなさんと一緒に考えたいと思います。

須田桃子すだももこ

毎日新聞科学環境部記者。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了(物理学専攻)。STAP細胞問題を追った『捏造の科学者』で大宅壮一ノンフィクション賞など受賞。2016年よりノースカロライナ州立大学遺伝子工学・社会センターに客員研究員として1年滞在。その成果をまとめた著書に『合成生物学の衝撃』がある。1975年生まれ。