講師紹介
矢原徹一さん

学校長の推薦コメント

ダーウィンは「花の性」を
熱心に研究しました。いま「日本で
花の性を語るとしたら矢原さん」。

そう聞いて、著書の
『花の性 その進化を探る』を
手にしてみました。

しかし、この専門書はなかなか手強く、
正直、歯が立ちません。ところが、
矢原さんにお会いするために
福岡に向かう飛行機の中で、
以前にお書きになった
学問的自伝のような文章を拝読しました。

すっかり心を奪われました。

生まれ故郷の糸島に、勤め先の九州大学が、
一部移転することになりました。その時、
キャンパス造成のために
失われそうになった自然を、
矢原さんは守り抜きます。「そこにあった種を
一種も絶滅させない」と言って、
「生物多様性保全ゾーン」をつくるのです。

いま、そこは
実に気持ちのいい里山に育っています。

ダーウィン研究の成果とともに、
研究と実践が一致した
ご自身の学びの姿勢についても
是非伺いたいと思います。

講師のことば

花にはメスの役割(めしべ)と
オスの役割(おしべ)があります。

なぜひとつの花にメスとオスがあるのか?
どうして別々に咲かないのか?
花粉を運んでくれる虫をひきよせるため
広告宣伝してくれるのが花びらですが、
オスとメスが別々の花にあると宣伝費が2倍かかる。

これを節約して、花は経済的にできているのです。

このような「自然の経済」という
見方を発見したのがダーウィンでした。

毎日庭を散歩して、花とマルハナバチを観察するのを
生き甲斐とした人で、花について何冊も本を書いています。

ダーウィンは、外の世界に興味が強くて、
疑問に思ったことはとことん調べないと
気が済まない質だった。

発想が自由で、実験家としてもアイディアの宝庫で、
本当にすごい人です。

ぼくは植物学者ですが、九州大学に来て
最初に書いた論文はネコなんです。

ダーウィンは『人間と動物の感情表現』
という著書で、こんな論考をしています。

犬が人間にあまえるときは、
体をくねらせてしっぽを垂らす。

ネコはしっぽをたてて足をつっぱる。

どうしてこうも正反対なのか?
いろいろ仮説を出した結果、
ダーウィンが唱えたのは「アンチテーゼ説」。

ネコは元々待ち伏せ型の捕食者で、
待ち伏せしているときは体を低くしてしっぽを垂らしている。

これがネコの緊張した状態。

一方、犬は追いかけ型の動物だから、
足をつっぱってしっぽをたてて走る。

これが犬の緊張した状態。

それぞれ、この反対と考えるとうまく説明できると考えた。

後の研究でこれが正しいことが証明されています。

よく気がついたし、よく考えたと思います。

この本を読んだとき、感動しました。

このようにダーウィンは植物や動物の
繁殖や行動の秘密をつぎつぎと解き明かしているのですが、
まだわかっていないこと、ダーウィンが残してくれた
ヒントがたくさんあります。

私の講義では、ダーウィンの植物研究を中心に、
その研究がいかにおもしろいものであったかを
お話しようと思います。

矢原徹一やはらてつかず

九州大学大学院理学研究院教授(生態学・進化生物学)。京都大学大学院博士課程中退。東京大学理学部附属植物園(日光分園)講師、東京大学教養学部助教授を経て現職。単著に『決断科学のすすめ 持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか?』『花の性ーーその進化を探る』。長谷川眞理子さんとの共著に『ダーウィン著作集〈別巻1〉現代によみがえるダーウィン』。他、共編著多数。2000年ごろ、九州大学の一部が生まれ故郷の糸島に移転する計画が持ち上がったとき、生物多様性保全事業に関わることになり、キャンパスの造成にあたって「森林面積を減らさない」「そこにあった種を一種も絶滅させない」という目標をたてて実行した。1954年福岡県生まれ。