Hayano歌舞伎ゼミ 
第7回 成毛眞さん

ビジネスマンへの歌舞伎案内

成毛眞さんの

プロフィール

この講座について

現役ビジネスマンのときに歌舞伎を知らなかったのは「もったいなかった」と語る成毛眞さんが、セミリタイア後に「はまった」歌舞伎の魅力を、ビジネスの観点も交えながら語ってくださいました。

講義ノート

こんばんは、成毛と申します。ご紹介いただきましたが、18年前の2000年までマイクロソフトという会社に20年間おりました。歌舞伎を観たのはそれ以降ですので、今日来られている方のなかで歌舞伎を昔から観ている方より、実はあまり経験がない。にもかかわらず、ここに座っているのはどういうことなんだろうと思いますが、歌舞伎を観るに至った経緯を自己紹介代わりにお話ししておきます。私、現役のビジネスマンの時には、4時半の夜の部から歌舞伎を観るヒマはなかったし、11時から歌舞伎を観るなんてことが許されることもなかった。ところが、夜にできる伝統芸能はひとつだけありまして、花街(かがい)です。東京では赤坂とか新橋に行きましたが、会社を辞めて独立してからは、京都の祇園町に行くようになりました。祇園町に行って気がついたのは、歌舞伎を知っていると、メチャクチャ芸妓と舞妓にウケること。モテるためにはこれしかない。あわてて歌舞伎を観るようになりました。これ、半分冗談、半分本気です。歌舞伎そのものは、私の母親や大叔母がずっとお琴の先生で、お弟子さんが200人以上いる大所帯の先生もやっていたので、子どもの頃は邦楽三昧で、歌舞伎にも邦楽にも馴染みがあったと思います。一方、芸妓と舞妓にモテるというのも本当です(笑)。18年前に会社を辞めて、ビジネスマン時代にはできなかったことをやってみて、14年くらい歌舞伎を観て、59歳の時ですから今から4年前、本を書きました。NHK出版から出たのが『ビジネスマンへの歌舞伎案内』という本です。ということで、今日はお呼びいただいたと理解をしています。

今日は日付を見ますと、旧暦の1113日の大安ですが、江戸の商家や職人さんは、毎月1日と15日と28日がお休みだったそうで、もしも今日が江戸時代だとすると、明後日お休みで、みんなうきうきしている、そういう日だと思います。もうひとつ、旧暦の1113日ということは、大石内蔵助が討ち入りしたのが、「時は元禄151214日」ですから、そのちょうど1カ月ぐらい前。大石内蔵助が東下りをした頃です。逆に言うと、大石内蔵助、江戸に着いて仲間を集めて、「そろそろ討ち入りの日を決めようか」とか、そういう日なんですね。大石内蔵助は今のような気候の時に打ち合わせをしたのだろうと思います。

昔の歌舞伎

今は旧暦11月ですから顔見世の月でして、お見せしているのが、昔の顔見世興行の時の図版。『東都歳時記』の「芝居顔見世図」という、長谷川雪旦さんという絵師が描いたものです。右側の櫓はおそらくは猿若座、中村座ですかね。左の櫓は、「御操」と書いてあるので人形浄瑠璃をやっているところかもしれませんが、女性客の数が多いですよね。裾を見ると、女性客かどうかがだいたいわかると思いますが、これは刊行が1838年、天保6年ですから、幕末になりますと女性客が非常に増えています。享保の時代に描かれた「市村座場内図屏風」なんて見ると、99%男ですね。全員、チョンマゲしていますから。逆に言うと、歌舞伎が始まって200年すると、女性陣が非常に増えたということですよね。この天保の頃の芝居小屋ですが、この頃は座席はなく、枡席になっています。(天保6年に建てられた現存する日本最古の芝居小屋)金丸座の内部は枡席になっています。今も、金毘羅大芝居に行きますと、ここに入ることになります。金毘羅大歌舞伎に行かれた方いらっしゃいますか。今はこうなってないですよね。実際にやる時には一部を座椅子にしています。昔はこの枡に7、8人入ったらしいですよ。ここが桟敷になりますが、歌舞伎座でも桟敷ですね。いちばん高い席はどこかというと、江戸時代は桟敷席の、いちばん後ろの真ん中です。近いところよりも、後ろよりの真ん中が高かったそうです。なぜ真ん中が高かったのかというと、諸説あるんですが、その頃、歌舞伎を観に行く女性陣は、歌舞伎を観るのではなくて、自分を見てもらいに行ったふしがあるそうです。

画像は、バックが松羽目(まつばめ)の能楽からの借り物ですが、ここにちょうどロウソクが立っていますが、もちろん江戸時代はロウソクがこのように立っていたようです。もうひとつは、花道に役者が出て来た時に、役者の顔を明るくするために、ロウソクを立てて、顔の近くまで持って来たんですね。今でも、いくつかの演目でそれが使われます。「面(つら)明かり」と言いますけども、顔を明るくするために今でもロウソクを使う。実際にはロウソクでは明るくなりませんから、スポットも当たるんですが、昔ながらの情緒を出すんですね。この面明かりを使う演目をどなたかご存知ですか。

(「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」)

その通りです。仁木弾正(にっきだんじょう)が出て来るとね。あれ怖いですよね、ひゅーどろどろって出て来て、顔も照らされると、ほんとうに物の怪の感じがするんです。

もうひとつは、「吉田屋」。「廓文章(くるわぶんしょう)」というのの「吉田屋」に出て来ます。親に勘当された伊左衛門が花道から出て来る時に使いますが、これは面明かりを2本使います。それを知って観に行くと、おもしろい。当時の雰囲気をそのまま楽しむには、今の歌舞伎座は明るいですから、暗かった時の様子を楽しむという意味でも、こうした演目を選んで、注意して観られるとおもしろいかもしれません。

現在の歌舞伎座

現在の歌舞伎座をちょっと見てみましょうか。クイズです。女性が多いという話をしました。実際に女性のパーセンテージはどうなんでしょう。イヤホンガイドの貸し出しアンケートから取っている2014年の実際の数字です。女性の比率、何割ぐらいだと思われますか。3:1で女性だそうです。75%が女性だというのは、先ほど見ていただいた天保の頃とあまり変わらない。ある意味では女性が伝統文化を支えているんだろうと、つくづく思いますね。お茶会に行っても、だいたい8割くらい女性ですし、女性がいなかったら日本の文化はもう滅んでしまうんだなと、思い切り言っとかなきゃいけない。

年代別に見ていくと、40代ってどのくらいいると思われます? 答えは、16%だそうです。男女問わず40代は60代の半分ぐらい。40代から60代まで全部足すと75%ということなので、70代、80代はどうしているかというと、もしかするとイヤホンガイドを借りる必要がないほど手練れかもしれないというのがひとつありますから、実際にご覧になっている方とはちょっと比率が違うかもしれません。ざっくり言って、そういう年齢比率ということです。どちらにしても、この比率を見ると、ビジネスマン時代を思い出しまして、やっぱり昼間の11時とか4時半から芝居を観ているわけにいかない。一幕見とはいえ、なかなか足を運べなかったということもありました。逆に言うと、女性の方にどんどん来てもらいませんと、歌舞伎はダメになってしまうかもしれませんから、ぜひこれからもどんどん観ていただきたいと思います。

江戸時代の女性の話ですが、歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」のなかのイラストレーター辻和子さんのエッセイを読んでいたら、「桟敷の小町、七度も着替えて」というのが出ていました。当時の小町、評判の娘さんが一日がかりで観ているんですから、奥女中の格好して出て来て、お茶屋さんに戻って出て来たら、今度は芸者風になって出て来たとか、髪型も全部変えて出て来たっていうから、すごい。歌舞伎を観に行って、芝居を観に行ってるんじゃなくて、自分を見てもらうために行ってるのは、はっきりしていると思います。そのように、歌舞伎の時おしゃれして行かれると楽しいかもしれません。どうも私が見てると、「とちり席」には訪問着とか附下が多いような感じを受けますね。「とちり」については、後ほど話をします。

格子いろいろ

次の写真、これは自分の浴衣の反物です。この反物の名前ご存知の方いらっしゃいます? 案外知らない。これ、団七格子といいます。「夏祭」という演目がありまして、そこに出て来る団七九郎兵衛というのは、いなせな柄です。この団七格子がカッコいいので、一回、4、5人で着物を誂えました。団七格子は色が茶色ですが、青も作りました。これを真っ黒にすると「義経千本桜」の寿司屋に出て来る権太の着物は真っ黒です。この格子は単純な格子なので、いなせなお兄さんを示すにはちょうどいい感じのようです。団七格子を見ているといつも思うんですけど、魚屋さんがよく着ている。いなせな若衆として魚屋が多く登場しますけど、「夏祭」の団七九兵衛が魚屋でして、それ以外にも「魚屋宗五郎」に出て来る宗五郎は酒乱の魚屋ですし、宿無しは上方の侍くずれとか、その類の人たちの表象なのかもしれません。いくつか格子を出してみましたが、この格子おわかりになる方いらっしゃいます? 團十郎格子と言います。真ん中が高麗屋格子です。松本白鸚さんとか、幸四郎、染五郎がお稽古の時なんかに着ています。右側が三津五郎格子。三津五郎さんが亡くなられたので、巳之助さんが着ているんでしょう。それ以外に、菊五郎格子という有名なのがあります。「呂」という字が入って、「キ九五呂」と書いてあるんですが、シャレになってます。縞のほうはもっとシャレが利いているのがありまして、芝翫縞っていうのですね。芝翫さんの家が使う。もうひとつは、團十郎の有名な「かまわぬ」というのと、菊五郎の「斧琴菊(よきこときく)」。そのあたりの格子とか縞を、僕はよく扇子にして持っています。

とちり席

先ほど「とちり」と言いましたけど、「とちり」というのは、「いろはにほへとちりぬるを」の「とちり」です。二代前の歌舞伎座の椅子の順番は、いちばん先頭が「い」です。「いろはにほへと」。で、下手側から、1番、2番、3番、4番……。そうすると、「いろはにほへと」ですから、「と」が、今でいうと7列、7列の15番とかが、いちばん芝居が観やすい。かぶりつきじゃ首が痛いですしね。かぶりつきで観ておもしろい演目もありますが、「曽我対面」なんかをかぶりつきで観ると、何が何だかわからないようなことになっちゃう。目の前に役者がずらっと並んでいるけど、自分の前しか見られない。それもあって、少し後ろの「とちり席」がいちばんいい席と言われます。ただ、役者からすると、「とちる」っていうことになりますから、悪い言葉っていうことで、セリフをうまく言えないような「とちり」をすると、「とちりそば」というのを配りました。今は、そばは配らないけれども、ちょっと前までそば券を配ったり、共演者に食べ物の差し入れをしていたそうです。今は席が「いろは」じゃありませんから、今、ベストの席がどこかというと、自分的には6列目だと思います。一等席の前から6、7、8列ぐらいです。舞台に向かってどこがベストかというと、花道脇の7番から15番です。ここで「白浪五人男」を観るのは、最高かもしれません。ただね、この席はなかなか買えない。馴染みの役者さんのファンクラブに入って、それなりにお願いしておくと、買えるかもしれません。ファンクラブに入るのは超おススメです。年に1回か2回、ファンとの集いをやっていますから楽しい。ただ、ほんとうに女性だらけで、男が行くと辛いかもしれません。

モニターに映しているのは、ニコンの双眼鏡です。売り込みに来たわけじゃないんですが、これね、19,000円で、ものすごく小さいんです。女性のハンドバッグにスポンと入ります。ほんとうにいいオペラグラスを1つ買っておこうと思われたら、絶対にこれをお勧めします。圧倒的に明るくて広く見えます。演目によっては、2階席、3階席で観たいというのがありまして、「曽我対面」とか「忠臣蔵」の大序とか四段目。意外と2階席で観たほうがおもしろいかもしれません。宙乗りを2階とか3階で観るとおもしろいですよ。落ちたらどうしようって心配しながら、観ています。

年間動員数の多い歌舞伎座

枡席から今のような椅子席になって、では椅子席にどのくらい人が入るかという話をしましょう。ロンドンのロイヤルオペラハウスは2,256席。フォーブズ誌の2017年のデータです。ニューヨークのメトロポリタンオペラハウスは3,800席。歌舞伎座何人入られると思います? 1,964席。次に年間の入場者数。これね、歌舞伎座、多いんです。132万人入ってるんです。ものすごいですよね。ロンドンとニューヨークのオペラハウスを足したぐらい歌舞伎座に入っています。歌舞伎座は歌舞伎しかやってないんですから、驚きますよね。それ以外に、松竹さんだけで大阪松竹座と新橋演舞場と南座やってますよね。他に、国立劇場、浅草歌舞伎と金毘羅大芝居と、名古屋の御園座と博多座と、それから中村座もやってましたよね。そこらじゅうでやっている数字は入れずに132万です。他の劇場での歌舞伎を全部入れると、おそらく150万は軽く超えるだろうと思います。ニューヨークとロンドンのオペラよりも、人が観に来ているということになります。すごいですね、歌舞伎って。

きちんとデータを見たわけじゃないので何とも言えませんが、イタリアのオペラの場合、政府補助が全体の経費の25%とか出ているんだそうです。そういう意味では、伝統を守るために政府の補助があるらしいですが、歌舞伎の場合は、完全に観客が支えている。にもかかわらず、150万人も来るという。しかも、初心者の方が行く。「勧進帳」なんて観ても、何を言ってるんだか、よくわからない。いまだに僕も「勧進帳」はよくわからないんですけど、それでも観に行く。その意味では世界にも稀な伝統芸能なのかもしれません。「君の名は。」っていう映画の動員が2,000万人ですから、映画はやっぱりすごいと思うかもしれませんが、考えてみると、歌舞伎の場合は、チケット代が一等席で、18,000円とか2万数千円ですよね。「君の名は。」は、1,800円ぐらい? だから、大ヒット映画と同じぐらいの売上げになるという、そんな感じもあるんですね。

では、なんでこんなにいっぱい人が入るかという話です。歌舞伎座は1,964席しかないんです。メトロポリタンオペラは3,800席。ものすごく入ります。オペラの劇場って6階層とか5階層ですよね、どこも。行かれた方はご存知でしょうけども、大バルコニーみたいなのが付いています。一方で歌舞伎座は、横に長いのが特徴です。ちなみに、ロイヤルオペラハウスのいちばん上はファミリーサークルといって、子ども連れで行けるようになっています。ロイヤルオペラハウスの座席の色分けを見ると、いちばん高い席、どこだと思われますか。紫です。「とちり」なんです、やっぱり。変わらないですね。歌舞伎座も国立も、いわゆる正面席の値段はほとんど一緒ですよね。でも、オペラの場合は音楽の関係もあって、2階席、3階席の正面も高いです。また、歌舞伎座もオペラハウスも、前列5列目くらいまで、いわゆる「かぶりつき」はチケット代が安いです。

神と世間

歌舞伎座がなぜこんなに横に長いかは、いくつか理由があると思うので端折りますが、横に長くて、天地が案外狭いんです。一方、オペラを思い出していただくと、「アイーダ」とか観ると、天地が長いです。考えてみると、オペラは、ギリシャの古典から始まって、エジプト物とか、話している内容は「神と人間」みたいなイメージですね。現代オペラや近代オペラは別にして、とにかく神。だから、「天と地」なんですね。日本人には天と地の概念はなくて、代わりに「世間」なんです。日本人論をここでするつもりはないですが、世間様を見てるんだなとつくづく思います。何か見えないものといっても、大したものは出て来ません。お岩さんは単なるお化けですし、妖怪といっても、「土蜘蛛でしょ」という感じですから。オペラの天と地の概念の舞台と、ずい分違うと思います。

花道をふたつおく「両花道」というのを使うおススメの演目があります。天と地と違って、世間様になっているわけです。ひとつは、「お染久松」という演目。「新版野崎村」というのにお染久松が出てきます。この幕切れは、舞台に向かって下手側の本花道、これが川になります。仮花道は土手です。そこで別れの場面になります。なので、役者が両花道、女形と立ち方が立って掛け合うので、ステレオで聞こえてきて素敵です。もうひとつは、すごく有名な両花道が使われる演目なんですが、ご存知の方いらっしゃいます?

(「吉野川」。)

よくご覧になってます。あれ、ほんとにいいですよね。「妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)」。吉野川がドワーッと流れているわけです。吉野川はどこに流れているか? 客席です。だから、初心者の方でも、「ああ、俺は今、川のなかにいる」ってわかります。というのは、舞台に川の絵が描いてあって、それがそのまま客席にまでつながってきて、両側に花道が通っていて、その花道が土手ですから。たいへんきれいです。春に観るにはいいんですけど、最近季節感と演目がずれる時があって、ややこしいことになっていますが、これ、春にやったら最高です。

数字でみる歌舞伎座

もう少し数字で確認しておきましょう。歌舞伎座最前席の客席数が45席で、4階席でした。メトロポリタンの最前席が36の6階席ですから、もうおわかりですね、縦横比が全然違います。メトロポリタンは昔のテレビみたいに4×3みたいな感じで、歌舞伎座のほうは16×9で、今のテレビ。どういうアナロジーか知りませんが、そういうことです。計算するとこうなります。歌舞伎座は、132万人÷1,964席ですから、672。1年間365日しかないのにと思うかもしれませんが、ご承知のように昼と夜、2回やるからです。メトロポリタンオペラのほうは計算すると、年間210回です。したがって、百何十日休んでいる計算になります。ちょっと面倒くさい計算がありますが、歌舞伎座のほうは、だいたいひと月25日から27日として、11カ月やるとして、594回。さらに8月の納涼歌舞伎、1ヶ月間一日3回やりますから、8月だけで81回。足すと、675回。メトロポリタンオペラは9月末から5月までがシーズンです。それで、月曜から土曜日までの夕と、土曜日だけがマチネーが入って2公演ですから、全部足すと210公演と、そういう感じになります。

そうすると、歌舞伎座はすごい儲かっているんじゃないかと思いますよね。だって、132万人かけることの、全員1等席だったら2万円ですよ。264億ですか。儲かってるんでしょうか。じゃ、歌舞伎座は誰が儲かるんです? このへんからビジネスマンのための歌舞伎入門ですね。

会社としての歌舞伎座

資料:歌舞伎座は誰のものか?
松竹 13.67
A   8.35
みずほホールディングス  1.88
TBS 1.23
フジテレビ  1.23
日本テレビ  1.23
B  0.94

これは、歌舞伎座株式会社の株式を持っている会社の名前です。13.67%は松竹が持っています。いちばん大きい親会社ということです。意外と小さいですね。他は、みずほとか、TBSとか。A社はどこだと思います? これがわかったらすごい。歌舞伎座関係者です。または、歌舞伎座の株を持っている人か。清水建設です。歌舞伎座を新しくした時に歌舞伎座タワーをつくったのが清水建設です。清水建設の木工場……いわゆるスーパーゼネコンのうち木工場を持っているのは清水だけなんです。ですから、清水にしか、もうあの規模の舞台は発注できないと言ってもおかしくないんですが、それもあって清水建設が大株主です。B社はどこだと思います? わかったらすごい。三越(三越伊勢丹)です。「越後屋さん」ですね。日本はすごいですよね。400年前からの歌舞伎の株式を、やっぱり400年前からの越後屋さんが持っている。第二次世界大戦中に歌舞伎座が爆撃を受けて、大屋根が崩落する。その間、完全に公演ができなくなりました。どうしたかというと、三越ホールを借りたんです。名前が変わって、今、三越劇場になっていますが、それもあって、三越と歌舞伎というのは縁の深い会社ということです。

その歌舞伎座の事業は何かということなんですが、去年の有価証券報告書にはこう書いてあります。

(1)不動産賃貸事業当社及び歌舞伎座サービス㈱は、土地と建物を所有し、これを賃貸しております。なお、劇場歌舞伎座の劇場の敷地は松竹㈱等より一部賃借しており、同敷地について共同事業主であるKSビルキャピタル特定目的会社へ賃貸しております。また、当社は劇場を松竹㈱に賃貸しております。

(2)食堂・飲食事業歌舞伎座サービス㈱は、主に劇場内及び地下広場において食堂・飲食店舗を営業しております。

(3)売店事業歌舞伎座サービス㈱は、主に劇場内及び地下広場において歌舞伎関連商品を販売する売店を営業しております。

(第94期=2017年度 有価証券報告書より)

あれ? 芝居、何も書いてないですよ。有価証券報告書をコピーしていますから、まんまです。これ以上のことはやってないです。つまり、不動産と食堂飲食事業と売店しかしていない会社なんです。演劇はやってないんだろうかと思うじゃないですか。演劇は松竹がやっているんです。歌舞伎座株式会社は、不動産屋なんですよ。ちなみに親会社の松竹は、100%子会社をいっぱい持っています。松竹芸能とか松竹撮影所、歌舞伎座舞台という大道具の会社……歌舞伎関係の子会社がいっぱいあるんですが、どういうわけか歌舞伎座だけは13%しか持っていないという不思議な状態なんです。それにはいろんな理由があるんですが、そこまで話すと株式講座になっちゃうんで、やめておきましょう。

歌舞伎座の構造

ちょっと、話題を変えましょう。その歌舞伎座を作る時にいくつか大きな装置を入れました。歌舞伎座で使われているもので、次のものから連想できるものって、何でしょう。

大阪万博のジェットコースター(ダイダラザウルス)
各地の病院のエレベーター
国技館の土俵と屋形
札幌ドームのピッチャーマウンド< /p>

(廻り舞台。)

そうです、廻り舞台です。巨大な廻り舞台を実は歌舞伎座が持っています。直径18.2メートル、高さ16.5メートルの円柱がグルグル回るわけですね。円柱の体積、自分で計算したんですが、4,197㎥。体積は、小学校の25メートルプール12個分だそうです。重さが360トン。それを作っている会社が他に何を作っているかというと、大阪万博のジェットコースターとか、病院用のエレベーターとか、土俵。札幌ドームのピッチャーマウンドまで作っているらしいですが、三精輸送機(現・三精テクノロジーズ)という会社が作ってるようです。構造をちょっと見てみましょうか。断面図です。

すごいですよね、客席、これしかないんです。舞台も、客席から見えているのは一部だけです。廻り舞台は、こんなに大きい。その下に駐車場があって――ちなみに、歌舞伎座のトイレは混んでいますが、駐車場に行くエスカレーターがあって、降りたら駐車場専用のトイレがあって、いつでもガラガラ。降りたら、すぐに入れます。これだけでも得しましたね、今日。地下広場は、売店がいっぱいあるところ。いかに奈落が大きいかわかりますね。以前、市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)さんが奈落に落ちて大ケガをしましたけど、これを見たら、大ケガするのがわかります。

歌舞伎座の株式の話に戻ります。いよいよ本格的にビジネスマン用になってきました。今日12 19日現在の株価は5,720円になってます。買えます、当たり前ですが。100株単位ですから、5,700円に100掛けて、57万円ですね。もしこれを1,000株持ってるとすると、150株でも貰えると思うんですけども、優待券を貰えます。年間ずっと株式を持っていると、一等席、18,000円の席を年間8枚貰えます。144,000円に相当します。ということは、配当が2.5%来ることになる。配当利回りが0.9%なので、足すと、3.4%ぐらいになります。もしかして、日本でいちばんいい株じゃないかと、歌舞伎ファンは思うはずです。過去の最低株価と最高株価を見ると、ものすごく幅が狭い。つまり、ほとんど誰も売っていない。個人株主が多いんです。実は、いちばん安かったのが、2010年冬から2,011年冬。3,300円くらいでした。理由がありまして、この時、歌舞伎座が建て替えになります。3年間売上げが立たないから、機関投資家が売っちゃったんですね。個人株主は今だとばかりに買いました。

その時に歌舞伎座がやったことがすごくて、この時、株持っていた方いらっしゃいます? 間違っていたら訂正してほしいんですが、この時、取り壊す檜の舞台の板を木片に変えて、焼印入れて、株主優待に配っただけじゃなくて、株主優待として、俳優との語らいの会をやったんですね。初回が、亡くなった中村富十郎さん。アナウンサーの山川静夫さんが司会で、歌舞伎座からすると、600人ぐらい来るかなと思ったらしいんですが、1,200人。その時の株主の4分の1が来たそうです。結局、朝晩2回やったそうです。それ以外に、三津五郎さんとか福助さんの会もあって、それだけかなと思ったら、最後はついにこけら落とし、記念式典にご招待だったんです、1,200人。すごいでしょう。お金で絶対に買えないですからね。それで、歌舞伎座がオープンになった時に、株式が吊り上がったわけです。つまり、もしもみなさんが、2010年5月に3,550円で、1,000株買っときます。355万です。次の3年間、歌舞伎俳優を囲む会も無料で出て、さらに、歌舞伎座が開場した13年から18年まで、今年まで5年間歌舞伎をやってるんですよね。1年間8枚ですから、計40回、1階席で見物できて、今の株価が572万円になってるという。すごくないですか。もし買っていたら、350万のものが590万になったのにプラスして、芝居を40回観られた! 僕買ってませんでした。どちらにしても、歌舞伎座の株式がそれほど上下しないのは、個人株主が非常に多いからだと言われているようです。

親会社の松竹とくらべると

一方で親会社の株式のほうです。現在、1万円ちょっとです。松竹の株式も実は1,000株で優待券8枚しか貰えません。同じです。歌舞伎座のほうが得ですね。ただし、松竹の場合は映画も観に行けますが、どっちがお得か考えてみると、歌舞伎座かもしれませんね。松竹はどういう仕事をしているのかを、ちょっとお話ししましょう。先ほど、歌舞伎座は不動産屋さんだという話をしましたが、株主から見るとそうではなくて、とんでもなくいい優待をくれる会社というイメージになりますが、松竹さんの場合は、映画と演劇と不動産をみんなやっています。その意味では、松竹というのは大きな会社ではあるけれど、歌舞伎ファンとしては、他の事業もやっている会社であるという意味で、株としてはおススメしないという感じですね。

新作歌舞伎

もうひとつお話をしますと、有価証券報告書から抜粋した文字です。

〈演劇業界は、依然としてお客様が公演を厳しく選別している状況が続いています。その中で、お客様の嗜好に合致した公演・企画を実現させていくとともに、現状の観客動員を維持しながら、新たな販路を開拓していくこと、また、多様な規模の新しい劇場やホールの建設・開場が決定され、今後の興行多様化に注力していくことが課題となりました〉

課題はどういうものかを書いているんですね、必ず有価証券報告書のなかに。〈演劇業界は依然としてお客様が公演を厳しく選別してる状況〉とあります。「そのなかで、お客様の嗜好に合致した公演企画を実現していくとともに……」と言ってますから、頑張るつもりなんですね。嗜好に合致しないといけないと思っているわけです。多様な規模の新しいビジョンを作らないと、会社は大変だというわけですね。その結果どうなったかというと、示したのは、17年から18年の新作歌舞伎です。それが、「お客様の嗜好に合致したものをどんどん作って」いるというわけです。

2017年
2月六本木歌舞伎 市川海老蔵と寺島しのぶ「座頭市」(リリー・フランキー作)
4月赤坂歌舞伎座 中村勘九郎・七之助の「夢幻恋双紙」
7月歌舞伎座   市川海老蔵と勸玄「駄右衛門花御所異聞」
8月歌舞伎座   市川猿之助「歌舞伎座捕物帖」と「野田版桜の森の満開の下」
10月歌舞伎座   尾上菊之助「マハーバーラタ戦記」
10月新橋演舞場  市川猿之助「ワンピース」

2018年
8月新橋演舞場   市川猿之助と片岡愛之助「NARUTO

NARUTO」、リリー・フランキー作「座頭市」、「マハーバーラタ戦記」とか「ワンピース」。歌舞伎なのか漫画なのかわからないという感じですが、実はおもしろいんです。新作歌舞伎。おススメです。「NINAGAWA十二夜」っていうのがおもしろかったですし、「マハーバーラタ」も観に行く価値はあります。松竹さんとしては、新作歌舞伎をどんどん出して、新しいビジョンを出していくというわけです。ちなみに、「NARUTO」は忍者漫画ですね。全世界で14000万部売れたそうです。

ところで、京都の南座。祇園町のほぼ真ん中にあります。南座も歌舞伎が増えてきました。昔はそうでもなかったですが。2019年の9月までの演目です。

2月    KYOTO EXPERIENCE!
3月    坂東玉三郎特別公演
4月    都をどり
5月    京都ミライマツリ2019
6月    新作歌舞伎NARUTO
8月    超歌舞伎公演
9月    花形歌舞伎

1月は松竹新喜劇から始まります。これは恒例なのでしょうがないんですが、他の月はこれだけ歌舞伎が増えているんですね。坂東玉三郎の特別公演とか。超歌舞伎公演というのがあって興味津々です。

これで前半、ここで1回締めたいと思います。後半は、もうちょっと別の、たとえば、外国人にどうやって説明したらいいのかとか、初心者が持っていたほうがいいと思われるものは何かとか、本に書いたことを広げてお話ししていきたいと思います。

前半の最後にこれだけ出して、考えてもらいましょうか。歌舞伎手帳2018のなかから手で拾った数字です。あいうえお順で、役者や関係者の名前が出てます。「あ」は誰なんだろうとか、「い」はわかりますよね、何となく。じゃ、「き」と「た」は誰でしょうとか考えながら、どうぞお休みになって下さい。

歌舞伎関係者の名前

                                               6                                    
           73                                   1                                     13
           41                                   16                                  
           39                                   109                                
           30                                   1                                    
           14                                   31                                  
                                               1                                     415
           18                                   4                         

圧倒的な「な」の存在感

みなさんおわかりになりましたか?「い」は?

(市川。)

じゃあ、「あ」は? 「あ」は演出家の名前なんで、べつに。でも、「あ」はそうか、嵐橘三郎がそうですね。思い出しちゃった。「お」は?

(尾上。)

「か」は?

(片岡。)

そうですね。「き」は? 歌舞伎手帳2018から取ってるので、「き」意外と多いんですよ。これね、「杵屋」ともうひとつ、演奏のほうの。「清元」です。「き」は不思議なことに、両方とも音楽のほうですね。「た」も意外とわからないんですよね。

(田中?)

田中傅左衛門さんのところですね。鼓、太鼓、兄弟2人が田中ですね。もうひとつ「た」、先生方?

(竹本?)

当たり! 「竹本」と「田中」。「き」と「た」は、両方とも演奏家なんです。これ以外に演奏家いないんです。いたとしても、大きな名跡になってないですね。「な」はもうおわかりですよね。「な」は多いです。「中村」。「ば」は? 「ば」って言ったらバレちゃうな、坂東ですね。「ま」は?

(「松本」。)

そうです、松本です。この大名跡と言いますか、大きなファミリーだけで、415のうちのほとんど、という感じですね(笑)。1人の方もけっこういるんですが、演出家とかが多いので、ちょっと置いときましょう。後半は人にスポットを当てようと思ったんですが、今言ってたのは演奏家と役者ですが、それ以外に裏方さんがいるんですね。会社の名前で言っとくと、こんなことになります。

歌舞伎の裏方
<仕事>            <代表的な会社>
 大道具     歌舞伎座舞台
 小道具     藤浪小道具
 衣装      松竹衣裳
 床山      東京鴨治床山株式会社
 緞帳      川島織物セルコン

これは代表的な会社ということです。藤浪小道具とか、松竹衣裳とか。大道具の歌舞伎座舞台は、「歌舞伎美人(かぶきびと)」を見ていましたら、80名ぐらいいらっしゃるんだそうですね。舞台課とか、製作課とか、第1美術、第2美術とか、いろいろな課がある。松竹のなかにも、舞台部、製作部、背景部っていうのがあるんですが、その舞台部にいる専門職というのがひとつあって、附け打ちをやる方。もうひとつは幕引きをやる方。これは全部大道具さんです。小道具のほうですけど、この藤浪小道具さんっていうのは、ものすごく古いんです。明治5年あたり、市村座から独立した道具屋さんで、前の社長の先々代が明治のドタバタの時に刀を小道具屋に集めたんだそうです。数万本、刀を集めたというんですね。今もあるんですかね。研げば切れる刀ですから、数万本ってすごいと思うんですね。浅草にありまして、地下1階、地上3階の大きな蔵だそうです。衣装は松竹衣裳さんですね。花魁の衣装がすごく重いっていうの、もちろんご存知でしょうけど、33キロあるそうです。これ、辻和子さんの本に書いてありました。読んだほうが早いと思います。それからもうひとつは床山さんですね。緞帳ですが、調べましたら、5,000万円ぐらいだそうです。川島織物セルコンで作った時、28.4メートル×7.65メートル、重さが1トンだそうです。すごいですね。で、25メートルの織り機に入らなかったというんですから、ものすごい横長の緞帳を使ったことがよくわかります。こういう裏方さんがいて成立するということなんですが、話を少し経済というか、ビジネスマンに戻ります。ビジネスマンですから、お金の話になります。

1両はいったいいくらか?

江戸のお金の話なんですが、よく出てくる「両」とか「分」とか「朱」とか、「文」、「匁」ですか。どのくらいの金額かおわかりになります? 1両はどのくらいですか。

(1万円。)

近い。といっても諸説あって、本当は近いというよりも、そうかもしれないし、だいたいそのぐらいらしいです。分は何分で1両ですかね。4分で1両ですね。1両の4分の1。朱はやっぱり4です。4朱で1分。ですから、1朱が1/16両です。文がややこしいですが、以下が成毛式の江戸のお金の考え方です。

1文を20円とする        銀1貫は銀1,000

1両が6,000文として12万円   1両は銀60匁→銀1匁は2,000

4分で1両→1分は3万円     1匁は3.75グラム

4朱で1分→1朱は7,500

これを知っておくと、歌舞伎だけじゃなくて、時代劇を観る時にすごい親近感が湧きます。魚屋の主人に「ちょっと1朱渡しとくぜ」って言えば、「1朱っていくらだろう」ってわかると便利ですよね。僕の場合は、今、1文を20円としています。理由がありまして、二八そばは16文ですから、20円とすると320円。今、富士そばに行って、かけそばを食べると300円ですから、ピッタリ同じじゃないかという理屈です、ざっくり言ってそこです。それで、1両が6,000文、6貫、1貫が1,000文ですから6,000文。これ、江戸の初期は4,000文だったそうです。諸説あるんですが。諸説あるのは、いつから6,000になったのかについて、諸説ある。最初は4,000確定です。それから、両がだんだんインフレを起こすんですね。ですから、銭のほうが価値がなくなっていく。逆に言うと、金のほうが価値が高くなっていって、最後、幕末は6,500文ぐらいになったそうです。

歌舞伎をご覧になる時、天保年間あたりの河竹黙阿弥の世話物を観ると、だいたい1両6,000文です。だとすると、1文20円×6,000ですから12万円という計算になります。いろんな本に10万円とか8万円とか書いてあるんですが、8万という本は4,000文で計算しています。これは歌舞伎用ではなくて、江戸初期の享保より前、そのあたりの物価を考え合わせると、それで正解なんです。江戸といっても二百何十年もあったわけですから、当然お金の価値も変わっていった。江戸の世話物にお金が出てくることが多いので、その時はこの換算がいいということで、成毛式と言ってます。1両は銀60匁というのは、変わらないです、江戸の間中。ですから、1文20円として、1両が6,000文だとすると、1両12万円ですね。けれども、1両は銀60匁と決められていますから、60で割ればいいので、1匁2,000円ということになります。当時の大工の1日の手間賃が5匁といいますから、ざっくり言って1万円ですね。さっき言ったように、ひと月、休みは1日と15日と28日ですから27日×1万円、ひと月のお給料が27万円。案外、今と変わらないですよね、そば屋の値段も、大工の手間賃も。したがって、1分は、4分で1両ですから3万円。4朱で1分ですから、1朱は7,500円。よく、時代劇を観てると出てきますよね、銭じゃなくて、四角いお金をペッと置いて、「これで釣りはいらねえ」とか言いながら、よく中村吉右衛門さんが「鬼平犯科帳」とかでやってるじゃないですか。あれたぶん、1朱なんですよ。もしくは2朱銀か。そうすると辻褄が合うんです。3人ぐらいで行って、酒をちょっと飲んで、飯を食ったり、おつまみ食って、「釣りはいらねぇ」って、合計7,000円でだいたい合いますよね。あれが1分だと、いきなり3万円ですから、ちょっと合わないかなっていうので、「なるほどね」っていうのがわかります。

なぜお金の話をしているかというと、歌舞伎のなかにも当然いっぱいお金が出てきます。「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」という、僕がかなり好きな演目なんですが、これは片岡仁左衛門さんに言わせると、ゾクッとして、非常にシュールな演目なんですが、源五兵衛という主役が女に騙されて金をまきあげられて、その女を殺して首を自宅に持って帰って、卓袱台の上に置いて飯を食うという……わぁと思うんですが、この時に騙し取られたお金が100両です。ですから、小万というその女がまきあげたのは1,200万ですから、これまた現代的に、まあそんなもんだろうなと思う。50万じゃ、首取って云々はないかな、そんな感じですかね。ちなみに、「盟三五大切」は「忠臣蔵」のスピンオフですから、主人公は実は不破数右衛門だというオチがつくんですが、ご承知の通り、歌舞伎は「実は」が多いので、いったいあなたは本当は誰なんだかって思います。演目によっては「実は」だらけになっちゃう。

落語のほうが有名かもしれませんが、「文七元結(ぶんしちもっとい)」は、鼈甲(べっこう)屋の手代、文七がお金をすられたと思って、橋の欄干から飛び降りようとするところを左官の長兵衛が助ける。その時、大晦日、長兵衛は自分の娘を吉原に売ったお金を持っていて、それまで会ったこともない文七に渡して命を助けるというお話で、落語から芝居になったものです。この時、文七がすられたと思ったお金が50両、600万円でした。三遊亭圓朝が作った落語ですから、明治の初期なので、だいたい金銭感覚が合っているはずなんです。何を言ってるかというと、大店の手代が、大つごもりに集金に行って回収してくるお金が600万だったということなんですね。そんなに小さくもないお金を、大つごもり(=大晦日)に動かしていたことがよくわかります。大店の手代の数というのは、店(たな)の数と手代の数を計算すると、江戸市中に2,000人もいて、それぞれが600万ずつ持っているとなると、すごい金額が実は動いてたんだな、なんていうのを歌舞伎観ながら考えることではないなと思いながら……。

「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」もそうです。これが100両です。おとせという夜鷹がお客さんの忘れ物を届けに行くと、三人吉三の一人、盗賊のお嬢吉三に殺されますが、この時、殺されて奪われたお金が100両。だいたい100両が多いです。ちょっと桁が大きいのが、「河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)」のお話です。数寄屋坊主の河内山は質屋の上州屋というところに出入りしていて、その質屋の娘を助けるために仕事を引き受けます。質屋ですからお金持ちだった。その質屋の娘はある殿様のところに腰元でいっていて、手籠めにされそうになり、殺されることになるんですが、その時に、それを解決してくれと質屋は河内山宗俊に頼みます。この頼んだ時の手数料が200両ですから、2,400万円。すごいですね、誘拐というか、「2,400万で解決してくれ」というお願いをするわけですから。これもおそらく当時の金銭感覚なんですね。つまり、質屋はお金持ちであり、(将軍や大名の世話をして調度を整える)数寄屋坊主はそのぐらいのお金を動かしていた、そんなことなんだろうと思います。

そば屋を舞台にした「直侍(なおざむらい)」を観に行くと、ちゃんとおしながきに「16文」って書いてありますから、ああ、おもしろいな、ほんとうに16文なんだなと思います。その時の直侍のセリフが、そば屋のおじさんに「天をくれ」。天そばのことですよね。するとおじさんは「天は山になりました」って言うんです。天そばの天ぷらがなくなりました、「山になりました」って、売り切れなんですね。そのかけあいが大好きで、いつか飲食店やったら、お客さんが来て、「おやじ、焼き鳥くれ」「焼き鳥は山になりました」って言ってやりたいんですけど、そこまでの勇気はないです。

落語の「大工調べ」で大工の与太郎が滞納したのが家賃でして、1両2分だと出て来ます。ですから、18万円ですね。これは半年分なんだそうです。ひと月3万円。さっき言ったように、大工の日当が1万円だから、ざっくり言って、ひと月25日働いたとして25万円。大工は雨だとお金が貰えない。そこから3万円の家賃です。あとは、「火焔太鼓」という、わらしべ長者みたいな落語がありますが、最後に火焔太鼓という太鼓を殿様が買うことになるんですが、その金額が300両です。3,600万だった。すごいですね。「宿屋の富」という落語は、富くじのお話です。富くじが当たって大騒ぎになるわけですが、さて、その富くじの当たりはいくらだったでしょう。

1,000両。)

そう、1,000両です。1億2,000万。実際には1億2,000万ではなくて、勧進元のお寺とかにそのうち何%とか払っていくんですが、実際には江戸の場合、富くじは10人ぐらいで一緒に買ったそうですね。それで分配する方法だったらしいんですが、それでも、1億2,000万って……。最近の年末宝くじって10億ですか? それ以外は1億ぐらいですか。現代と江戸って、そんなに変わらないですね。一般的な宝くじは1億だし、富士そばは320円だし、そんなに変わらないんだなと思いますよね。

江戸の見物料

では、見物料はどうかという話ですが、201812月の歌舞伎座の見物料です。

桟敷席   2万円
1等席   1万8,000
2等席   1万4,000
3階A席 6,000円
3階B席 4,000
幕見席  『阿古屋』2,200円 『二人藤娘』800

こんな感じで、みなさんお支払いになっていると思いますが、天保年間はいくらだったかというと、桟敷で35匁(1間一日見で7万円)だったそうです。さっき言いましたように、桟敷で、舞台に近いところはもう少し安くなります。25匁ぐらい。舞台からうんと離れると15匁とかで、ど真ん中のいちばんいい席が35匁だそうです。江戸年間通じて、100匁ぐらいまで上がったことがあるらしいんですが、禁令が出て下げるんですね。それでだいたいこのぐらいだったそうです。桟敷ですから、枡席といっしょで何人かで座れるわけです。3人で座ったとして計算すると、一日23,333円ですね。あれ、またこれも1等席と一緒じゃないかと思いますが、今の歌舞伎座は二部制ですが、この時は一日じゅう観ていられるので、江戸のほうがお得です。土間と言われる、今の歌舞伎座の1等席ですね。これが12匁ですから24,000円。ただし、これも桟敷で借りきれますから、3人で観たら8,000円とかになるわけです。ざっくり言って。6,000円の3等A席とか2等席とあんまり変わらない金額です。切り落とし(?)というのがあって、3人で借りられる枡席の人もいるでしょうし、そうじゃない人はどんどん入れられて、最終的には8人が詰め込まれるっていうんですから、その場合は1人132文だったと言いますから、2,640円。幕見の席とほぼ一緒なんです。調べれば調べるほど、江戸の物価、とりわけ歌舞伎にまつわるものはそんなに変わらないのかなという気もしなくもないです。

後輩ビジネスマンへの助言

先ほど、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』という本を書いたと申しましたが、このなかで、初心者のビジネスマンに言っている、〈歌舞伎を説明する時にどう説明するか〉、つまり、40代ぐらいの部下と飲みに行って、「何が何でも歌舞伎観ろよ」と言う時に、どう説明するかというと、こういうふうに説明します。

「歌舞伎はお花見なんだ」と言っているんです。かつ、「運動会でもある」と。運動会であって、大相撲であって、フェスティバルです。ロックコンサートと違って、総立ちしないから疲れない。スタンディングオベーションもない。クラシックみたいに、終わったかなと思って1人だけ手を叩いちゃうということもない。客席でお弁当を食べるから、花見と一緒です。他の演劇とか映画で、客席でお弁当食べたりしないですものね。ウトウトしてもいいんです。かなり寝てます。いびきはダメですが、寝ちゃってオッケー。子どもたちの頑張りを観に行くっていうのは運動会と一緒ですよね。子役を見るとき、僕、まるでおばさんなんですよ。「いやぁ、千之助君、大きくなったわね」って。中村芝翫さんのところの橋之助、福之助、歌之助の3兄弟、可愛かったですよね。市川海老蔵さんのところの勸玄君、可愛いですよね。中村勘九郎さんのところは勘太郎と長三郎。これまた可愛い。尾上菊之助君のところは和史君(現・七代目尾上丑之助)ですか。市川中車さんには團子君がいる。今、子どもたちがいっぱいいるんですよ。花形もいっぱい。菊之助と海老蔵と染五郎とかね。今、歌舞伎はほんとうにいい時期にあると思うんです。あと10年経つと子役が声変わりしちゃうので、出にくくなって、もうちょっと大きくなって戻ってくる。今、ちょうど橋之助世代が舞台に戻ってくる。子役のお父さんたちも、いちばん男の色気があるような、いい時だと思います。ぜひ観られるといいと思います。

もうひとつは、それぞれの年代によって、同年輩の役者を観に行く。先ほども早野先生と話したんですけれど、ここ最近の中村吉右衛門さんの活躍ぶりというか、出ずっぱりに出てるわけで、同年配の人が見ると励まされますよね。俺も頑張んなきゃって。20代の人、30代の人、みんな同じ年代がいる。僕の場合、同い年生まれは、勘三郎と三津五郎さんです。全員、僕を一緒にするのは変ですけど、たまたま1955年です。ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも1955年です。すごくないですか。ともかく、同年輩を観に行くというのはけっこう大きな楽しみかもしれません。すべての年代いますから。6歳から70代まで全部いるので。

「一日がかりの非日常だよ」とも言います。家を出る時から帰るまで、とても日常的ではない。東銀座の駅から出て、あの「地下のお祭りか?」みたいなところへ続くわけです。出るまで非日常ですよ。とても普通じゃないって、言い方変ですけど、ちょっと普通じゃない。その意味で「一日がかりの非日常」と言ってますが、実は歌舞伎座に行く時は、東銀座の駅からじゃなくて、おススメはやっぱり銀座の駅から歩いて行ったほうがいいんじゃないかと思います。毎回買うのは、三越のデパ地下で柿安の牛肉弁当。それを持って歩いてると、ほんとワクワクしてきますね。この非日常は遊べるよって、後輩たちに言ってます。

最後に、ご贔屓の役者に惚れるということなんですが、これも難しく考える必要はない。テレビに出ている人だから、というのでいい。そういうレベルで好きになるというか、興味を持つので十分で、やれ、あの役者はどこが上手いとか演劇の話をする必要はない。あの役者の子どもは可愛いとか、そういうレベルで十分で、その手のご贔屓というか、興味ある役者をいかに持つかというのが大事だといつも言ってるんです。歌舞伎役者は400人ぐらいいるわけですから、そのなかから1人か2人、ファン投票したらこの人みたいな感じで観ているだけでも歌舞伎は楽しめるよと、そういう話を必ずしています。

同じように、「歌舞伎から出た言葉」というのを、必ず部下に話します。ご存知だと思いますが、こんなにいっぱいあったんですね。

愛想つかし 十八番 正念場 のべつ幕なし 板につく 御曹司 捨て台詞 花形
一枚看板 切口上 千両役者 幕の内弁当 市松模様 口説き だんまり 幕を引く
裏方 黒幕 ドサ回り 見得を切る お家芸 杮落とし とちる めりはり
大立ち回り 差金 黒子 どんでん返し 大詰め 三枚目 なあなあ
大向こうを唸らせる 大喜利 二枚目 助六寿司 おはようございます

「おはようございます」も歌舞伎用語です。僕もたまにテレビに出ることがありますけど、楽屋に行くと、夜でも「おはようございます」です。これは歌舞伎用語です。「おはよう・ございます」は「おはようお着きでございます」。「助六寿司」はご存知ですよね。揚巻(あげまき)の揚げと、海苔巻きで、揚巻ですから、助六です。今日お越しの方で、けっこうゴレンジャー世代いるんじゃないですか。何とか戦隊ゴレンジャーが「白浪五人男」ですね。ゴレンジャーができた時に、「白浪五人男」をイメージしたかどうかは知りませんが、はっきりわかっているのは、ゴレンジャーの殺陣をやっていた殺陣師・高橋一俊さんが、ゴレンジャーに対して、「5人揃って(ポン)ゴレンジャー!」っていうのは「白浪五人男」をパクってみたと言ってますから、そうなんだなと思います。それ以降、ゴレンジャーのやり方は、今ですと、アメリカのハイパーレンジャーとか、みんな一緒なので、あれ、5人出てくる戦隊物は、日本だけじゃなくて、アメリカとかでも全部「白浪五人男」だと思って見るだけでも面白いですね。

外国からのお客さんへの説明

では、これを外国人にどう説明するかです。外国の人が来た時に言ってるのは、これ、実はネタ本がありまして、永竹由幸さんというオペラ評論家が書いた本で、『オペラと歌舞伎』です。水曜社から出ています。すごいおススメです。面白いです。オペラの評論家としては最強の人である永竹さんが、イタリアオペラと歌舞伎がどれだけ似ているかを書いてます。『新版オペラと歌舞伎』が発売されたのが2012年5月の26日ごろですが、その月の9日に永竹さんは亡くなっちゃたんですね。亡くなってから発売されたのが、『新版オペラと歌舞伎』という本で、それまで、永竹さんは主にオペラのことを書いていたのに、絶筆みたいになったのがこの本で、このアナロジーを非常に詳しく書いてます。永竹さんは三井物産のミラノ支店長などとして、ミラノに11年ぐらいいたのですが、慶應の高校時代に市川猿之助(現・猿翁)の「宝島」という新作歌舞伎の作曲をしてるんですね。慶應の大学に入ってからオペラ研究会を創設して、オペラの演出をしているんです。それで、どうして商社に入ったのかわからない。そのまま演劇界にいたほうがいいんじゃないのと思うんですけれども、商社に入ってミラノに行って、歌舞伎からオペラに行って、最後には昭和音楽大学の教授になって、『新版オペラと歌舞伎』が遺作です。非常に興味深いと思います。読んでいただければと思います。

外国の方に対してどう言うか。「歌舞伎いいぞ」とか、「日本独特だ」と言っても、そりゃそうだろうと思われるだけですよね。見た瞬間に、「あ、独特だね」と思いますから。なので、他の意味で考えると、こんな感じですね。つまり、歌舞伎というのは商業演劇として400年も続いている。つまり、政府のお金が入っていないどころか、江戸時代にはやめろとまで言われていました。給金は下げられて入場料も下げられて、初期の頃には女優はダメだと言われて今に至るわけですが、そういう意味で、今でも政府の資金が入っていない稀有なものですよと。しかも、セリフが江戸時代から変わっていないので、日本人の99%は何を言ってるのかわからない。歌舞伎座に行く人は1%ぐらいしかいないので、歌舞伎座に行く人は知っているという前提なんです。年間132万人しか行かないということは、歌舞伎座に行かない人が99%です。しかも、僕の場合、12回行くんですから。そうすると、132万人÷12。えっ、11万人しかいないの、歌舞伎観る人って? と思うわけです。おそらく普通の人は「直侍」を観てもわからないですね。江戸弁が入ってますから。落語を見ている人は大丈夫だと思いますが。わからない人もいますよっていう話をすると、なるほどと言われます。

考えてみると、シェイクスピアの演劇は古英語を使ってやるとニュースになります。イギリスの何とか市で、シェイクスピアが書いた戯曲のまま「ロミオとジュリエット」を古英語で上演します、なんてニュースになるぐらいですから、それに比べると、歌舞伎はすごいですよ。ずっとやってる。昨日もやってるし、今日の朝もやってましたっていう、そういう感じなんですね。そう言うと、「あ、そうなのか。シェイクスピアと同じころ、1600年ぐらいにできて、われわれが理解できない古英語で上演する演劇は少ないけれども、歌舞伎の場合はありますよ」って言うと、驚くことになります。

外国の人を連れてきて、すごく驚かれるのは、大向こうですね。あればっかりは驚きますね。これはほんとうに特殊な、スペシャル・オーディエンスで、「a part of KABUKI PLAY(歌舞伎の一部)」だと言うと、「あ、そうか」っていう感じになります。

あと、歌舞伎の音楽はペンタトニック(5音、ドレミソラ)だというと、そこそこ知識のあるアメリカ人ならわかります。日本の音楽には金管楽器がないので、ユニゾンでやってるんですね、だいたい。オーケストラの場合ですと、第1バイオリン、第2バイオリン、それぞれ同じ旋律を弾いてますよね。三味線も同じ旋律を弾いているので、外国の人は、日本の音楽って全部ユニゾンじゃないかと言うんですが、いやいや、クラシックだって実はそれぞれのパートはユニゾンで、邦楽は種類が少ないよねっていう話をすると、わかるようです。

もうひとつ、アメリカ人に歌舞伎って言うと、99%はカブキブラシというのを思い出すと思います。amazon.co.jpじゃなくて、amazon.comkabukiとローマ字で入れると、これがたぶん先頭に来ます。これ、すごく売れている。さっき調べたら、1万200件レビューがついています。僕、実は『アマゾン』という本を書いて10万部売れたんですが、この時のレビューが50本ぐらいです。ということは、500本で100万、50001000万、2000万本ぐらい、たぶん売れてます。ところが、このカブキブラシ、歌舞伎役者は使っていません。毛先は同じようなのを使っているんですが、歌舞伎役者が使うのは、持ち手がもっと平たい。靴のブラシみたいなやつです。あれ、どうやって化粧しているんだって聞かれるんです。花街でも、歌舞伎に連れて行っても。真っ白じゃないですか。理由は説明しますよね、昔、ロウソクがなかったから真っ白にしたんだと。どうやってやるんだと聞かれて、よく説明するのは、歌舞伎役者は化粧下地油といって、ひまし油、鬢付け油を顔にべったり塗っています。それに練り白粉を塗って、さらに粉白粉をかける時にこのカブキブラシで襟元とかをやる。鬢付け油ってひまし油を固くしているものですから、最近、ひまし油が売れ始めていますね、肌の調子がよくなるっていうんで。ちなみに舞妓さんは木蠟(もくろう)となたね油を一緒にしたものを使っています。その下地以外は歌舞伎と一緒ですね。もしも歌舞伎役者が実際に使っている化粧品類を買いたい時は、有楽町の東京交通会館に三善(みつよし)という店で売っていますので、ご覧になると面白いかもしれません。

もうひとつ、外国の人が来た時には必ず、歌舞伎座のはす向かいの大野屋の手ぬぐいを案内しています。古い木造の佇まいですが、大野屋の手ぬぐいはいい感じです。

参考図書

参考本を4つ挙げておきます。

『歌舞伎の解剖図鑑』辻和子(エクスナレッジ社)1,600円
『新版 オペラと歌舞伎』永竹由幸(アルス選書)1,728円
『江戸歌舞伎役者の〈食乱〉日記』赤坂治績(新潮新書)734円
『ビジネスマンへの歌舞伎案内』拙著(NHK出版)799円

人に勧めるのは、いつもこの4冊にしています。辻さんの解剖図鑑は、初めての方から中級者まで、歌舞伎の全体像を見るのに、たぶんこれ1冊でいいんじゃないでしょうかね。『オペラと歌舞伎』もかなりおススメです。でも、これイタリアオペラとだけの比較だから、モーツァルトはどこに行ったんだろうとか疑問は残るんですが、それも含めておススメです。『江戸歌舞伎役者の食乱日記』は、初代ではなくて、三代目の中村仲蔵の食の記録です。初代の中村仲蔵は大きな名代になるんですが、三代目の仲蔵は食通だったというよりもメモ魔で、江戸の歌舞伎役者が毎日何を食べていたかを延々と書いていて、非常におもしろいと思います。あとは、拙著です。

実は「歌舞伎座さよなら公演DVDセット」というのをつい買ってしまいました。20万円(税抜)で、箱がかなり大きいです。ハイビジョンじゃないので、粗いんです。にもかかわらず、観ちゃうんだな、これが。4月の最後の「助六」なんか4回ぐらい観ました。とりわけ、勘三郎の通人が出てくるところなんかはもうね、いやぁ……って言いながら、酒飲んで観ると泣いちゃうんですよね。だってね、みんないないんですもの。先代の芝翫さん、富十郎さん、三津五郎さん、勘三郎さん、團十郎もいないでしょう。こうやって話していても泣きそうになります、ほんとに。何で死んじゃったんだよ、みんなって。これ、メチャクチャ豪華ですよ。前の歌舞伎座が終わったとき、最後の4月の公演、行かれた方は思い出しますよね。すごかったです。「連獅子」、勘三郎、勘太郎、七之助ですよ。「三人吉三」も團十郎がいます。「先代萩」が芝翫さん。「助六」が團十郎と勘三郎ですからね。涙なくして観られないですね。

と、お話ししてきましたが、細かいことを覚えれば覚えるほど歌舞伎がおもしろくなります。違いがわかれば、自分が成長したという気持ちじゃないんですが、こんなにおもしろいことだったのかというのがどんどんわかってくる。お茶屋で遊ぶには、少なくとも2、3年かからないとおもしろみがわからないと言われますが、歌舞伎もやっぱり2、3年ぐらいかかるのかなと思います。自転車と一緒で、1回覚えてしまえば一生使えるという意味で、ぜひこれからも歌舞伎をお楽しみいただきたいと思います。以上でございます。どうもありがとうございました。

受講生の感想

  • 歌舞伎の魅力を再認識することができました。

  • お金から考える歌舞伎……想像したこともありませんでした。
    歌舞伎にはいろいろな面があることがよくわかりました。

  • 思ってみたこともありませんでしたが、
    いつか歌舞伎座の株主になってみたいです。