ダーウィンの贈りもの I 
第8回  真鍋真さん

恐竜たちが教えてくれること

真鍋真さんの

プロフィール

この講座について

北海道で発掘されたむかわ竜に「カムイサウルス・ジャポニクス」という学名がついてほどない2019年9月、日本を代表する恐竜博士・真鍋真さんが、「恐竜たちが教えてくれること」と題して講義をしてくださいました。近年さまざまな新発見がありますが、それでもまだまだわからないことがたくさんあるという恐竜学。その現在進行形の学問に迫りました。(講義日:2019年9月11日)

講義ノート

●ダーウィンと化石

よろしくお願いします。最初からちょっとネタをバラしてしまうと、ダーウィンはきっと「化石の不完全性」というものに悩んでいて、「化石はあんまりあてにならないな」というところが多分おありになった方だと思います。しかしながら、始祖鳥みたいな化石がちょうど『種の起源』を出版した後にタイミング良く出てきて、始祖鳥に関しては思い入れがあったのではないかと思います。ダーウィンその人だけじゃなくて、まわりのハクスレーとか、後の学者たちが現代の恐竜の進化を研究しているところに、ダーウィンからの影響を感じることが多々あります。そういうことで、普段の授業よりもチャールズ・ダーウィンの比重が若干低いかもしれませんが、おつき合いいただきたいと思います。

年表にしてみました。『種の起源』は1859年に出版されます。その前に進化ということをダーウィンほどきちんと説明した人は現れなかったんですが、1812年にメアリー・アニングさんが世界初の魚竜を発見するとか、1822年頃ギデオン・マンテルさんが恐竜が存在したと気がつくとか、1824年にウィリアム・バックランドさんがメガロサウルスという最初の恐竜を命名して、学術的に恐竜というものが存在したことが記録されました。それから1842年にいわゆる恐竜、ダイナソーリアというグループ名が知られるようになって、恐竜が学術的に広く認識されるようになって、ダーウィンの『種の起源』に至るわけです。先ほどお話ししたように、1861年に始祖鳥が見つかって、ダーウィン自身は「ミッシングリンク(連続性が欠けたすき間)」という言葉を使っていませんが、ミッシングリンクとして始祖鳥の重要性が『種の起源』、進化という概念を伝えるのに非常に効果的だとダーウィン自身が気づいて、『種の起源』第6版に始祖鳥が登場するようになりました。

メアリー・アニングさん。たくさんの方がご存知だと思うんですけれども、10歳か11歳のときにお父様が亡くなって、地元で化石を採集することで家族の生計を助けるようなことを始めて、世界初の魚竜(全身化石)を発見します。これは恐竜ではなくて海棲爬虫類といって、恐竜ではない爬虫類です。最初、頭だけ見つかって巨大なワニかと思われていたら、後に彼女が体も見つけてワニじゃないことに気がついて、魚竜という今はいない変な爬虫類がいたことが明らかになったわけです。アニングさんに関しては、最近、イギリスで映画も作られたりして、注目が集まっていますけれども、当時も化石を探して数々の大発見をした女の子として有名になりました。当時、研究者は男性ばっかりで、彼女のような一般家庭から来た子が自分で研究するということにはなりませんでした。古生物学に多大な貢献をしたことは間違いなくて、今、ようやく学会員として追加登録するみたいな動きがイギリスでも起きています。

ギデオン・マンテルさんは開業医で、往診のときに奥さまがたまたま一緒に行かれて、往診の間あたりを散歩していましたら、ちょうどその頃に舗装道路が整備されていたところなので、石が積み上げられていた。その中の白っぽい石の中に黒い点があって、2、3センチの歯を彼女が見つけて、「化石だわ」と気がついて、「主人は化石大好きだから見せてあげましょう」と、出てきたマンテルさんに見せた。すると、これは大きな歯の化石だと気がついて、調べていくと、今もいるイグアナというトカゲに非常に似ているんですけど、イグアナだと3ミリとか4ミリぐらいの歯の大きさなわけで、2、3センチもあるような大きな歯は、バカでかいトカゲがいたんだなということになるわけです。学会に行って一生懸命それを説明するんですけど、爬虫類がそんな大きくなる能力があるわけがないと当時の研究者たちは思っていて、爬虫類は小さいものだと決めつけて、なかなか認めてくれなかった。しかしマンテルさんが騒ぎだしたら、ウィリアム・バックランドさんという研究者が、人に言えなかった化石を持っていることを明らかにした。肉食恐竜の顎なので全然形が違うんですけど、5センチぐらいの歯がついているわけです。こういうものを持っていて、彼も大きな爬虫類がいたことは分かっていたんですけど、なかなか言い出せなかった。マンテルさんが「大きな爬虫類がいた」と言い始めたのを知って、勇気を出してメガロサウルス=「大きな爬虫類」という意味の学名を初めてつけます。これが1824年のことで、恐竜として名前がつけられた最初の種類になります。

一方、メアリー・アニングさんがまたすごいことをやりました。首長竜って、フタバスズキリュウとか日本では有名ですけど、ああいうものの最初の全身骨格を発見したりして貢献していきます。そして、1842年にリチャード・オーウェンさんという後にロンドン自然史博物館をつくった研究者が、やっぱり爬虫類はみんな小さいと思っていたら大きなものがどんどん見つかってきて、さっきのメガロサウルスと、マンテルさんがイグアノドン、それからヒラエオサウルスって、3種類の恐竜が命名されて、「もう大きな爬虫類がいたということは認めざるを得ない」となって、その大きな爬虫類たちにダイナソー=「恐ろしいトカゲ」という意味の名前をつけて、ここで学術上は恐竜がデビューするわけです。

みなさんにアンケート的なクイズなので、これはと思うところに一度挙手をいただけたらと思います。ティラノサウルスでもなんでもいいです、恐竜と、恐竜以外の一般的な爬虫類(ワニとかトカゲとかカメ……)は、どこで見分けることができるでしょう? どこが違うんだろう。歯、腰、前足と、三択にしました。歯で見分けるんじゃないかなという方、1、2、3……21。ありがとうございました。腰で見分けるんじゃないかなという方は? 大勢ですね。1、2、3……46。前足なんじゃないかなっていう方は? はい。1、2、3……41。はい、ありがとうございました。多数決ではないですが、答えは腰です。普通の爬虫類はガニ股+腕立て伏せで、四足歩行で地面を這って、お腹をすったり尻尾をすったりしているイメージがあります。そういう爬虫類の中で、最初の恐竜はなぜか二足歩行になって、そのときにガニ股じゃなくなったんですね。足をまっすぐ伸ばして膝を体の真下に伸ばして、足を前後に振るだけで歩けるようになる。そうすると、ほかの爬虫類より速く獲物に追いつけるとか、速く敵から逃げられるとか、同じ時間とスタミナで遠くまで行けるみたいなことが有利になって、ほかの爬虫類たちよりも恐竜が繁栄したんじゃないかといわれています。

恐竜が歩いているところを見たことのある人なんていないわけですけど、たとえば足跡の化石を見ると、左右左と一直線に歩いているのがあります。足の裏の形だけだと、なになにサウルスまでは特定できませんが、ポイントは、きれいに膝を揃えて歩かないと一直線の足跡にならないことです。普通の爬虫類の足跡だとガニ股になって真ん中に尻尾を引きずった跡なんかが出てくるんですけど、恐竜の足跡だと思われるものは尻尾を引きずっていないので、跡が見られない。だから、こういう歩き方をしたんだろうということが分かります。

●ポイントは腰の骨の「穴」

さらに僕らが発掘に行ったときに一番注目するのは腰なんですけど、どういうことかというと、恐竜の骨盤は股関節に穴が開いています。しかしながら、ワニの骨盤とかカメの骨盤とかトカゲの骨盤は、浅いくぼみにしかなっていないんです。穴が開いていません。穴が開いていると、深く足がはまり込むのでガニ股にならない。浅いくぼみだと、膝が横に突き出してガニ股になっちゃう。こういう違いがあったことが知られています。私も子どもの頃は骨つきの肉とか面倒臭くて嫌だったんですけど、今はフライドチキンとかパーツをオーダーできるときは腰のところをオーダーして、一生懸命丁寧に食べます。ニワトリも鳥類で、恐竜の子孫なので、バッチリと骨盤に穴が開いています。今度フライドチキンを食べることがありましたら、確認してください。ひな鳥だと、まだ半分が軟骨で透明でぶよぶよで、半分が白い骨になっていたりするんですけど、穴が開いているのは必ず確認できるので、機会がありましたら挑戦していただきたいと思います。

メアリー・アニングさんが世界初の完全な首長竜の化石を見つけたとされています。首長竜というのは、フタバスズキリュウとかの海棲爬虫類で、中生代(今からだいたい2億5000万年前から6600万年前)に生息したものなんですけど、恐竜ではありません。恐竜の骨盤には穴が開いています。イグアナなどのトカゲ類だと穴が開いていなくて、浅いくぼみにしかなっていません。首長竜たちもちょっと形が違うんですけど、くぼみになっていて、穴が開いていないので、恐竜ではない爬虫類と同じ形をしているんですね。だから、そういった意味でも、骨盤を確認すると、穴が開いていれば恐竜もしくは鳥だし、穴が開いていなければ恐竜ではない爬虫類なんだということがわかります。

そして、1859年にダーウィンが『種の起源』を著しました。このへんの話は、これまでの授業でもお聞きになっていると思いますけれども、なかなか「種は進化する」といっても、「じゃあ、今、どこで何が進化しているのか」とか、「今、進化をしている生き物を見せてほしい」とか、「具体例を見せてほしい」と言われても、なかなかそういうふうに目の前で何かが変わっていくわけではないので、そういうものは示せない。冒頭でダーウィンがそんなに化石に重きを置いていなかったんじゃないかと申しあげたんですけれども、1861年に始祖鳥という1億5000万年前ぐらいのジュラ紀後期にいた鳥の化石が見つかります。モニターに出ているのは「ロンドン標本」といわれるもので、頭がちょっと外れているんですけれども、上半身に手があって、背骨があって、後ろ足があって、尻尾がある。まわりに筋のように見えるのが翼なわけですね。このように翼の痕跡が残っているものが発見されました。この写真はドイツのリトグラフなんかに使う印刷用の石灰岩を石切場で採掘しているところです。薄い層になった石灰岩が積み重なっていますが、この層と層の間に押し花のように化石がはさまっていることに気がついた作業員たちが、こういう化石があると報告した。それが珍しいものなので、売買されて、先ほどの第一号はロンドンの大英自然史博物館に売られるというようなことがありました。

その後、次々と見つかって、「ベルリン標本」とか、「マックスバーグ」、「ハーレム」とか、「アイヒシュタット」とか、それぞれの個体に収蔵先の名前がついています。「ミュンヘン」とか、「サーモポリス標本」とか、だいたい10か11ぐらいの始祖鳥しか今まで報告されていないんですけれども、個人でお持ちになっていて、だれにも見せていない方が何人もいらっしゃるとされています。基本的には、ドイツでしか見つかっていなくて、ドイツ国外に出すのは厳しく制限されています。サーモポリスというのは、アメリカのワイオミング州にある私立の博物館なんですけど、ドイツ人の方がオーナーで、購入してアメリカにある自分の博物館で公開したいと思っていたんですけれど、ドイツの人たちがドイツから始祖鳥を持ち出すことにネガティブに反応して、それで、一応自分は所有者だけれども基本的にはドイツを中心に、たまにはワイオミングに行ったりすることもあるかもしれませんけれども、基本的にはドイツの宝ですからドイツの方に見ていただきたいというような扱い方をされている標本です。「恐竜博2016」という国立科学博物館でやりました前回の恐竜展のときに実物化石が来日したので、ご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれません。

ダーウィンが『種の起源』を発表してから、「進化が起こるならば、今、何がAからBに進化しているのか」というようなことの具体例を示すように問われるわけです。でも、目の前で、「今、これが中間型です」ということを示すのは、なかなかできなかった。しかしながら、この始祖鳥の存在によって、鳥類と爬虫類の間の広い間隙でさえ、絶滅した始祖鳥と一部の恐竜によって、思いがけない形で部分的に橋をかけられることが明らかになったので、恐竜がいて、そして始祖鳥がいて、現在の鳥がいると。だから、「中間型」というのは、今いる動物ではなくて、化石に原始的な段階のものがいて、中間型がいて、今のものがいるというふうに説明をすればいいんだということにだれもが気がつくわけです。

●ミッシングリンクである始祖鳥

そこで一段と有名になった始祖鳥ですけど、国立科学博物館に展示してある始祖鳥のレプリカは、押し花のように潰れた状態の骨の化石を岩盤から取り外して、骨格標本のように復元したものです。始祖鳥がなぜミッシングリンクとして、普通の鳥じゃないように扱われているかというと、まず頭のところ。今の鳥はみんなクチバシなんですけれども、始祖鳥には歯があります。また、今の鳥たちは前足が完全に翼になっていますが、始祖鳥は3本指、きれいな鉤爪がついています。鳥の胸には翼を羽ばたかせる大胸筋(胸肉)と小胸筋(ササミ)という、お料理に使われたりする大きな筋肉が付着する大きな胸骨があります。始祖鳥にはそのような胸骨がありません。それから尻尾が、今の鳥はふつう尻尾が短くなっていてぼんじりになっていて、その先に尾羽がついています。始祖鳥は長い尻尾がばっちりあるので、大きな尾羽を持っていなかったようです。こういうところが爬虫類的です。今の鳥たちとは全然違う。そういったところから、始祖鳥はミッシングリンク的な中間的な形をしていたことがあらためてわかるわけです。

今の鳥を前から見ると、胸骨という骨があります。胸骨には、左と右を分ける仕切りのような大きな板状の骨、竜骨突起があって、そこにササミ=小胸筋、小さな胸の筋が付着して、その上に胸肉=大胸筋がついて、鳥たちは胸肉で上から下に翼を打って、ササミで上げる。だから胸肉→ササミと翼を上下に動かして飛んでいくわけです。お料理でたくさん使うんですけど、胸骨の竜骨突起がないと分厚いササミとか分厚い胸肉をつけられません。始祖鳥の段階だと大きな胸骨が見られないことから、たくましい筋肉を付着することはできなかったんです。そうすると、胸肉→ササミと使って力強く羽ばたくことはできなかった。だから、枝から枝に滑空するぐらいのことしかできなかったんじゃないかなと考えられています。

もうひとつ、指のところを見ると、恐竜はものをつかむために三本の鉤爪がついていたんですけど、鳥だと、これが完全に翼の一部になっています。ツメバケイのヒナみたいに翼でよじのぼる例外はあるんですけど、基本的には翼を上から下におろす。手首とか指先が完全になくならないのは、翼をたたんだり広げたりするときに必要なので、指としては残っているけれど、鉤爪でものをつかむということはもうやっていない。なので鉤爪が退化する。それからぼんじりですけれども、尻尾の骨が短くなっているぶん、そこから末広がりに尾羽に広がっていくような構造をしています。ひとつ大きな変化をもたらしたのは、大きな卵を産めるようになったこと。どういうことかというと、恐竜の卵、今回2019年の恐竜博でも出しているんですけど、恐竜の卵というと細長いラグビーボールのような卵をよく目にされると思います。恐竜の骨盤は狭くて大きな卵を産めないので、卵の容積を増やすには長くするしかないので、ラグビーボールみたいな卵を産む恐竜が多くなってくるんです。ぼんじりにして尾羽をつけることによって、骨盤を広くできたので、今の鳥たちは恐竜たちよりも(身体に比して)大きな卵を産めるようになったという変化があります。

クチバシも、かつては「歯よりもクチバシのほうが軽くなるので、飛ぶのに有利になるんだろう」と言われていたんですけど、最近の研究では、そもそも恐竜が絶滅してしまった6600万年前の大量絶滅期、食べるものが少なくなってきたときに、クチバシであれば種子とか実もパキッと割って中身まで餌にできることが有利になったんじゃないかという仮説が発表されました。まったく別の側面からは、卵の中で歯を作ろうと思うと何カ月もかかるけど、クチバシにすればほんの数週間でできるから、無防備な卵の中にいる時間を短縮できる。そういったことがクチバシが増える背景にあったんじゃないかというような研究も発表されています。いずれにしろ、クチバシであったり、胸骨の竜骨突起であったり、手であったり、尾羽であったり、そういうところに始祖鳥以降にモデルチェンジがあって、現代の鳥につながってきていることがわかりまして、恐竜から鳥への進化がうまく説明できるというのが、現在の理解です。

●デイノニクス発見から50年

「恐竜博2019」なんですけれども、私が今年(2019年)、恐竜博をやりたかった最大の理由は、1億2000万年ぐらい前に生きていたアメリカの小型の肉食恐竜がデイノニクスと命名されたのが1969年で、今年はちょうど50年目にあたるからです。そのお祝いということもあるんですけど、デイノニクスが見つかったことで、人間の恐竜の理解がガラッと変わって、この50年というのは恐竜研究にとって非常に大きな進歩があった50年だったのです。この50年を振り返ってみて、現在の最新恐竜学とか、近未来の恐竜学を展望してみましょうということで、「恐竜博2019」を開きました。デイノニクスという名前は、足の指に大きな鉤爪があるんですけど、中でも人差し指の鉤爪だけがすごく大きくなっています。これを見たジョン・オストロムというアメリカのイェール大学教授が、これはさぞかし大きな武器になるだろうということで、デイノ=「恐ろしい」、ニクス=「鉤爪」という意味で、この恐竜を名づけます。新種の恐竜を名づけるときには、恐竜だけじゃなくて生物みんなそうなんですけど、ホロタイプ標本といって、その種の参照基準になる標本をひとつ決めて、「この標本にはこんな特徴があって、今までのほかの種類とは著しく異なるので、私は新種だと考えます」ということを論文に書かなくちゃいけないんですけれども、この足の標本を使って「デイノニクス」と新種の恐竜が命名されたわけです。イェール大学に所蔵されているんですけど、イェール大学でも普段は展示されていなくて研究者が来たら特別に見せてあげるような扱いの門外不出の標本ですけど、今回、無理を言いまして、日本に実物化石を借りてきました。もう二度と貸してくれないと思うので、ぜひこの機会にご覧いただきたいと思います。

余計な話をしますと、なぜ貸してもらえたかというと、僕がイェール大学OBだということはほとんど関係なくて、先方の教授に「借りたいんですけど」と言ったら、「そんなの貸せないよね。普通」ということで、最初はダメでした。でも、「今は展示されていないけど、将来展示したいと思わないんですか?」とお聞きしたら、「骨がバラバラになっているので、展示するといってもなかなか魅力的に展示できない」というので、「『恐竜博2019』にお貸しいただいたら、すごくいい展示台を作って、それを一緒にお返ししますので、どうですか?」ってお話ししたら、「ああ、いいね」って言われて、「今日、持って帰っていいよ」という話になったんですね。保険の問題とかあってその場では持って帰れなかったんですけど、そういう話になりました。

どういうことをやったかというと、CTスキャンを撮って、内部構造じゃなくて外部構造のデジタルデータからレプリカを作りました。アクリルの透明板をレプリカの外形に沿って造形して、地面についているのは三本の指で、親指と小指が小さくあるんですけど、それぞれの指がきちんと一枚一枚のアクリル板に乗るようにしてみました。これをもとに、実際の化石とアクリル板を釣り糸で結わいて展示する台を作りました。先方の教授がこれで認めてくれるかどうか、ちょっとドキドキしています。あとから、イェール大学がこのホロタイプ標本を貸し出したと聞いて、みんな驚いたわけです。そのとき、ジャック・ゴーティエという教授が、「日本に貸すと、刀とか鎧みたいなかっこいいもん作ってくれるんじゃないかな」っておっしゃっていたそうです(笑)。個人的には、透明な台なので、それぞれの指の位置みたいな形がよく見えるんじゃないかなと思っています。

デイノニクスを有名にしたのがジョン・オストロムという、私のアメリカ・イェール大学時代の恩師で、この方はもう亡くなって、今回、デイノニクスをお貸しくださったのはこの後任のゴーティエ教授です。オストロムさんがこの標本を研究していた時、あの足の鉤爪を武器にするのだったら、何回も飛び蹴りを繰り返すような瞬発力、スタミナをもった生物だったと想像しました。それから群れで大きな獲物を攻撃できるような大きな脳を持っているべきだと考えました。スタミナとか大きな脳を維持できるのは、変温動物の爬虫類ではなくて、われわれみたいな恒温動物だろうということから、よく「恐竜温血説」といわれるんですけど、恐竜は普通の爬虫類みたいな変温動物ではなくて恒温動物だったはずだという説、さらに恐竜は完全に絶滅したわけじゃなくて、その一部は鳥になって進化を続けているという説、このふたつの大きな説をデイノニクスの研究から導いたんです。

イェール大学のピーボディ博物館というところに行かれると、「爬虫類の時代」という有名な壁画があります。右側から、古生代、中生代と進んで、そして約6600年前に恐竜が絶滅するというのを大きな壁画に表しています。向かって右側がジュラ紀の約1億5000万年前の恐竜で、ステゴサウルスとかアロサウルスです。左側が白亜紀後期約6600万年前のティラノサウルスやトリケラトプスが描かれています。絵巻物のように恐竜たちが時代とともにその姿形を変えて進化していくことを表した有名な壁画です。1947年に描かれたものなので、まだゴジラみたいに尻尾を引きずった感じのオールドファッションな恐竜像です。絵の中に大きな木が何本かあって、木より右側がジュラ紀で、木より左側が白亜紀ですよということをうまく表現しています。このジュラ紀と白亜紀を分ける木の左右にはだいたい8400万年ぐらい時間の差がある。よく私たち人間とトリケラトプスとかティラノサウルスが共存している漫画なんか見ると、そんなことはあり得ないんだとみんな笑うんですけど、たかが6600万年前なんですね。そうすると、8400万年というと、私たちとティラノ、トリケラがいるよりもすごいもっと長い時間を示しています。この一本の木で分けられているところにもっといろんなことがあっただろうと考えて、アメリカのモンタナ州とかワイオミング州に発掘にいくわけです。そして、オストロム先生がモンタナ州のある場所で、さっきの鉤爪を発見します。発掘を続けていくと、足の人差し指の爪が大きく鋭くカーブして、それからひとつ内側の根元の指の骨の関節面がすごく大きくカーブしているということは、それだけ大きく指先が動かせることを意味しているので、シャーッと上から下へと切りつけるような動きもできる恐ろしい爪だったのだろうということで、1969年に「恐ろしい爪」と名前をつけました。そのときの標本(イェール大学ピーボディ博物館・標本番号5205)をホロタイプ標本として論文に記載したというようなことが1969年の出来事だったわけです。先ほどお話ししたように、群れをなして大きな獲物を攻撃するとか、繰り返し足の爪を使って切りつけるみたいなことをやっていたんだろうから、スタミナがあって大きな脳を常に維持できるような恒温動物、温血動物だったんだろうという説がここから誕生します。

●恐竜の尻尾

先ほど、「ゴジラみたいにまだ尻尾を引きずっていますね」と申しあげました。かつて、恐竜はワニみたいに尻尾を引きずっていてノソノソと歩いていると考えられていたんですけど、このデイノニクスを見ると、尻尾をひきずれないんですね。尻尾はピーンと後ろに伸ばしていて、ひとつひとつの尾椎=尻尾の骨の前のほうに伸びる突起が、普通はひとつ前の骨にかぶさって、脱臼しないようにできている。逆にいうと、だらんと尻尾を下げたり上げたり自由に出来る爬虫類ではないのです。なぜかデイノニクスの尻尾は、前の部分、突起が上側も下側も伸びていて、前10個分ぐらいに折り重なるようになっている。これを見ていると、尻尾の柔軟性が全然ないので、「尻尾を引きずれなかったね」ということになります。2012年にロボットを使って、このまっすぐの尻尾はどう使えば一番効果があるんだろうかという研究をした人がいます。尻尾を水平もしくは下に伸ばしてジャンプさせると、頭の先から墜落していきます。しかし、尻尾をピーンと上のほうに上げていると、お尻から墜落していく。だから、頭が上になる。そうすると、飛び蹴りをする、飛びかかるというときに尻尾をピーンと上にあげていることに効果があるんじゃないか、というような研究もされています。

先ほどお話ししたように、鳥は恐竜の子孫であって、恐竜は完全に絶滅したわけではないということにオストロム先生、気がつきます。始祖鳥のベルリン標本を見ると、頭があって、首があって、背中があって、尻尾がある。前足があって、後ろ足があって、前足の翼であったり、尾羽だったりするところが筋のように見えます。オストロム先生、1960年代だか70年代にドイツの博物館をめぐっているんですね。そこで、気がついたのは、始祖鳥って10個ぐらいしかないんですけど、みんな手首を曲げて死んでいる。普通の肉食恐竜だったら、手首がバスケットボールをドリブルするように上下に動くと普通は考えるんですけど、始祖鳥たちは横になっている。死んでいる状態なので、生きているときはどうだったかわからないんですけど、曲げて死んでいるのが不思議だなと思って考えてみると、鳥たちは手首を平泳ぎみたいに横に動かすことによって翼を広げたりたたんだりする。物をつかまないので、手首が横になっているのは理にかなっているんだなと考えたんですけど、アメリカに帰って大好きなデイノニクスを見ていたら、デイノニクスの手首も半月型をしていて、横に動くようになっている。しっかりと鉤爪があるので、おそらく物をつかんでいたはずなんですけど、手首は横に動くようになっている。いろんな恐竜たちを見ていったんですけど、手首が横に動くようになっているのは、デイノニクスとかヴェロキラプトルとか、一部の小型の肉食恐竜、始祖鳥、そして今の鳥であることが判明します。そうすると、デイノニクスみたいな恐竜の中から始祖鳥みたいなものが進化し、今の鳥があるんじゃないかというようなことに気がついた。1976年です。鳥類の恐竜起源説というのをデイノニクスや始祖鳥の研究にもとづいて発表して、今ではそれがほぼ受け入れられています。一般的に恐竜は絶滅していない、鳥は恐竜の子孫であることが知られるようになりました。そういった大きな説がこのデイノニクスという恐竜からスタートしています。

●『ジュラシックパーク』の冴えたところ

1993年の映画『ジュラシックパーク』をご覧になった方もたくさんいらっしゃると思います。マイケル・クライトンさんの原作をもとにスピルバーグさんが映画を作ったときに、ヴェロキラプトルという賢い小型肉食恐竜が人間たちを追いつめていくシーンがありました。恐竜たちは「ジュラシックパーク」の檻の中に収まっていなくちゃいけなかったんですけど、賢すぎて逃げだしちゃうわけですね。子どもたちがヴェロキラプトルたちに追いかけられて、地下室の冷凍庫が並んでいるところに逃げ込んでバタンとドアを閉めます。そして、子どもの一人の恐竜に詳しい子が、「恐竜というのは、物をつかむために手首が上下に動くから、ドアノブを回せないから入ってこられない」と言ってちょっと安心するんです。みなさん映画でご覧になったように、そんなことはないんです。ヴェロキラプトルのほうは、中をのぞくと餌の子どもたちがいるので、思わず鼻息が荒くなります。ガラス窓が曇ります。ということは、この恐竜の体温は外気温より高い恒温動物であることをさりげなく示しているんですね。次の瞬間、鳥のように動く手首を使ってカチャッとドアを開けて入ってくるわけです。

いろんな恐竜の名前をポンポン出しちゃったんですけど、ヴェロキラプトルは、デイノニクスと違うことにお気づきだと思います。これはまたクライトンさんが賢いことをしていまして、先ほどのオストロム先生のところにクライトンさんが来られて、恐竜のことを取材したんですね。そのときにデイノニクスという名前がいまいち魅力的じゃない。近い恐竜のヴェロキラプトルの方がかっこいいので、ヴェロキラプトルを使いたいとおっしゃったらしいですね。それで、オストロム先生は、「デイノニクスは北アメリカの恐竜でヴェロキラプトルはモンゴルのゴビ砂漠から見つかった恐竜なんだけど、非常によく似ていて近いので、いいですよ」みたいなことを答えられたらしいんです。映画の中では説明していませんが、小説の中でどう説明しているかというと、みなさんも覚えていてイメージ湧くと思うんですけど、恐竜学者がやってきて、クローニングされて孵化した恐竜を見せられて、「これはなんだ?」と聞くわけですね。すると、分子生物学者が「これはヴェロキラプトルです」って言うんです。恐竜学者が「なんでヴェロキラプトルと分かるんだ?」って聞くと、「琥珀の中に入っていた吸血昆虫がこの恐竜の血を吸って、その血をつかって恐竜を復活させてますよね」と。「その琥珀の産地が中国なので、デイノニクスかヴェロキラプトルかっていうと、ヴェロキラプトルなんでしょう」と答えます。主人公の恐竜学者が「ああ、ヴェロキラプトルとデイノニクスね。非常に近いので、人によってはデイノニクスじゃなくてヴェロキラプトルって名前を使う人もいるよね」みたいなことをさりげなく説明している。なかなか冴えた流れなんです。ちょっと脱線しましたが、デイノニクスが発見されたのが1964年で1969年に論文が書かれて、デイノニクスの名前がデビューして、恐竜温血説であるとか、76年に鳥類恐竜起源説とかが出てきて、デイノニクスをきっかけにこの50年で恐竜のイメージがガラッと変わりました。『ジュラシックパーク』の影響も大きいわけですけれども。

オストロム先生も小型の肉食恐竜から鳥が進化したというのはおっしゃっていたんですけど、羽毛はさすがに鳥になってから進化していたんだろうとみんな思っていました。ところが、1996年にシノサウロプテリクスという「羽毛恐竜」が中国で見つかった。尻尾と背中のところとお腹のところにケバケバした羽毛が残っていて、ウロコじゃなくて羽毛になるというのは、鳥類になる前に、まだ恐竜の段階で進化していたというのをみんな認めざるを得なかった。まあ、みんな、フリースぐらいの羽毛だったら恐竜の段階でもいいかなぁみたいな感じになっていました。

このフリースのような羽毛は何を意味するか? 2014年に命名されたクリンダドロメウスは、胴体がフリースみたいな羽毛でおおわれていて、尻尾はウロコです。ワニみたいな変温動物だと体が冷えていると活発に活動できない。そうすると、しばらく日光浴して体温を高めにして、活動しなくてはならない。だけど、あんまり暑くなるとオーバーヒートするので、そうすると木陰に引き下がって体を冷ますみたいなことをやらなくちゃいけない。しかし、恒温動物だったらいつでも活発に活動ができる。だから、こういう「羽毛恐竜」たちは、まさに変温動物から恒温動物に進化したことを示しているのではないか。夜、外気温が下がってきたときに一枚フリースを着ているとか、毛布をかぶっている状態ですね。そういうことによって体温を一定に保つことが、恐竜たちの生態を変えたのではないでしょうか。

先ほど申し上げたように、フリースぐらいオーケーかなと思ってたんですけど、2003年に翼のある恐竜ミクロラプトルの発見が報告されてしまいました。前足のところに黒く見えるところが翼で、実は後ろ足にも大きな翼があるんです。前足の翼と後ろ足の翼が、ほとんど同じ大きさで、4枚の翼を持っていて、ムササビとかモモンガみたい枝から枝に飛び移っているみたいなことが恐竜から鳥への進化の途中にあったんじゃないかというようなことがわかりました。どこまでが恐竜でどこからが鳥か、簡単に境界線が引けないぐらい連続的な進化があったということがわかりました。申しあげたように、鳥だったら胸に竜骨突起のある大きな胸骨があって、ササミと胸肉をがっちりつけられるんだけど、ミクロラプトルは胸に大きな骨がないので、たくましい筋肉をつけることができなかった。そうすると、せっかく翼があっても力強く羽ばたいたりはできない。では、この大きな翼、なんの役に立つんだろうかとか、いろんな疑問が出てきます。イワシャコというキジの仲間(現生種)がいて、キジなので木の上じゃなくて地面に巣を作ります。そこでヒナがかえると、巣にいると危険なのですぐに巣立ちします。そのときに、まだ飛べない状態だけれども小さな翼をパタパタして、それによって木の幹を駆け上がるようになります。飛ぶことは出来なくても、小さな翼でも木の幹を駆け上がることに使えるのです。ここから、小さな翼の恐竜たちが木の上に棲むようになった可能性が指摘されています。

●「羽毛恐竜」

「恐竜博2019」で、注目していただきたい標本はたくさんありすぎるんですけど、もうひとつは、オルニソミムスという鳥に似た恐竜です。1歳未満の子どもの化石が見つかって、羽毛が一緒に見つかりました。「羽毛恐竜」の大部分、シノサウロプテリクスとかミクロラプトルは中国で見つかったものです。羽毛みたいなものは骨や歯に比べると柔らかいので、条件が良くないとなかなかいい化石になってくれない。そういうなかで始祖鳥が見つかったジュラ紀後期の1億5000万年前のドイツや、スペインでも白亜紀前期の1億2000万年前ぐらいから羽毛化石が見つかったりしていますが、ほとんど中国でした。それが北米で初めて、羽毛まできれいに残っていたのが見つかりました。

恐竜展では、フサフサしたところが羽毛なんですよ、と矢印をつけてご覧いただいています。オルニソミムスは、「鳥もどき」。ミムスって、mimic=真似をするという意味ですけど、鳥みたいな恐竜だといわれていたんです。それは、大人になると翼を持っているので、「これだけ体が大きくなっちゃうと翼を持っていても飛べないよね」というのはみんな気がついていたんですけれど、「こういう翼は子どものときにあって、体が軽い子どもの頃はちょっと羽ばたいたりできたかもしれないけど、大人になっちゃうともう飾りでしかないんだよね。そうすると、オスとメスを見分けたり、仲間かどうかを見分けたりすることに使われたんじゃないか。そういう翼の使い方しかないんじゃないかな」と言われていました。ところが、子どもが見つかってみると、なんと翼の痕跡がまったくないので、彼らは大人になってからわざわざ翼を生やしている。体が大きくなると絶対飛べませんから、なんのために翼を生やすのか? 「オス、メスの違いとか、いろんなことがあるんでしょうね」と言われていたんですけど、最近、これも「恐竜博2019」でご紹介していますが、今の鳥たちが卵の上に座って、卵を守りながら自分の体温で卵を温めて中のひなが早くかえるようにしているという、まさに「鳥的な行動」は恐竜から始まっていたことがわかるようになりました。直径180センチぐらいの大きな巣があって、ラグビーボールみたいな細長い卵が放射状に並んでいて、恐竜の巣だということがわかるんですけど、真ん中に卵がないんですよね。大きな恐竜だと、自分が卵の上に座っちゃうと卵を潰しちゃう。だから自分が座るところを残しておいて、まわりに卵を並べて、座って、おそらく翼みたいなもので卵を抱いて温めていたんじゃないかという可能性が浮上してきました。小さい恐竜とか鳥だったら卵の上に座って温めるけれど、大きくなっちゃうと潰さないように自分の座るところを作って、翼を使って卵を温めていたと説明するのがいいんじゃないかという新しい仮説を「恐竜博2019」でご紹介しています。

もうひとつ、爬虫類と鳥類で大きく違うのは脳の構造です。爬虫類と鳥類を比べると、やっぱり体のわりに鳥類のほうが当然脳が大きいわけです。しかしながら違いは、爬虫類は左の方にビヨンと伸びた鼻みたいなものがあるんです。それは嗅覚を司る部分なんですね。鳥は、そのビヨンと伸びたところがあまり発達していなくて、その代わりに視覚を司る部分がすごく発達しているので、爬虫類では嗅覚がメインセンサーだったのが、鳥になると視覚がメインセンサーになるという変化が、脳の形からもわかります。恐竜とか始祖鳥みたいな絶滅動物の脳は腐ってなくなっちゃっているんですけれど、脳が入っていた空洞をCTスキャンで撮って脳の形を復元すると、始祖鳥は前のほうに伸びている細長いところがかなり短くなってきて、視覚を司る部分が膨らんできている。だから、恐竜でも鳥に近くなるにしたがって、メインセンサーがにおいを嗅ぐことから、目でいろいろ見ることに変わっている。クンクンクンと情報を嗅ぎわけなくちゃいけなかったのが、パッと見て、遠くまで見渡して、「ああ、あそこにいるのはオスだ。メスだ」とか、いろんなことがわかって、コミュニケーションがすごく速くなったというようなことがうかがえるわけです。これも、爬虫類から恐竜、そして鳥への段階で大きな変化があったことがわかって来ているわけです。

もうひとつ大きな発見は、2010年。これも中国で見つかった羽毛恐竜で、アンキオルニスという恐竜です。これも前足と後ろ足のところに黒くなっているところが翼なんですね。これも前足と後ろ足に翼があって、全長50センチぐらいの小さな恐竜なんですけれども、4枚羽の「羽毛恐竜」だったのがわかっています。恐竜の色なんて、2009年まで私も自信を持って「そんなことはわかりません」と申しあげていました。どういうことかというと、みなさんが恐竜博とかに行かれると、恐竜の骨が展示してあるんですけど、だいたい黒か茶色かグレーです。だけど骨は白いはずですね。なんで黒いかというと、地面の中に埋もれているうちにいろんな成分が染み込んで汚れているから。だから羽毛も黒く見えるんですけど、これも死んでから周囲の堆積物の色が染み込んで汚れた結果だろうと考えると、「恐竜の色なんかわかんないですよね」と言っていました。

あるとき、イェール大学のある大学院生が、先ほどのアンキオルニスは頭と身体中に羽毛があるんですけど、その表面を電子顕微鏡で見てみると、これは英語の論文なんでこう書いてあるんですけど、「ソーセージみたいな細長いつぶつぶ」と、「ミートボールみたいな丸いつぶつぶ」がありました。「これは何かなと思ったので今の鳥の羽毛の表面を同じ倍率で見てみたら、ソーセージみたいなところとミートボールみたいなところがありました」と。このようなつぶつぶが何かというと、メラニン色素に関連していて、細長いと黒色を発色します。それがびっちり集積していると黒で、まばらになるとグレーになる。ミートボールのほうは、たくさん集積していると赤で、まばらになると黄色になったりするというようなことで、その形と大きさと密度を今の鳥と比較すれば、実は化石の色も分かるということで、モニターに出しているのが、2010年に世界で初めて全身の色がわかったアンキオルニスです。体全体は黒っぽいんですけれども、前足と後ろ足の翼に白い帯模様があって、頭のてっぺんと頬に赤いワンポイントの羽毛があったことがわかりました。ちょっと地味で「こんな鳥いないよ」ってみんな言うんですけど、実際にはいます。北アメリカの絶滅危惧種のキツツキなんですけど、今の鳥なので後ろの翼はありませんが、頭のてっぺんが赤かったり、黒い体に翼のところに白い帯があるなんて、結構似てるんじゃないかと思うんですけど、ここがおもしろいんですね。この子たちは、人口の半分しか頭のてっぺんが赤くなくて、赤いのは成熟したオスを示している。この赤が鮮明だったりきれいな方がモテるんだろうと言われていますが、逆にいうと、遠くから見ても「成熟したオスだ」とか、「こっちよりあっちのほうが素敵だな」みたいなことが一瞬にしてわかるって、コミュニケーションが速くなっていると言われています。そうすると、恐竜の段階で、もうそういうふうに遠くからでも性別を見たり、「どっちに行こうかな」みたいなことも情報収集できるようになっていたかもしれないと言われています。いずれにしても、2010年以降、化石の保存状態が良ければ、色まで再現できることもわかってきました。

1969年にデイノニクスが命名されてから、恐竜温血説とか鳥類恐竜起源説みたいなものが出てきたわけですけれど、恐竜から鳥へ進化したということに疑いを持つ生物学者がまだたくさんいました。その人たちがなぜ疑っていたかというと、始祖鳥の前足は3本指です。デイノニクスとかヴェロキラプトルの手も3本指なんですけれど、これは親指、人差し指、中指で、第1、第2、第3の指だと考える。でも今の鳥も3本指なんですけど、それは第2、第3、第4の指だという説がありました。そうすると同じ3本指でも「1、2、3」と「2、3、4」って全然違うから、古生物学者が「似ている」と言っても、違うんじゃないかという一部の生物学者がいました。これに決着をつけてくれたのが日本人研究者で、東北大学の田村宏治先生です。田村先生は、今の鳥が卵の中で指を形成する過程の中で、一番内側の指を作っている遺伝子は親指を作る遺伝子だということを確認しました。だから、今の鳥も「1、2、3」で、恐竜と同じであることを明らかにしてくださいました。

さらに、田村先生たちが2017年に発表したすごい研究は、「鳥類の進化に関わったDNA配列群を同定(鳥エンハンサーの発見)」。どういうことかというと、今の動物の中で羽毛を持っているのは鳥しかいないですよね。だから、羽毛とか翼って、鳥になって進化してきたんだろうって、今の動物しか知らなかったらそう考えますよね。今日来ていらっしゃる方は、恐竜の段階で羽毛ができていて、翼もできていたことを知っているから、恐竜の段階で羽毛を作れるようになったと考えるのが一番理にかなっているはずなんです。田村先生たちが、哺乳類とか爬虫類とか、鳥も含めてさまざまな動物を研究していくと、実は羽毛を作る遺伝子は私たち哺乳類も持っていることがわかりました。鳥とか爬虫類に限定されない。みんな持っているんだけど、「鳥エンハンサー」というスイッチを入れるような別の遺伝子があって、それが「はい、羽毛を作りましょう」と言ってあげないから哺乳類には羽毛が出てこないことを明らかにしてくれました。このような日本人発生学者の活躍もあって、爬虫類から恐竜をへて鳥になっていく道筋が、説得力のある流れとしてうまく説明できるようになりました。

●第6の大量絶滅期を生きる私たち

絶滅についてちょっとお話をして、休憩にします。今まで栄枯盛衰を繰り返して、現代があるわけですが、示しているグラフは、左側が6億年前のカンブリア紀から、右側が現在となっています。折れ線グラフは、種の多様性を上下で示しています。下がったときが大量絶滅といって、一気にいろんな種類が絶滅しちゃうからガクンと多様性が下がりますが、それが復活してくることによって、生態系が回復する。これを繰り返してきた。今まで過去6億年ぐらいの間に5回、大きな大量絶滅がありました。古生代、中生代みたいな大きな時代の境目も示してありますが、一番大きな大量絶滅があったのが、古生代と中生代の間、約2億5000万年前でした。その後、約6600万年前のところで恐竜とかアンモナイトとかが絶滅するので、中生代と新生代と大きく時代が変わります。この6600万年前の、鳥以外の恐竜たちを絶滅させたのが一番われわれに近い、直近の大量絶滅だったということになります。

2年前に私がアメリカのコロラド州で調査をしている写真をモニターに出していますが、私が指差しているなんの変哲もない地層のところが、ちょうど6600万年前で、隕石が衝突したと考えられる地層なんですね。なんでそんなことがわかるかというと、肉眼では絶対にわかりません。どういうことかというと、イリジウムという元素が、私が指差していた層で急に増えるんですね。それまでは全然なかったのが急に増える。それから石英の結晶を見ると、バーンと何かがぶつかることによって直線状の亀裂が入っていることが世界各地で確認されることから、6600万年前のある日に隕石がドーンとぶつかって、それがメキシコのユカタン半島沖のカリブ海、当時は浅い海だったらしいんですけど、そこへ直径10キロぐらいの隕石がぶつかって、隕石は粉々に壊れます。地球の表面にクレーターができます。そして、その破片が水蒸気と一緒に巻き上げられて大気圏に層を作ると、太陽光線が届きにくくなって、地球の気温で28度ぐらい一気に急激に気温が低下してしまうとか、太陽光線が届きにくくなるので植物が光合成できない期間が2年間ぐらい続いてしまったんじゃないかと。そうすると、生物多様性が下がるだけじゃなくて、食べ物がなくなって多くの種類の生物たちが絶滅してしまった、というようなことではないかと言われていました。

ここで、ふたつ目のクエスチョンです。恐竜は絶滅してしまったんですけれども、鳥類が6600万年前の大量絶滅を生き残ったから、今もこうやってたくさんの鳥類がいるんですけれども、鳥類が6600万年前の大量絶滅を生き残れたのは何が理由だったのか? 三択にしました。(ア)鳥類は小型だったので、食べる量が少なくてすんで、食糧危機をやりすごすことができた。(イ)恒温動物だったので、まわりの気温が下がっても体温を高く保つことができたので大丈夫だった。(ウ)植物が光合成できなくなって減っちゃったけれど、肉食だったのでなんとか餌を確保して生き残ることができた。はい。では、小型だったからという方? 大勢いらっしゃいますね。恒温動物だったからという方は? 肉食だったから? ここでの答は「小型だったから」ということにしたいと思います。

「恐竜博2019」の会場で、ティラノサウルスがちょっと左の方を見ていると左のスクリーンに隕石が衝突して、大きな環境変化が起こる瞬間を示しているんですけれど、ここでちょっと会場の通路の天井が低くなっています。これは、「小さいものだけが通り抜ける。小さいものしか生き残ることができなかった」ということを意味しています。恒温動物は、実は体温を高めに保つために同じ体重の変温動物のだいたい5倍ぐらい多く食べ物をとらなくちゃいけないので、恒温動物であることは、体が大きくなるとそれだけ不利になる。哺乳類は、恐竜に虐げられて体が小さいものが多かったので、サバイバル率が高かった。それから鳥も、空を飛ぶという制約があったので体が小さめのものが多かったので、サバイバル率が高かった。ワニとかカメとかトカゲとかヘビとか生き残っているんですけれど、あの子たちも大きなものは絶滅しているんですけれども、少々体が大きくても変温動物なので、省エネで食べる量が少なくてすんだので、サバイバル率が高かったことがわかっています。肉食も、選択肢として説明したときには、そのほうがいいかなと思ったりするんですけど、鳥の中で生き残っているものには草食と肉食のものが、だいたい半分半分ぐらい生き残っているので、肉食であったことがそんなに有利ではなかったと言えます。いずれにしても、何を食べていても、少ない餌でやりすごせる、体が小さいとか、変温動物であるというようなことが幸いして、総じて体の小さいものだけが通り抜けることができて、現在につながっています。私の最初の提案は、もっと天井を低くして、かがまないと通れないみたいにすると、みなさんにも感じていただけると思ったんですけど、それをやると混雑しちゃうのでやめてくれと言われました(笑)。会場に行かれたら、「ここ、もっと低くしたかったのね。もっと狭くしたかったのね」って思っていただいたら幸いです。

しかし哺乳類は、恐竜がいたときには小さい哺乳類しかいなかったんですけれど、恐竜がいなくなってくれたら一気に大きくなりました。爬虫類たちはそんなに変わらないのに、哺乳類が一気に大きくなって多様性もずっと広がったことが、ここ数年の調査でわかってきました。今、何がそういう哺乳類たちの多様化とか大型化を助けたのかを研究しているところなんですけど、これまでは隕石が衝突して環境が悪化してしまって、多くの生物が絶滅して、生態系が元どおりになるまでに1000万年ぐらいの長い時間がかかったんでしょうねと言われて来ました。しかし、哺乳類たちが、どうも数万年、数十万年ぐらいで大きくなったり多様化している可能性が高いことがわかってきたので、なぜ哺乳類だけがそういうふうに早くカムバックできたのかを知るのは、何か大きな変化があったときにどういう条件があれば回復が早まるのかを知るのに役に立つのではないかと考えられています。

約6600万年前の第5回目の大量絶滅が、われわれが知っている5大大量絶滅の中で直近の出来事だったわけですけれども、今、実は第6の大量絶滅期に入ってしまっているといわれています。特に1900年以降、脊椎動物、魚、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類だけで、320属ぐらい絶滅してしまっているという深刻な状態になっているらしい。海の生物では、6600万年前に隕石が衝突して多様性がガクンと下がる。その後、しばらく絶滅率は低かったので生物多様性はどんどん増えたんですけれど、今、絶滅率が急激に上昇している。気がつかないうちに、どんどん絶滅している。生物多様性も下がっています。この絶滅率急上昇をどうやって止めるかは大きな課題です。「恐竜の研究なんてロマンがあっていいですね」ってよく言われるんですけれど、ロマンだけじゃなくて、恐竜の研究が何か私たちの役に立つこともあるんじゃないかということで、今、どのように鳥類以外の恐竜が絶滅して、哺乳類たちがなぜ早く回復することができたのかを調べたりしているところです。ここで休憩時間にしたいと思います。

●ちょっとややこしい「竜盤類」と「鳥盤類」

恐竜の骨盤には穴が開いているので、穴が開いているかいないかが重要だと申しあげたんですけれど、もうひとつ、恐竜は竜盤類と鳥盤類があって、横から見たときに恥骨が前を向いているのが竜盤類、後ろを向いているのを鳥盤類といいます。竜というのは爬虫類を示していて、今のワニとかトカゲとかカメみたいなものの骨盤は前を向いている。それに対して今の鳥たちの骨盤が後ろを向いていることに1888年に気がついた人がいます。それで鳥盤類、竜盤類と大きく恐竜を分類できることに気がついたんですね。それが今でも使われています。よくいろんな方が、「じゃあ、恐竜が鳥に進化したというのは、鳥盤類から鳥が出てきたんですよね」って思うんですけど、実はちょっとそこにひねりがあります。鳥盤類は絶滅してしまって、竜盤類の中で恥骨が前を向いていたのが徐々に後ろを向くようになって鳥が生まれてくる。だから人によっては、「これは名前を変えたほうがいいんじゃないですか」とおっしゃるんですけれど、分類学の本はぶ厚いので、名前を変えようという動きは案外ないです(笑)。そこへきて2017年に、「鳥は竜盤類じゃなくて鳥盤類に近いところから実は出てきたんですよ」という論文が出ました。オルニトスケリダ、オルニトは「鳥」で、スケリダは「脚」で「鳥の脚」という意味です。イギリスのケンブリッジ大学と大英自然史博物館のチームが、初期の恐竜の進化に関する恐竜の類縁関係の新しい仮説を出して、竜盤類から鳥が進化してきたのではなくて、鳥盤類そのものじゃないけれど鳥盤類の親戚として鳥に近い獣脚類恐竜が位置づけられるという説です。鳥盤類と獣脚類を併せてオルニトスケリダという新しいグループをつくって、新しく分類したほうがいいんじゃないかという説が出てきました。今、世界中の研究者たちが、この研究に含まれていなかった種類の恐竜のデータを足して、はたしてこっちがいいのか、古い方がいいのか喧々囂々やっています。今のところ、古い方が生き残りそうな感じですが、まだわからない状態です。

なぜこんな重箱の隅をつついたようなものを出してきたかというと、このオルニトスケリダというのはトーマス・ハクスレーが1870年に提唱している名前なんです。ハクスレーは「ダーウィンのブルドッグ」といわれて、ダーウィンのスポークスマン的な立場を任じた研究者です。彼が実は1870年に2足歩行の恐竜たちにはやっぱり2足歩行の意味があるんじゃないかと考えて、オルニトスケリダという名前を提唱しました。なので、ハクスレーの「オルニトスケリダ」を復活させたほうがいいんじゃないかというのが今回のイギリスのチームの提案です。そんなところから急に19世紀の研究が再注目されることになりました。ハクスレーは当時、2足歩行の恐竜と4足歩行の恐竜がいて、2足歩行の恐竜って進化しているんじゃないかと思って名づけたんですけど、もともと恐竜は、ガニ股腕立て伏せで4足歩行で這っていた爬虫類の中で骨盤に穴が開いたので、2足歩行で歩くようになったのが最初の恐竜だった。最初、肉食の2足歩行の恐竜しかいなかったんですけれど、4足歩行に戻るものが出てくるんですね。植物を食べるようになると、植物繊維の消化に時間がかかるので、腸を長くしなくちゃいけなくなって、そういった理由から胴体が大きくなる。そうすると2本の足で体を支えるよりも、4本の柱で支えたほうが良くなるので、4足歩行に戻るものが多くなってきたという説明が一般的です。そういった意味では、「2足歩行が進化した動物だというオルニトスケリダ類」というのは当たっていないんですけれど、この古い名前を持ち出してきて、恐竜の分類を再考しようという、きわめてイギリス人らしい発想が背景にあります。僕は博士号はイギリスでもらっているので、ちょっとこっちを応援したい気持ちもあるんですけど、今のところ少し旗色が悪いかなという感じです。

「恥骨が竜盤類は前に向かっていて、鳥盤類は後ろに向かっている」って、すごい分かりやすいので、よく恐竜ファンの人から「オルニトスケリダって、どういう特徴があるのか」と聞かれるんですけど、わかりやすい特徴がなくて、上顎のところにちょっとくぼみがあるとか、肩甲骨がちょっと細長いとか、上腕骨の根元にくびれがあるとか、そういうような特徴です。恐竜好きな子どもたちはいろいろ記憶してくれていると思うんですけれども、なかなかわかりやすい特徴とはいえないのが残念なところです。まあ、わかりやすいことが最優先されるのではなくて、どれが真実に近いかということですから、わかりにくいことはマイナスじゃないんですけど、なかなか説明がしにくいです。

●ハクスレーの慧眼

ダーウィンのブルドッグのハクスレーですが、実は1877年、アメリカに行って講演したときにこんなことばを残しています。「(恐竜)が羽毛をもっていたという証拠はありません。しかし、もし羽毛があったとしたら爬虫類的鳥類と呼ぶべきなのか、鳥類的爬虫類と呼ぶべきなのか、簡単には結論がだせないでしょう」。羽毛の存在を予言しているようなことを言っています。今から振り返ると、すごいなぁと感心するしかないです。ダーウィンと同時代にハクスレーが恐竜の大きな分類に関して、今、復活するかもしれない説を出して、羽毛の存在を予言していたようなことも、今、注目されています。

またクエスチョンなんですけど、ティラノサウルスかトリケラトプスという学名について、恐竜は全部で何種類ぐらいいるでしょうか? 1000、1万、10万と、ざっくりと三択にしてみました。だいたい図鑑には300種類ぐらい載っています。みなさんのイメージではどうでしょうか。じゃあ、控えめに1000ぐらいかな、という方? 真ん中とって1万ぐらい? 10万というチャレンジャーはどのくらいいます? ありがとうございました。現時点の数は約1030です。なので、1000を正解としたいと思います。しかし、1万、10万に手を挙げられた方も長生きしたら必ず正解になります(笑)。なんでそんなことを言うかというと、生物多様性が減ってきて、第6の大量絶滅期なんじゃないかというお話をしたんですけど、鳥だけで9000種類いるんですね。哺乳類だけでも6000種類です。そう考えると、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀と1億何千万年の間、繁栄した恐竜が10万とかそんなことはなくて、何十万、もしかしたら100万種いたかもしれない。私、今日偉そうに恐竜のことをペラペラしゃべっていますけど、世界中の研究者は、恐竜のことは氷山の一角しかまだわかっていないと考えています。

●カムイサウルス・ジャポニクス

最近、命名された恐竜を一つ紹介します。「恐竜博2019」の宣伝みたいですけれども、北海道から見つかったむかわ竜。むかわ町から見つかったのでむかわ竜と呼ばれています。実物の骨を並べて、全身復元骨格を今回初めて作りました。全長8メートル。全身80パーセントぐらいの骨が見つかっています。日本の恐竜としては、今までで最高の発見じゃないかということで、北海道大学の小林快次先生が論文を執筆されて、めでたく2019年9月6日にカムイサウルス・ジャポニクスという新種の学名が発表されました。恐竜博でもすぐにその学名の看板を加えました。アイヌの言葉でカムイは神様みたいな存在、ジャポニクスは日本という意味なので、日本の神のような最高の恐竜であるというような学名がつけられました。カムイは中性なんですね。第二外国語で、ドイツ語やフランス語をやられた方は、単語には男性形と女性形と中性があると、めんどくさいことを習った記憶があると思うんですけれども、カムイは中性です。もしこれが女性形であったら、カムイサウラ。サウルスじゃなくてサウラになって、ジャポニクスも女性形だったらジャポニカになって、学習帳みたいになりますが、中性なので「カムイサウルス・ジャポニクス」という名前になっています。

全身220個以上の骨が見つかって、ハドロサウルス類という草食恐竜で、エドモントサウルスとかマイアサウラに近いような恐竜です。なぜかわからないんですけれども、背中のところの上に伸びている突起が、普通は真上とかちょっと後ろに傾いているんですけど、カムイサウルスは前に傾いていることとか、前足の上腕骨という骨が大腿骨に比べるとすごく細い、前足がほっそりしている、そんな特徴から新種であろうと考えられています。恐竜博の会場で、カムイサウルスの上を見ていただくと、鏡があります。これ、私が提案したので宣伝したいんですけど、なぜ鏡があるかというと、下へ行って写真を撮っていただくと、みなさんと実物化石の写真が撮れる仕組みになっています。ローテクなアイディアですけれども、もしこれから行かれる機会があったらぜひ写真を撮っていただきたいと思います。

●まとめ

最初は海の中にしか生き物がいなくて、脊椎動物、背骨のある動物は魚しかいませんでした。それが、ひれが手足に変わって上陸をするようになります。しかしながら、卵が、カエルの卵をご覧になったことがない方もいらっしゃるかもしれないですけど、卵に殻がないのですぐに干からびてしまうので、水の中に産卵するしかない。そうすると、カエルは陸上生活をしていても、一生はオタマジャクシから始めなくちゃいけないというような制約がありました。両生類と爬虫類、何が違うかというと、爬虫類になると殻のある卵を産めるようになるので、陸上で卵を産めるようになる。水に戻らなくても一生を始められるようなことが有利になって、一気に陸上で広がっていきます。そういうなかで恐竜は骨盤に穴が開くことによって、ガニ股じゃなくてすくっと立ち上がる。最初の恐竜は肉食で2足歩行でした。その後、植物を食べるようになって4足歩行になったりするものも登場します。雑食になるものも出てきます。もともと、おそらくウロコしかなかったんですけど、それが羽毛に変わることによってフリースとか毛布で夜とか朝、気温の下がったときに体温が下がらないようにする工夫が出来たので、恒温動物、温血動物になったと考えられています。そして、翼ができることによって、枝から枝に飛び移るようなことができて、胸肉とササミの部分を増強することによって、前足の羽ばたき能力が高くなると後ろ足の翼がいらなくなって、今の鳥たちは前足の翼だけで飛ぶことができるのだろうと考えられています。色がわかってみると、もしかすると頭のてっぺんの羽毛が赤いのは(ニワトリのトサカが赤いのは血の色)、もしかすると成熟したオスだということを離れたところからすぐにわかったり、こっちのオスの方があっちよりも鮮やかで素敵そうだから、こっちへ行ってみようかなというような選択も速くなるみたいなことが起こっていたかもしれない。大きな恐竜も抱卵していたとお話ししました。巣に座ることによって自分で卵を守って、かつ自分の体温を使って中のひなが早くかえるようにするような、今、鳥が普通にやっていることが恐竜の段階で始まっていたんじゃないかというようなことがわかってきました。どこまで恐竜でどこからが鳥かわからない、境目が引けないぐらい、連続的に進化があって今日に至っていることが、「恐竜博2019」の中で解説されています。

●『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』

残りの時間で、ちょっと童心にかえっていただこうと思います。岩波書店から1964年に日本語版が出た『せいめいのれきし』という絵本があります。これは舞台仕立てになっていて、開くと左側のページに博物館に展示してあるような骨格があって、右側にそれをジオラマ的に「こんな環境でこういう生き物たちが暮らしていた。こんな時代です」と示してあって、ページをめくるごとに現代に近づいて、そして地球46億年の歴史の中で生物がどのように進化して現代につながっているかがわかる絵本です。僕も子どものときに大好きな本だったとずっと言ってきました。2015年に改訂版のお手伝いをするときに、あらためて読み返すとすごい難しい内容なので、こんな難しいものを私が喜んで読んでいたわけがなくて、たぶん絵を見て喜んでいただけだったんだなということを発見して、非常に反省しています(笑)。いずれにしろ、この絵本が大好きだったことは変わりません。『せいめいのれきし』を紹介していくなかで、時代ごとに登場人物が変わることはこの絵本の中で非常によく描かれているんですけれど、どういうふうに魚から私たちに進化してきたのかって、この本だけではうまく伝えることが難しいなということに気がつきました。たまたまSNSでどなたかが紹介されているアメリカで作られた『Grandmother Fish : A Child’s First Book of Evolution』という本を見て、ああ、こういう本を『せいめいのれきし』とあわせて紹介すると、進化について理解が進むんじゃないかなということで、いろんな出版社の方にお話ししたら、岩波書店さんが日本語版の『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』(ジョナサン・トゥイート著、真鍋真訳)を今年の夏に出してくれました。

ここからちょっとおつき合いいただいて、この絵本を読んでいくんですけど、「はいはい」とか「くねくね」とか「きゅーきゅー」とか動作を表現したオノマトペ的な単語が進化のひとつのひとつの場面で重要だったんだろうということが、この絵本で示されています。たとえば、「くねくね」というときに体を動かしていただいて、魚が「くねくね」泳いでいるんですけど、みなさんの遠い祖先が「くねくね」していたことに思いを馳せていただけたらと思います。口を「ぱくぱく」して顎で咬みつくとか、手足で「はいはい」したり、陸上で空気を「すーはー」する。「きゅーきゅー」鳴いて餌をねだる。親が子どもを「ぎゅっ」と抱きしめてあげる。手で「ぐーっ」と、ものをつかむ。「ぐーっ」と握って、「ほーほーほー」と声を出して感情を表現する。それから「すたすた」歩くとか、「ぺちゃくちゃ」おしゃべりをするというようなことが、魚から私たちの進化の中で、節目節目で起こってきた大きな動作の変化であるということを紹介している絵本なので、みなさんも一緒にジェスチャーを混じえて、その進化を体感していただきたいと思います。

『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』
ジョナサン・トゥイート文 カレン・ルイス絵。

わたしは さかなたち みんなの おばあちゃん。
ずっと ずっと ずっと ずっと ずーっと おおむかしに すんでいました。
わたしは からだを くねくね させて、みずのなかを すいすい およぐことが できました。
きみも くねくね できるかな?

それから、くちを ぱくぱく うごかして たべることが できました。
きみも くちを ぱくぱく できるかな?

当たり前ですよね。もともと口はなくちゃいけないんですよ。口と肛門はなくちゃいけないんですけど、吸い込んでそのまま飲み込むことしか初期の魚はできなかったのが、顎を閉じてバリバリ咬めたり出来るようになりました。さらに哺乳類になると咀嚼するようになるんですけど、そんな「ぱくぱく」というところが大きな魚の進化の中で重要な出来事だということを示しています。

わたしには たくさんのしゅるいの まごたちが いました。
まごたちは みんな からだを くねくね、くちを ぱくぱく うごかすことが できました。
このまごたちのなかに はちゅうるいや ほにゅうるいたち 
みんなの おばあちゃんは いますか?

ということで、いとこのサメとか、いとこのシーラカンスとか、出てきます。こっちに行ってもいいんですけど、やっぱり人間にたどりつくために、爬虫類や哺乳類たちがみんなのおばあちゃんのほうになる進化の道に行かなくちゃいけないので、こちら進んでいただくと……。

わたしは はちゅうるいや ほにゅうるいたち みんなの おばあちゃん。
ずっと ずっと ずっと ずーっと おおむかしに すんでいました。
わたしは あしで じめんを はいはい して すすむことが できました。
きみも はいはい できるかな?

それから、すーはー くうきを すったり はいたり できました。
きみも すーはー できるかな?

わたしには たくさんのしゅるいの まごたちが いました。
まごたちは みんな からだを くねくね、くちを ぱくぱく、
じめんを はいはい、くうきを すーはー することが できました。
このまごたちのなかに ほにゅうるいたち みんなの おばあちゃんは いますか?

ということで、やっとここで恐竜が出てくるんですね。いとこのトリケラトプスとか、いとこの始祖鳥とか、いとこのトカゲとか、いとこのディメトロドンとか出てくるんですが、あっち行っちゃうと人間にはたどり着けないので。みなさんは、哺乳類みんなのおばあちゃんのほうに行っていただかないといけないんです。こちらに行きましょう。

わたしは ほにゅうるいたち みんなの おばあちゃん。
ずっと ずっと ずーっと おおむかしに すんでいました。
おなかを すかせた こどもたちは きゅーきゅー なきました。
きみも きゅーきゅー なけるかな?

それから、こどもたちを ぎゅっと だきしめたり、
おちちを あげることが できました。
きみも ぎゅっと だきしめることが できるかな?

わたしには たくさんのしゅるいの まごたちが いました。
まごたちは みんな からだを くねくね、くちを ぱくぱく、じめんを はいはい、
くうきを すーはー、きゅーきゅー ないて、
こどもを ぎゅっと だきしめることが できました。
このまごたちのなかに チンパンジーや にんげんたち 
みんなの おばあちゃんは いますか?

ということで、いとこのゾウとか、いとこのキツネとか、いとこのウマとか、いとこのクジラとかいるんですけど、そっちに行くと話が長くなりそうなので、素直にチンパンジーや人間たちのおばあちゃんのほうに行っていただきたいと思います。めくります。

わたしは チンパンジーや にんげんたち みんなの おばあちゃん。
ずっと ずーっと おおむかしに すんでいました。
わたしは てを のばして えだを ぐーっと にぎって、
きに のぼることが できました。
きみも てを ぐーっと にぎることが できるかな?

それから、うれしいと ほーほー と こえを だしました。
きみも ほーほー と いえるかな?

わたしには たくさんのしゅるいの まごたちが いました。
まごたちは みんな からだを くねくね、くちを ぱくぱく、じめんを はいはい、
くうきを すーはー、きゅーきゅー ないて、こどもを ぎゅっと だきしめ、
てを ぐーっと にぎり、ほーほー と こえを だすことが できました。
このまごたちのなかに にんげんたち みんなの おばあちゃんは いますか?

ということで、オランウータンとかゴリラとか、いとこのチンパンジーとか、いとこのテナガザルも、なかなか親しみが湧くところなんですけど、お時間の都合もございますので、人間たちみんなのおばあちゃんのほうに進んでいただきます。

わたしは にんげんたち みんなの おばあちゃん。
ずーっと おおむかしに すんでいました。
わたしは にほんの あしで、すたすた あるくことが できました。
きみも すたすた あるくことが できるかな?
それから、みんなと ぺちゃくちゃ おしゃべりしたり、
おはなしを することが できました。
きみも ぺちゃくちゃ おしゃべり できるかな?

わたしには たくさんのしゅるいの まごたちが いました。
まごたちは みんな からだを くねくね、くちを ぱくぱく、
じめんを はいはい、くうきを すーはー、きゅーきゅー ないて、
こどもを ぎゅっと だきしめ、てを ぐーっと にぎり、ほーほー と こえを だし、
すたすた あるき、ぺちゃくちゃ おしゃべりすることが できました。
……そして、いま このほんの まえに いる きみも、
わたしの まごの そのまた まごの またまた まごの ひとり なんですよ!

というお話でした。次に大きな系統樹があります。生命の起源からお魚にきて、手足で上陸をするようになって、だんだん別の哺乳類からチンパンジー、人間、みんな、そして私たちのおばあちゃんというふうにつながっていく。わたしのように寄り道好きだと、トリケラトプスになったり、始祖鳥になったり、ティラノサウルスになったり、いろいろなところに行ったほうが楽しいかなと思います。今、こういう関係で、たとえば同じ哺乳類でも、哺乳類の初期のところで枝分かれすると、ウマになったりクジラになったり、キツネになったり、ネコになったりイヌになったりということがあったでしょうということが解説されています。

さて、ここで、クエスチョンです。生命進化は人を目指して進んできたかという質問に対して、「そう思う」「そう思わない」、みなさんのイメージをお聞きしたいと思います。人を目指して進化は進んできたのか。「そう思う」と思う方はどのぐらいいらっしゃいますか? ごく数名の方が、躊躇しながら手をあげてくださいました。ありがとうございました。なんでこんな質問をしたかというと、最後のほうに大人向けのページがあって、進化についてよくある誤解を解説しています。進化は人を目指して進んできたというのに対して、「これは誤解ですよ」という説明の仕方がなかなか良くて、「もしゾウがこの本を書いていたら、最後はゾウのおばあちゃんが登場するでしょうし、進化の歴史はゾウに向かって進んできたように語られるでしょう。進化の過程ではさまざまな新しい生きものが生まれます。ヒトはそのひとつに過ぎません」というふうに説明してくれています。

では、もうひとつ、クエスチョン。「進化とは新しい特徴が増えることだ」。新しく、いろんなことができるようになってきた。「ぎゅーっ」とにぎるとか、「ほーほー」と言ったりするようなことも、その一例かもしれません。じゃあ、「進化とは新しい特徴が増えること」、そう思う人は? 控えめな方がたくさんいます。まあ、そう思わないという方々もたくさんいます。

ここでもうひとつ、福岡伸一さんが訳された『ダーウィンの「種の起源」:はじめての進化論』という新しい絵本が出ているんですけど、そこでクジラを紹介しています。クジラはご存知のように、もともと陸上で生活していた哺乳類が水の中で泳ぐようになってくると、もともとは後ろ足が体を支えて、地面を蹴って走ることに重要だったんですけれど、水の中を泳ぐというと、ドルフィンキックで尻尾を大きく動かすことになるので、後ろの足がなくなってしまいます。多くの動物たちにはもはやなんの役にも立たない骨や器官や体の一部があります。私たち人間のお尻には、尻尾の名残りがついていますし、クジラには地上を歩いていた時代の足の骨の名残りが骨盤の部分に残っていたりするわけですね。動物の体は進化の歴史を語ってくれるんです。ですから、尻尾がなくなるとか、後ろ足がなくなることも、実はそういうものが「失われて」しまうんですけれど、それも「進化」であることから、進化のイメージでは新しく何かできるとか、特徴が増えるイメージが大きいですけれど、こういうふうに退化するのも進化のひとつの現象であることをここで解説してくれています。

先ほどの、『わたしは、みんなのおばあちゃん』の中では、こんなふうに説明されています。「進化の過程で特徴が失われることもあります。たとえばクジラは、はいはいしていたほ乳類から進化してきましたが、後ろ足を持たないのではいはいすることはできません」。そういうそれぞれの体の使い方、生息環境によって、必ずしも新しい特徴が増えてくるわけではないんですよということを説明しています。ダーウィンに戻るために強引にダーウィンの『種の起源』を持ってまいりまして、今のクジラのことをご紹介しています。国立科学博物館の常設展示のほうに、もともと4足歩行で草原を走っていたクジラの祖先の復元骨格からクジラになっていって、だんだん後ろ足が小さくなって、骨盤のところが小さく残っている段階というのを追えるようになっていますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

最後に、『若い読者のための「種の起源」』という本の中の訳を引用します。ダーウィンが書いているものです。
「博物学の研究では、痕跡器官は「釣り合いを保つため」とか「自然の計画を完遂するため」に創造されたといわれる。しかし、これはそういう器官が存在するという事実を言い換えているだけで、何の説明にもなっていないように思われる。変異を伴う世代継承という私の理論によると、痕跡器官の起源は簡単に説明できる。(中略)痕跡器官は、単語の綴りに含まれていて、発音されない黙字に似ている。黙字は、単語の語源を探るための糸口になるのだ。すべての種は現在ある姿で創造されたとする考えからは、不完全で役に立たない痕跡器官は説明し難い奇妙な存在だろう。」(第12章・生物相互の類縁性、形態学、発生学、痕跡器官)

博物学の研究では、痕跡の残っている、先ほどのクジラの小さな骨盤、そういった部分ですけれど、一般的な当時の博物学者たちは、「釣り合いを保つため」とか、「自然の計画を完遂するために創造された」と言うと。しかし、これはそういう器官が存在するという事実を言い換えているだけで、なんの説明にもなっていないように思われると。ダーウィンは、「痕跡器官は単語の綴りに含まれていて、発音されない黙字に似ている。黙字は単語の語源を探るための糸口になる。すべての種は、現在ある姿で創造されたとする考えからは、不完全で役に立たない痕跡器官は説明しがたい奇妙な存在だろう。しかし、この進化を考えると、そういうような現象が起こるということをちゃんと説明できるじゃないか」ということを最後のほうの第12章で、クジラの後ろ足なんかを紹介しています。強引にダーウィンに戻ってきまして、私からのお話をこのぐらいにして、残りの時間でみなさんからご質問をいただきたいと思います。

今日はふたつ標本を持ってきました。私よく化石って押し花みたいなものだと表現するんですけど、地層が古いところからだんだん積み重なってきています。そういう地層が本のページみたいになっていますけど、そういうところにカンカンカンと石を割って開いてみると、このページに始祖鳥がいたりするわけですね。ですから、本を積み重ねるみたいなイメージでよくお話をします。これ、中国の遼寧省の1億2000万年ぐらい前の地層なんですけれど、横を見ていただくと、薄い層が本のページみたいに積み重なって、割ったときに表と裏に魚の化石があります。押し花みたいに魚の化石が入っている。本当は、私は「羽毛恐竜」を探したかったんですけれど、「羽毛恐竜」が見つからなかったので、魚で我慢してください。もうひとつは、国立科学博物館にトリケラトプスが展示してありますけど、そのトリケラトプスのフリルの部分。フリルというのは、角が3本あるのでトリ=3で、ケラは角で、オプス=顔っていう意味なんですけど、首の上を覆うフリルという分厚い後頭部の骨が化石になったところです。非常に分厚い。おそらく、これ、首をティラノサウルスなんかが後ろから襲ってきて、首に咬みつこうとしたとします。ヘルメットのつばみたいな突起が後ろに伸びているので、なかなか咬まれにくいという機能がありました。手に持っていただいて、分厚さをちょっと感じていただけたらと思います。では、何か質問のある方、いらっしゃいますでしょうか?

●質疑応答

受講生:ふたつ質問があります。ひとつ目は、今、第6回の大量絶滅期に入っているとおっしゃったんですけど、大量絶滅期という言葉のイメージからすると、バタバタといなくなるイメージを思っていたんですけど、現実には、もしかしたら今と同じぐらいというか、個々の生物から見たら、生まれたときと死ぬとき、その環境で一生懸命生きるだけで、たいして変わっていないけど、地球のタイムスケールだったらどんどんなくなっている。本当はそっちなのでしょうか?
真鍋:いつも新しい種が生まれて、それと必ず同じ数ではないんですけど、絶滅している種類がいるので、一応バランスが取れています。どんどん新しい種類ばっかりが増えて、絶滅してくれる種類がいないと、空間が限られているので過飽和状態になってしまうんだろうと思います。一応、大量絶滅というのは、200万年の中で生態系の75パーセントとか、そういうかなりの量が一気に絶滅しているような特別な状態を大量絶滅と定義しているんですね。今、第6の大量絶滅期にあるというときに、これだけたくさんのものが短い間にどんどん絶滅しているということをお話ししたんですけど、いまは、200万年という期間の中で75パーセントのものが絶滅したという定義を置いているので、時間をかけないと、その定義に当てはまらない。これは定義の問題なんですけど、そういうところで明確に大量絶滅が起こっているというような話です。今までの大量絶滅と同じ次元で語れないことが起こっちゃっています。ただ絶滅率自体は、普通だったら100年とかそのぐらいの間であれば数種類しか絶滅をしないはずなのが、何百種類と絶滅しているので、そうとう深刻で急激な絶滅が起こっていることは間違いないだろうと思います。

受講生:過去の絶滅期も、このペースというか、何が起こっているんだろうかとびっくりするほどじゃないんだけど、測ってみると、すごく絶滅している。そういう感じだということですか。
真鍋:はい、そうですね。それで、その絶滅の仕方がやっぱり6600万年前の大量絶滅期に匹敵するぐらい、急激に絶滅率が上昇しているので、かなり深刻な状態だと言えます。
受講生:意識しないとわからないんですね。
真鍋:そうなんです。

受講生:恐竜博を見に行ったんです。そのときに、むかわ竜の骨格と同時に想像図があったんですけれど、これが羽毛がなくて、どちらかというとオールドファッションな恐竜というか、爬虫類っぽい絵でした。これはなにか根拠があるんでしょうか?
真鍋:はい。いろんな説があって、もともと鳥になったのは恐竜の中でごく一部だとされています。むかわ竜みたいなハドロサウルス類は、鳥盤類に含まれているんですね。だから、鳥に進化しなかった。まあ、恐竜の中では鳥とかなり距離のある遠縁な存在なんですね。それで、彼らは、むかわ竜は骨と歯しか見つかっていないですけれども、近い種類のエドモントサウルスとかはウロコが見つかったりして、彼らは羽毛じゃなくてウロコの恐竜だったと考えられているので、羽毛ではなくてウロコの姿に復元されています。それが理由です。人によっては、恐竜が始まったときから羽毛が始まっていたと言います。とかくわれわれは鳥にかなり近くなってから羽毛になっていくんだねという説明をしがちなんですけれども、実は恐竜が始まって、鳥盤類と竜盤類が枝分かれする前から羽毛だったんだという説があります。その根拠はなにかというと、クリンダドロメウスというロシアに生息していた恐竜は羽毛がフサフサしていて、フリースみたいな羽毛があるんですけど、これがいわゆる鳥盤類なんです。羽毛が一回しか進化しなかったとしたら、いわゆる鳥が出てくる竜盤類と鳥にならなかった鳥盤類が枝分かれする前に羽毛が出てきたと考えなくちゃいけない。鳥盤類も、鳥にならなかったけれども羽毛を持っていたはず。そうすると、ウロコが見つかったトリケラトプスとか、むかわ竜の仲間のエドモントサウルスをどう説明するかというと、「もともと羽毛だったんだけれども、またウロコに先祖返りした」と説明することが出来ます。それで、むかわ竜みたいな仲間もウロコであると。だけど、もしかすると羽毛の起源はもっと古かったかもしれないと言う人もいれば、鳥にだんだん近くなっていってから羽毛ができて、翼ができて、今の鳥があるという考え方の方もいらっしゃいます。

受講生:絶滅している動物の話なんですけど、これの一番の原因は何でしょうか。やっぱり人間が関わっているんでしょうか。
真鍋:はい。やはり人間の諸活動が活発になってから、次々と絶滅する数が増えているんです。ですから人間が、どんどん人口を増やしていろんな活動をしていることが関係しているのは間違いないと思います。先日、中国から国立科学博物館にツアーで6組ぐらいの親子が恐竜博に来られていました。お相手できるときはお話をして、第6の大量絶滅であるとかを説明しながら、なぜ恐竜の絶滅みたいなことを現代人が注目しなくちゃいけないのかというようなことを説明させていただきました。中国のあるお父さんが「じゃあ、次に隕石、飛んでくるのはいつなのか」というので、「今のところ、隕石が直近に来るようなことは公表されていません。いつ来るかわからないですよ」と言ったら、「隕石が飛んでこないんだったら、心配しなくていいじゃないか」と言うんですよね。そのときに僕、それが正しいというわけじゃないんですけど、「いや、地球にしてみれば僕たち人が急に増えて、環境を変えてしまって、いろんなその他の生物を絶滅に追いやっています。地球にとっては僕らが隕石みたいなものです」と言ったら、とても納得してくださいました。やっぱり人間が増えすぎてしまって、地球環境を変えてしまっているところが一番大きいと思います。

受講生:そのことに危機感をもって取り組んでいく人間は、もちろんいるわけですよね。
真鍋:そうですね、いろんなところで活動されている方がたくさんいらっしゃいます。「第6の大量絶滅期」というのが一番響くのかどうかわからないですけど、今、人間がこれだけ増えてこれだけ地球環境を変えてしまって、いろんなところに人間が生きていることは、まず間違いないことです。それに対して、一人一人がどんなアクションをとるべきかは、もっと、お互いに示しあって、アクションをとっていく必要があると思います。とはいえ、「じゃあ、あなた、どうするんですか?」と言われても、なかなかね、困るところなんですけれども。

受講生:ティラノサウルスの絵がウロコばっかりの絵と、部分的に羽毛が生えている絵と、両方みることがあるんですけど。前の恐竜博でガチャガチャをやったら、羽毛が生えているバージョンのフィギュアが当たったんですけど、どちらが正しいんですか?
真鍋:ティラノサウルスは非常に難しくて、今日はティラノサウルスの話題になることがほとんどなかったので触れられていないんですが、画面でいま示しているのは精密なイラストじゃないですけど、羽毛がふさふさ描かれています。このティラノサウルス自体は、ティラノサウルス・レックスと同定されている恐竜が、北アメリカのだいたい6600万年から6800万年くらい前の地層から発見されます。骨格の過半数の骨が見つかっている標本が、だいたい50体ぐらい報告されています。その50体、良いめの標本50体なんですけど、羽毛が見つかっているものはゼロなんです。だから、羽毛があったという直接の証拠はまだないんです。しかしながら、ティラノサウルス類では、ティラノサウルス・レックスというのが一番有名で北アメリカにしかいなかったんですけど、タルボサウルスというのがモンゴルにいて、さかのぼっていくと、先ほどお回しした中国の石、あれは、たくさん「羽毛恐竜」が出てくる中国の遼寧省のものなんですけど、その岩石が見つかる白亜紀前期の1億2000万〜1億3000万年前の地層から、ティラノサウルス類で、ディロングという名前の、小型で1メートル80センチくらいの全身骨格が見つかっていて、それがほぼ全身にフリースみたいな羽毛が生えているんです。それからさらに全長9メートルぐらいの同じ時代のティラノサウルス類で、ユウティラヌスというんですけど、それが15センチぐらいのたてがみみたいな羽毛が首とか背中とか腰のあたりから見つかっています。もともとティラノサウルス類が「羽毛恐竜」だったというのは、まず間違いないんですね。そこから類推すると、羽毛の長さはいろいろあると思うんですけど、全身に羽毛が生えている確率が高いんじゃないかと考えられています。それで2016年の恐竜博で私は、ふさふさした感じが一番確率が高いんじゃないでしょうかとお示ししました。その後、アメリカのあるティラノサウルスの化石の中で、首のあたりと腰のあたりに直径1ミリぐらいの小さなウロコがあったんじゃないかという発見がありました。それは、実際にティラノサウルスのその部分にウロコが見つかったのではなくて、直径1ミリぐらいの非常に細かいウロコの化石がその化石の近くから見つかったので、おそらくこのあたりがウロコだったんじゃないかと推定されています。それから、全身ウロコなんじゃないかという説が復活して、全身ウロコ姿もあれば、部分的に羽毛とウロコが混じってるみたいな感じの説もあります。

もし、ティラノサウルスの一部がウロコだとしても、全身ウロコに戻る確率って、すごく低いと思うんです。現代のニワトリなどで、卵の中で体に羽毛ができる、足にウロコができるっていうプロセスを発生学的に見てみます。たとえば、今の鳥はほとんど足はウロコなんですけど、最初は羽毛を作ろうとするんですよ。フサフサしているのが途中で止まるとウロコになるんです。だから、体の部位によって、最終的に羽毛になるかウロコになるかというのは、ちょっとの差で大きな違いが出ると考えられています。だから体の一部がウロコだということが正しくても、全身ウロコに戻すのはすごく確率が低いと思うので、個人的には全身ウロコにするのはオススメしていません。これは、ケチをつけているわけじゃなくて、ウロコのほうがかっこいいという恐竜ファンが根強くいらして、ウロコの方の絵を積極的に載せる図鑑もあったりします。それで図鑑とか、著者によって、ウロコ度合い、羽毛度合いが違う、そんなことが起こってます。

それが本当のところで、今、どっちかはわからない状態になってしまったんですけれど、全身ウロコにするのは個人的にはオススメしていなくて、ところどころまだらにするのが落としどころかなと思います。まあ、来週ぐらいに全身ウロコだったなんてすごい化石が出てきたら、みなさん、笑ってやってください(笑)。

受講生:私、科学博物館すごく好きで、小さいときよく行って。昔、正面玄関を入ると、まずティラノサウルス?
真鍋:タルボサウルスですね。
受講生:タルボサウルスがあって、すごくワクワクしました。私が行ったときたぶん、もっと直立して、背筋が立っているようになっていて、今はその形ではなかったということで背骨が横になっているということなんですけど、それって、どういう過程で姿勢が決まっていったのでしょうか?
真鍋:最初にだれが気がついたかは諸説あるんですけど、1950年代ぐらいから尻尾を引きずらない復元をしていた人は存在するんです。だから、そのときに気がついていた人がいるらしいというのは言われています。やっぱり先ほどのデイノニクスみたいに、尻尾はピンと張っているので、「引きずれないよね」みたいなところから、そもそも尻尾を引きずったスタイルはどこまで確かなんだろうみたいなことで検証してくると、たとえば足跡を見たときに、恐竜の足跡は左足と右足をきれいにファッションウォークみたいにガニ股にならずに並んでいます。さらに尻尾の跡なんか、引きずっていません。だけど、ワニとかトカゲの足跡はガニ股腕立て伏せで、真ん中に尻尾を引きずった跡が残っている。足跡の化石から、尻尾は引きずってなかったらしいことが推定出来ます。今だとコンピュータ・シミュレーションができるので、尻尾を引きずらなくてブランブランさせると転びやすくなることがわかります。ティラノサウルスなんかは大きな獲物を食べるために大きな頭があるので、前半身の重さと尻尾でやじろべえみたいにバランスを取って走る方が早く走れるし、体を安定させることに役立っているんだろうというようなことが考えられます。

いつだれがどんなふうに気がついたかは諸説あるんですけれども、デイノニクスみたいなピンと張った尻尾のものを見たり、足跡なんかを検証する過程で、「引きずっているっていうことは意外になかったのかもしれない」という気づきが出てきて、コンピュータ・シミュレーションをしてみると、尻尾を左右に振るのが得策じゃないのがわかって、今では前傾姿勢をしていたとされています。おもしろいのは、鳥になると尻尾をやめちゃいますよね。尻尾をやめると前につんのめっちゃう。なんで尻尾をやめられるのかというと、鳥って首を長くして柔軟性があります。飛んでいるときには首を長く前に伸ばしています。着陸して、頭と首を前に長く伸ばしていると前につんのめっちゃうので、首を上方に伸ばして、重い頭を重心の真上に持ってくるんです。そうすると尻尾がいらなくなったらしいのです。ただ、いまだに古い博物館の展示ではゴジラ型の展示をされているところがあるんで、もしそれをご覧になりたいという方がいらっしゃったら、古い展示が絶滅する前に見ておいた方が良いかもしれないですね(笑)。

増﨑:真鍋先生にぜひ聞いてみたいことがあります。ゴジラは火を吹きますよね。もちろん恐竜は、火は吹かないはずだと思うんですけど。私、ミドリガメを飼っていて、5センチの頃まで何も音を出せなかったんですけど、20年飼ったら20センチになって、鼻息がすごいんです。ブオーッと音を出すんです。「ああ、そうか。恐竜ほどの大きさになると、すごい鼻息だっただろう」と。つまり鼻ではものすごい大きい音が出せたんじゃないかな。口でどうなのかな? テレビを見てると、怪獣がゴワーッて言いますけど、本当は鼻で言ってたんじゃないかなという質問でございます。
真鍋:はい。声は喉で出していることがほとんどですが、喉は柔らかい組織で、骨とか歯とかそういう硬いところしか残ってない化石からは、どんな形の喉をしていたかはわからないので、なかなか「こんな声をしていた」ということはわかりません。よく「ガルルルルル」みたいな声を出すような番組とか映画があったら、それはNGですよと申しあげています。食肉類の哺乳類だけが喉を鳴らすという特別なことができて、ほかの哺乳類にはできないんですね。だから、恐竜ができた確率はすごく低いので、ゴロゴロゴロってやらないようにしたほうがいいですというのが、確率的には言えることです。今、ご指摘があったように、鼻息が荒いというのもあるんですけど、うめき声的に喉から声を出すのは、ワニなんかも結構できる。カメも鳴いたりできるんですね。だから、喉でちょっとうめき声を出すみたいなことはできるけれど、鳥のさえずりみたいなことはできなかっただろうと考えられています。ただし、「恐竜博2016」って、前回の恐竜博のときにやったんですけど、パラサウロロフスといって、トロンボーンみたいなものが頭の後ろに伸びている恐竜がいます。鼻から管があって喉のほうにトロンボーンのようにつながっている。そうすると、「フンッ」とやると、トロンボーンを吹くようなことができて、太さと長さから「こんな音が出ます」というのを再現できました。3年前の恐竜博のときにはパラサウロロフスの子どもの化石を展示しました。子どもはやっぱり管が短いんです。細くて短いと出る音が違うので、「大人と子どもは出せる音が違ったんだろう」みたいなことがいえることはあるので、そういった意味では、特別な管みたいなものを進化させた恐竜では、いろんな音が出せただろうねというようなことはわかっています。

今回の「恐竜博2019」の最後のところが、これからの新しい研究の可能性とか、こんなところがもっとわかってきたらいいなっていう意味で、南極圏から見つかった約6600万年前の鳥の化石を展示したんですね。その理由は、胸のところに2ミリぐらいの黒いかたまりがあって、研究した人がCTスキャンしてみたら管状になっていて、「鳴管(めいかん)」というんですけど、鳥のさえずりを可能にしている構造だとわかりました。この化石は今のところ世界最古の鳴管で、これ以降、さえずりができたといえるのではないかという化石として注目されていることを紹介しています。南極圏は、今だったら寒くて、恐竜が生息した風景をイメージしにくいところですけど、白亜紀の段階までだと、まだ南極大陸が分離していないので、周南極海流がまわりをグルグルまわることによって寒冷化せずに、普通に大森林があって普通に恐竜が闊歩していた場所なんですね。そういうところに鳥がいて、そこで鳴管が見つかったという研究です。僕がそこで申しあげたかったのは、胸に黒い点みたいなかたまりがあるなってCTスキャンしてみたら、「ああ、これ、鳴管なんだ」ということで、「世界最古の鳴管ですよ」という論文になったんですけれど、そういう点みたいなものをさかのぼってひとつひとつCTスキャンするとかして見ていけば、きっと鳥のさえずりみたいなものも、進化においてもっと古いんじゃないかということもわかってくると思う。

鳴管が恐竜までさかのぼるかどうかわかりませんが、さきほど、頭のてっぺんの羽毛が赤いということで、もしかすると「成熟したオスなんだ」とか「見比べるとこっちのほうがきれいかな」みたいなことがコミュニケーションを速くしたんじゃないかと申しあげました。見えればそういうことが十分使えるんですけど、鳥たちは木の上に棲んでいたりして、すぐに相手が見えない状態でも鳴き声を聞いたりして「あっちにいるんだな」と、仲間がいるとかオスが呼んでいるみたいな情報収集をしているじゃないですか。おそらくそれは、恐竜までさかのぼるかどうかわからないですけど、もっと古い段階から進化していたはずなので、そういうことをもっと徹底的に調べていくと、さえずりの起源とか、もっとさかのぼるかもしれない。声みたいなものは、なかなか形としての化石には残らないんですけれども、色もわかってきて、声ももっとわかってくると、生物学の対象としての恐竜のことももっとわかってくるんじゃないかなと期待しています。

受講生:これから「ひとつだけなんでも希望のものを見つけていいよ」って言われたら、どんなものを発見したいですか?
真鍋:ひとつですか?(一同笑)欲張っちゃいけないですね。ひとつだと、ちょっと考えたことがないですけど、ちょうど鳴管の話をしていたので……たとえば恐竜の段階で、小さな翼で飛ぶのには使えないけど木の幹を駆け上がることに使えたかもしれない。下にいるといろんな恐竜とかワニとかいて食べられちゃうから、体の小さい子たちは木の上のほうが安全で、それで木の実とか果物を含めて餌がたくさんあって守られているみたいな空間に適応するような動物たちがいたことは簡単に想像できます。そうすると、パッと目で見てオスメスがわかったり種類がわかるというのは重要なんですけど、やっぱり声のコミュニケーションみたいなものがますます重要になってくる。そうすると、鳴管じゃないかもしれないですけど、声のコミュニケーションみたいなものが起源をさかのぼって何かわかるといいなとは思います。ただ、それが最大の望みかというと、そうではない。やっぱり、ミイラ化石みたいなもので、体の柔らかい部分まで残っているようなものが……あることはあるんですけど珍しくて、なかなかそんなにないんです。内臓とか、喉の咽頭であるとか、そういうところも含めて残っているような化石が出てくるとすごいんじゃないかなと思うので、そんなものを見つけてみたいなと思いますね。

アメリカのティラノサウルスとかトリケラトプスが見つかる地層から、「心臓」が残っていた恐竜の化石があって、それは骨しか残っていないんですけど、胸にかたまりがあって、その形が心臓になっていて、CTスキャンをやると心房心室がわかるっていうのがすごい注目された化石があったんですけど、今はちょっとそれは否定されています。そこに心臓があるからと思ってCTスキャンの画像を見ると、心房心室に見えるだけで、「お月さんを見て、うさぎを思いついたのと変わらないんじゃないか」という批判があって今はかなり否定されています。研究当初にも「なんで心臓だけ残ってるの? それって、おかしくない?」と言われたんですね。だけど、その人たちは、「心臓は血液がたくさん流れていて鉄分が多いので、臓器の中では心臓が一番残りやすい」という説明を論文にされているんです。僕はそれを読んだときに「説得力あるな」と思ったので、個人的には心臓であってほしかったんですけど、今は「心臓じゃないらしい」という方が多いみたいです。

受講生:お子さま向けの図鑑とか、たくさん監修されていると思うんですけど、カムイサウルスのような日本で大きな発見というか新種記載があると、カムイサウルスのために改訂版を出すとか、どんなタイミングで出すとか、そういう判断は出版社の判断なのか、それとも一斉に「これが新種だからみんなでもう変えましょう」っていうんでしょうか。子どもたちにとって図鑑ってすごく大事だと思うので、そのへんの判断を教えてください。
真鍋:図鑑はすごく競争が激しくて、出版社はすごく無理してみなさん努力して出されていて、できるだけ早く更新して「2018年の新種まで載ってます」とか、「何百種類載ってます」っていうところがA社、B社、C社…がしのぎを削るなかで大きいので、みなさんすごい努力をされています。会社としては、すごい無理して出しているので、そんなに頻繁に改訂したくないのが本音らしいですね。だけど他社がどんどん改訂してくるので遅れないようにするという実情があって、だいたいどこの社も同じぐらいの数年に一度の頻度で改訂しています。夏休みを目指して新版を出すのを競争されているので、たぶん来年の夏あたり、カムイサウルスはみんな載ってくるし、もっと早く対応するところもでてくると思う。カムイサウルスの場合、やっぱり日本の恐竜なので、日本の読者へのアピールがあると思うので、比較的早く対応してくれるところが多いんじゃないかなと思います。ですから、普通だと夏休み前に改訂版が出るんですけど、もしかしたら冬休み前に出ちゃうかもしれないですね。

受講生:昔『ジュラシックパーク』を観たときワクワクドキドキしたんですけど、20年たって『ジュラシックワールド』が公開されたときに期待を持って行ったんですけど、羽毛がついた恐竜はいっさい出ず、飼いならした恐竜が出てきて、がっかりして帰りました。時代に合った監修をする人っているのでしょうか。
真鍋:監修者は、クレジットを見るといるんですけど、「これ、羽毛なはずですよね」とか言われたら、ちょっとやりにくいんだと思います。『ジュラシックワールド』のアメリカのホームページには、「私たちはこの恐竜は羽毛であるべきだというのは知っているんですけど、迫力が出ないのでウロコにしてます」っていう言い訳をしていたりするので、そういう事情なんだろうなと推察します。93年の最初の『ジュラシックパーク』は、原作のマイケル・クライトンさんの本にかなり基づいて作られているので、そういった意味ではすごくサイエンティフィックで学術的な内容に基づいていますが、あの後どんどんエスカレートして、ちょっとそういう部分が少なくなった。僕もよく最初の頃は試写会に行って、映画評をよく頼まれたんですけど、最近はもうケチつけられるのがわかっているので、頼まれませんね。

ただ『ジュラシックパーク』みたいなものが実は、エンターテイメントなんですけど、研究を進歩させるみたいなことってあって、最初の『ジュラシックパーク』もそうだったんですけど、ティラノサウルスが暴走する車に追いついちゃうわけですね。あれ、100キロ以上出てるはずです。そんなのは無理でしょうとみんなわかるんだけど、「じゃあ、何キロぐらいまでだったら出せるんですか?」というような質問を古生物学者に投げかけると、昔ながらの真面目な古生物学者だったら「そんなことわかりません。僕らが知っているのは骨と歯とか、そういうところです。この関節がこのぐらい動きますとか、このぐらいの太さの骨だったらこのぐらいの筋肉がつくっていうことでしょうね」ぐらいのところしかわかんないですけど、幸い、コンピュータが身近になって、いろんなシミュレーションができるようになると、「たとえば、この筋肉がこのぐらいの太さだったらこのぐらいの力が出せます。最大限に見積もったときにはこのぐらいの速度が出せるでしょう」みたいなことをちゃんと答えてくれる、サービス精神旺盛な研究者が増えてきて、そういうことができるようになってきました。そういった意味では、完全にエンターテイメントで「あんなの無理だよ」っていうのはあるんですけど、そういうところから、みなさんが「本当にあれできるんですか?」とか、「どこまで本当なのか」というようなことを聞いてくださると、それに答えてくれる器用な人が出てきて、最終的には学問が進歩するということはあるので、バカにできないところがあるかと思うんです。スピノサウルスなんかが水の中を泳いでいたりして、それは、骨密度が高いので水の中で沈んでいられるようになっていることがひとつの根拠になっていて、そういう研究があるからこそ水の中から泳いで出てくるみたいなことが映画の中にも出てくるんです。実際にシミュレーションして、ある部分の骨密度が高いぐらいだと「水の中で沈んでいられません。浮いちゃいます」というような研究論文を出してくださる方がいらっしゃるので、そういった側面も考えると、すべて否定されるわけではないんだろうという気がいたします。
 
河野:「見てから聞くか、聞いてから見るか」じゃないですけれども、今日のお話をうかがった後でまた恐竜展を見ていただいたら、いろんなことがまた発見できると思います。私も、むかわ竜の上に真鍋さんのアイディアで鏡があるというのは知りませんでした。ティラノサウルスの出口が狭くなっていたのはわかっていましたが、そういうことを体感してもらいたいという意図にまで気づかないで、「なんで狭くしているんだろう」と思いました。説明もあったんですけど、ちゃんと読まなかったなと反省しております。またみなさん、いらしていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。

おわり

受講生の感想

  • 恐竜への深い想いや、恐竜の絵本でみんなに伝えたいこと……優しい声で楽しそうに語っていただき、真鍋先生の柔らかなオーラに包まれて、お話に引き込まれました。

  • 恐竜博を見に行ってからお話をうかがったので、よりいっそう楽しめました。そしてさらに、真鍋先生から直接お話をうかがうとまた違った発見がありました。先生の、恐竜だけでなく生物全般に対する愛が感じられました。

  • アンキロサウルスという恐竜が好きです。記憶違いでなければ昔もっていた図鑑の彼らは、前足の肘を横に突き出した「腕立て伏せ姿勢」でした。ところが、恐竜の特徴は脇を締めた真っ直ぐな足とのこと! 研究が進むと常識が変わる実例を見た思いですが、近所の幼稚園に寄贈してしまったあの図鑑が、いまも誰かに腕立て伏せ恐竜のイメージを植え付けていないか不安になりました。