講師紹介
井原泰雄さん

学校長の推薦コメント

この講座の準備を進めるなかで
初めて触れた用語のひとつが
「ニッチ構築」でした。

その説明は井原さんの「講師の言葉」を
お読みいただきたいのですが、
井原さんが取り組んでいるのは、
詰まるところ「人間とは何か」という
「人間性」の問題です。

チンパンジーとヒトを分けるものは
いったい何なのか? 
ダーウィンを悩ませた「宿題」のひとつです。

もちろん、簡単に答が出せるはずもなく、
井原さん自身
「賢い人は近寄らない分野」と笑います。

でも、研究室の本棚に並んだ
古今東西の文学作品と同じように、
人はそれを問わずには
生きていけない動物かもしれません。

この壮大な問いに井原さんはどのように
向き合っているのでしょう?

講師のことば

『人間の由来』という著作でダーウィンは、
人類の進化、ヒトの「人間性」の進化について扱っています。

しかし、ヒトの特殊性について
十分に説明しきれていないところがあり、
それが現在まで残るひとつの大きな課題です。

ヒトとチンパンジーのDNA配列の違いはわずかとはいえ、
チンパンジーをヒトと同じように育てても
ヒトになるわけではない。

ヒトを人間たらしめている「人間性」とは何か? 
そこを説明するためのひとつのアイディアとして
最近注目されているのが「ニッチ構築」という考え方です。

生物は環境に適応して形を変えていく。

それがダーウィンの自然淘汰の標準的な考え方。

それに対して「ニッチ構築」は逆のことを考えていて、
生物の方が自分の環境を変える。場合によっては
それがまわりまわって自分自身に作用してしまう。

つまり、自然淘汰の力をも
変えてしまう場合があるということです。

よく挙げられる例がビーバーです。

ビーバーは、川にダムをつくって水をせきとめる。

それによって自分の生活する環境を変えているわけですが、
ある程度深い水があるところで暮らすようになったために、
それに適した形でしっぽが平らになるなど
体の構造が変化したと考えられています。

人間は他の動物と比べものにならないくらい
自分たちの環境を変えてきました。

そういうところから、
人間が他の動物とは質的に違うように思える、
そんな性質の進化的起源というものを、
いっしょに考えてみましょう。

井原泰雄いはらやすお

進化人類学者。東京大学大学院講師。ヒトおよびそのほかの動物の行動・心理・文化の進化について、集団遺伝学や進化ゲーム理論などの数理モデルを使って研究している。1971年生まれ。