今回の講座を企画するにあたり、
最初に相談をもちかけたのが
生物心理学者の岡ノ谷一夫さんです。
その岡ノ谷さんに
「美しい系統樹を集めている人がいる」と
教えられたのが、三中さんでした。
お会いしてみると、
サイエンスのみならず、哲学や思想など
あらゆる知識のつながりを示す「ツリー」を
世界各地から収拾し、
それについて語る三中さんの
口調と人柄にたちまち魅了されました。
授業では、三中さんのコレクションから、
アートとも呼ぶべき美しい系統樹や
歴史ある系統樹を
見せていただくことができそうです。
「考え方の柱」としての系統樹について、
きっと新しい発見があるはずです。
ダーウィンの『種の起源』に、
有名な系統樹のようなダイアグラム(図)が
掲載されています。
それ以前にもダーウィンは
ノートに系統樹のようなものを書き残しているのですが、
こうした「ツリーの形」の図を
進化生物学でつかったのが
ダーウィンの画期的なところです。
ただ、系統樹そのものは、
中世哲学にも出てくるように
古くからあるグラフィックツールで、
たとえば13世紀の修道士が、
人間のもつ知識を「学問の樹」として描いていたりします。
つまり、人は多様なものをみるときに、わけることと、
似ている点でつなぐ(グルーピングする)こと、
このふたつの面から理解しようとしてきたのです。
「わけること」と「つなぐこと」は、
現在も、私たちがものごとを理解するときに
「考え方の柱」を与えてくれるものなのです。
漢字で書けば、一方は分類、
もう一方は系統ということになりますが、
科学だけの話ではなく、
生物も生物でないものも、ぜんぶひっくるめて、
多様なものを理解しようとするとき、
必ずこのふたつの面から見ているのです。
講義では、
古今東西の様々な系統樹の実例をお見せしながら、
人間は思想や哲学や身の回りの環境を
どのように理解しようとしてきたのかを
お話したいと思います。
系統樹のなかには「アート」という他ない
芸術的なものがたくさんあります。
そうしたものを一緒に楽しみながら、
知識のつながりを考えていきましょう。
国立研究開発法人・農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センター専門員、東京農業大学農学部生物資源開発学科客員教授。東京大学農学部卒業。同大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)。著書に『系統樹思考の世界』『分類思考の世界』『進化思考の世界』『系統体系学の世界』『統計思考の世界』『思考の体系学』『系統樹曼荼羅』など。訳書多数。渡辺政隆さんとの共訳書にステーヴン・ジェイ・グールド『ニワトリの歯 進化論の新地平』がある。1958年京都生まれ。