講師紹介
海部陽介さん

学校長の推薦コメント

海部さんの「3万年前の航海徹底
再現プロジェクト」の話を最初に聞いたとき、
まず思い浮かべたのは、
トール・ヘイエルダールという
ノルウェーの人類学者が書いた
『コン・ティキ号探検記』のことでした。

子ども時代、
私はこの名著にすっかり夢中になりました。

イースター島のモアイ像はインカ帝国の
巨石文化が海を渡って伝えられたものに違いない、
という仮説に基づき、ヘイエルダールは
インカ帝国時代の船を模したコンティキ号をつくり、
ペルーからみずから島まで渡ろうとします。

海部さんのプロジェクトは、アフリカ大陸から
アジアにやってきた日本人の祖先が、台湾から
海を越えて沖縄をめざしたに違いないという
自説を証明するために
舟をこぎだそうというものです。

まさに今日のコン・ティキ号ではないですか!
そんな途方もないことをする人には、
一も二もなく会いたいと思います。

講師のことば

最初の「日本列島人」はいつ、どこから、
どうやってこの地にやってきたのか?
それを探る研究と実験を行っています。

「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」です。

私の研究の出発点は、
クロマニヨン人への嫉妬心でした。

ラスコー洞窟の壁画とか彫刻とか、
ヨーロッパの祖先たちはすごいことをやっている。

一方、アジアの祖先には
そのような証拠が残っていない。

彼らはいったい何をしていたんだろう?
そのうち、ホモ・サピエンスはアフリカに起源をもち、
進化して、世界各地に拡散したという
枠組みがわかってきた。そのとき思ったんです。

アフリカからヨーロッパに行ったのが
クロマニヨン人ならば、
同じ時期に世界に拡散した私たちの祖先が
能力的にさほど違うわけがない。

そう確信して、痕跡を探し始めました。

ところが、日本は土壌が酸性なので骨が残らない。

証拠が残りにくいんです。

そのとき、ふと思ったんです。

日本列島人は、どうやってここに来たんだろう?
地殻変動や海面変動の歴史は
だいたい研究されてわかっている。

最初の日本列島人が、
いつここに着いたかもわかっている。

それを考え合わせると、
彼らは海を超えて来たことが明らかだ。

実は、ものすごいチャレンジをした人たちがいた。

新しい世界を切り開いた舞台が、
そこにあったわけです。

でも、「海を越えた。すごいね」といっても、
それが本当にどれだけすごいのか、
僕ら研究者だってわかっているわけではない。

小舟で海を渡ることがどれほどすごいのか、
やったことないから誰も知らない。そこで、
当時使われていた石器などの道具を使い、
当時の人が使った可能性がある舟をいくつか作り、
それに乗って星を頼りに、
3万年前と同じ航海を再現しようとしているのです。

ぼくらは知識と経験の蓄積があるなかで
ふだん生活しているから、
疑問を抱かないことが多いけれど、
根源までさかのぼると、
「最初に気づいた人、最初にやった人」の
偉大さが本当によくわかります。

8月の本番航海を終えてから、講義では、
私たちの祖先たちの本当のすごい姿をお伝えします。

海部陽介かいふようすけ

国立科学博物館人類史研究グループ長。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科博士課程中退。1995年より国立科学博物館勤務。アジアの人類進化・拡散史の研究で日本学術振興会賞を受賞。2016年、古代の道具・材料・技術で古代舟を作り、台湾から沖縄・与那国島へと海を渡る「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」を開始。2019年夏に総仕上げの「本番の実験航海」を行う。著書に『人類がたどってきた道』『我々はなぜ我々だけなのか』などがある。